第3話「ずっと心臓が痛かった(3)【ソラ視点】」
「何それ、何それ、なんなの! その運命的な再会はっ!」
元インコのムギちゃんと友達になった私は、学生食堂という場所でご飯を食べている。
でも、私は、ご飯を喉に通すことができなくて困っていた。
人間だって猫だって、生きていくためには食べなければいけないって分かっているのにお腹がいっぱいで箸が進まない。
「だって、動物って平均寿命が違うから! 同じ時代を生きた動物同士が巡り合う確率って、限りなく低いんだよ!?」
猫と犬の寿命が重なってしまったのは、私がウミくんを追いかけるように亡くなってしまったからです。
そんな馬鹿正直に前世のことを語ることもできなかった私は、久しぶりの食事を堪能しようと試みる。
「ソラのこと、借りてもいい?」
体を休めていた保健室から、猛ダッシュでウミくんの元から逃げ去った私。
彼は犬時代のときのように、新しい人生が始まっても私のことを追いかけてくるつもりらしい。
「私はムギちゃんとご飯を……」
「どうぞ、どうぞ」
友達になってくれたはずのムギちゃんは別の輪に加わってしまい、私はウミくんにまるで供物のように差し出されてしまう。
「ウミくん! ひど……」
「文句なら、いくらでも聞くから」
無理矢理、食堂から連れ出される。
そのとき、多くの女生徒たちがウミくんに視線を注いでいたことに私は気づいてしまった。
(また、心臓が痛い……)
ここに座って待っててと言われ、私は中庭のベンチに置き去りにされた。
太陽の光を浴びることができる造りの校舎に感動すると、少し心臓の痛みが治まってきたような気がする。
「これなら食べやすいと思う」
ご主人様と、ウミくんと。
日向ぼっこをしたことがあるなーなんて昔を懐かしんでいると、私を置き去りにしたウミくんが戻ってきた。
「昔っから、食が細すぎ」
「違うよ!」
「食べるのが好きじゃないのかと思ってた」
「あれはウミくんが私をいじめ……美味しい」
生前のウミくんへの文句をぶちまけるはずが、ウミくんが私のために用意してくれたお粥の美味しさに感動して言いたかったことすべてが飲み込まれてしまった。
「良かった」
良かったっていう、たった4文字の言葉。
その言葉を向けるときも、ウミくんは優しい笑みを浮かべて私を見守ってくれる。
「……ありがとう、ウミくん」
食堂にいたときは、単に緊張していたのかもしれない。
人間として、初めて食事をするって行為に戸惑っていたのかもしれない。
だから、食べることができなかった。
「お粥、美味しい……ね」
ウミくんがいなくなったあと、どうして食べられなくなったのか思い出そうとすると胸が苦しくなる。
けれど、隣にウミくんがいてくれるだけで、食べることができなかった自分が嘘みたいに変わっていく。
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