3・夏樹への違和感(その1)

 14時台ということもあって、駅前のカフェにいるのは大学生ばかりだ。なにせ真っ当な高校生は授業を受けている時間帯。つまり、今ここにいる俺と夏樹さんは「真っ当ではない高校生」ということになる。

 ──いや、今のはさすがに言い過ぎだ。なぜなら、俺も夏樹さんも、普段はかなり「真っ当」寄りな高校生だからだ。

 遅刻も早退もめったにしないし、授業はちゃんと聞いてノートもしっかりとるタイプ。そのせいで、テスト前になると夏樹さんのノートはしょっちゅう行方不明になるらしい。なんでも気の置けないクラスメイトたちが、机のなかから勝手にノートを取り出して、撮影したりコピーしたりするのだとか。もし、俺がそんなことをされたら、無断で持ち出したヤツを泥棒と認定し、「どういうつもりだ」ととことん追及しそうだけれど、夏樹さんは特に気にしないらしい。「帰るまでに戻ってくればいいから」って、そんなの、どう考えてもお人好しすぎる。まあ、そこが彼の長所でもあるから全否定はできないのだけれど。

 ──話が逸れた。

 なにが言いたかったのかというと、俺も夏樹さんも、どちらかといえばまじめな高校生であるはずだ。

 まじめな高校生は、授業を受けずにカフェでお茶をたしなむようなことはしない。だから、こういう状況はすこぶる居心地が悪いはずなのだ。

 なのに、これはなんだ?

 たしかに、俺は「駅前のカフェに寄りましょうか」と言った。でも、それはあくまでテイクアウト前提の話だ。いちおう「体調不良」という名目で下校したのだから、自宅に持ち帰るのがスジだろう。

 一方、夏樹さんは、最初からイートインのつもりだったらしい。当たり前のように空いていた席に座ると「俺、『3種のベリーパンケーキ』と、アイスの『黒糖ロイヤルミルクティー』ね!」と無邪気な笑顔を見せた。

 これは──どういう意味だろう。

 俺は、オーダーをとりにきた店員じゃない。そもそも、このカフェは、カウンターで注文して「前払い」をするタイプの店だ。


「あの、今のはどういう……」

「だーかーらー! 『3種のベリーパンケーキ』と『黒糖ロイヤルミルクティー』だってば」

「……はぁ」


 これは、いったん俺がまとめて会計をして、あとで夏樹さんの分のお金をいただく、ということだろうか。

 疑問に思いつつも、俺は夏樹さんご所望の2品と、自分用のアイス緑茶を頼んだ。その間、学校関係者にくわさないかとハラハラしたものの、誰にもとがめられることなく、ドリンク2品が提供された。


「パンケーキは出来たてのものをお持ちします」


 緑色の「2」の札を渡されて、俺は座席に戻った。

 夏樹さんの細い背中が、なぜかやけに頼りなさげに見えた。

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