第7話 お泊まり会

 放課後になると、またクラスメイト達が影守の席にやってきた。

「影守さん、私達、今日はあなたの歓迎会を開こうと思うのですけど、良かったらいかが?」

「歓迎会? ですか」

「ええ、きっと楽しいし、クラスに溶け込めると思いますわよ」

「いえ、せっかくのご厚意はありがたいのですが、まだ引っ越しの荷物を片付けていなくて、用事も残っていますので」

「そう、それは残念ですけど、仕方ないですわね」

「では、またの機会に」

 クラスメイト達も残念がっていたが、納得の理由なのでそれほど角は立っていないようだ。影守は私を護衛する任務のために断るだろうと思っていたので、その断り方が無難だったことに少しほっとした。

 おっと、用事があると言った手前、影守がこのまま席に留まっていてはクラスメイト達に不審がられてしまう。私は素早く帰り支度を整え、鞄を持って教室を出る。影守もつかず離れずでついてきた。

 自宅近くまで来て、私は振り返る。

「えっと、影守さんの家はどっち?」

「あなたの隣の家を拠点に確保してあります。ですが、何かあったときにすぐ対応できるよう、今日から二十四時間体制で側にいます」

「え、それって……うちに泊まるってこと?」

「ええ。不自由に感じられるかもしれませんが、あなたの生命と治安維持がかかっています。どうかご協力を」

「ああ、うん、もちろん! じゃあ、お菓子とジュースを買って帰ろう!」

「なぜ? 必要な食料は持っていますよ。私の分は必要ありません」

「そーじゃなくて、お泊まり会をするの!」

 これは決定事項だ。私が夢にまで憧れたお泊まり会。そのチャンスを逃すつもりはなかった。

「お泊まり会……仲の良い女子同士が友人宅に泊まること、ですか。他に誰か招くつもりですか?」

「ううん、私とあなただけだよ」

「それは好都合です。分かりました。ではお菓子を買いに寄りましょう」

「決まり!」

 クラスメイトに見つからないよう、激安業務用スーパーを選び、両手の袋一杯にお菓子を仕入れた。最高に楽しい。

「あきらかにカロリーオーバーですが……」

「いいの。別に一日で食べ尽くそうってわけじゃないし」

「では、先に家の中の反応をチェックします。少し待っていてください」

 影守はスマートウォッチを玄関にかざし、どういう仕組みかは分からないが、家の安全をチェックした。レーダーか何かだろう。

「じゃ、散らかってますけど、どうぞ」

 私は玄関を開け、満面の笑顔で影守を招く。

「いえ、その前に、いくつか装備を運び込みたいので、取ってきます」

「ああ、うん、じゃあ、先に上がって部屋で待ってるね。二階の階段上がってすぐの部屋」

「わかりました」

 部屋を片付けていると、大きなギターケースを担いだ影守が部屋にやってきた。

「へえ、それに装備を入れてるんだ」

「ええ、この時代だとこの格好が一番目立たないということなので」

 ロックミュージシャンに見えない彼女が持っていると少し目立っているような気もするが、銃などの武器を剥き出しで持つよりはマシなのだろう。

「じゃ、私達だけで歓迎会を――」

「いえ、お気持ちはありがたいですが、任務ですので不要です。それに、装備の点検と準備もありますので」

「ああうん」

 必要性はわかるのだけど、なんだか素っ気ない子だ。真面目すぎるというか。

 でも、そこに文句は付けられないので、私はお菓子をポリポリしながら、彼女の作業を見守った。

 ギターケースからよくわからない箱から黒色のよくわからない部品を取り出した彼女はそれを組み立て始める。

「それは?」

「護衛に必要な装備類です。未来から持ち込める量は限られていますので、なるべく現地調達で自作しないと」

「ええ? それは大変そう……」

「問題ありません。その訓練やシミュレーションもこなしてきましたから」

 そう言いながら、後ろにコード線がついた細長い金属の棒を部品に押し当て、そこに針金も当てて細かい作業を……

「ん? 何か焦げてない? 変な臭いがする」

「大丈夫です。半田ゴテは加熱するものですから。ただ、換気をすべきでした。窓を開けます」

 彼女は拳銃を手に周囲を確認することも怠らない。映画そのものの潜入捜査官だ。

 だが、これではいけない……。

 私は危機感を募らせた。

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