3

 グリシーヌの背中で温まりながら、少しずつ色々思い出してきた。俺は、異国との戦いで力を使い過ぎた。10年も療養しなければならないほどに。

「なぁ」

「はい、なんでしょう。」

「戦いの後、オリベルト国はどうなった?」

「……無事に保たれましたよ。まさか10年も貴方を眠らせてしまうことになるとは思いませんでしたが……。」

「そうか。皆無事なのか。」

「えぇ。我がオリベルト国も、アズーロ国も死者は0人。怪我人は居ましたが、治療魔法でどうにかできる程度でしたよ。」

「そうか、それならよかった。できる限り、戦いは避けたいからな。」

「貴方が残した言葉の通り、協定も結びましたので。」

「そうか。そうなったなら有難いなオリベルトとアズーロは仲良くすべきだ。」

 静寂が流れる。このすら、懐かしさに浸れてしまう。

「グリシーヌ」

 だが、先にそれを突き破ったのは、俺の方だった。

「はい、なんでしょう。」

「何か言いたいことがあるんじゃないのか?」

 そう投げかけると、グリシーヌは馬の歩みを緩めた。

「何かあるなら、聞くから。言えよ。」

 いつまでも黙り込んでいるので、回している腕にグッと力を入れた。それにより互いの身体の距離が、紙1枚を差し込める程になった。暴走している鼓動音が聞こえた。どうやら、怒りに震えている。

「貴方が、なぜ?!」

 聞いたこともないような、太く鋭く、まるでこの男の時折感じさせる視線と同じような質感の声が、突き刺さる。

「なぜ貴方が、そこまで力を使わねばならなかったのだ。なぜ森の者どもは動いてくれなかったのか。私は、今でも理解ができない。」

 怒りと悔しさが入り混ざった言葉だった。

「俺が搾り出さなきゃ、国の戦力は削れていた。それに、俺の傷を癒してくれたのは森の皆じゃないか。何が不満だ?」

「……貴方がいないあの国は、バランスが保てない。森との均衡をうまく保てなくなってきていた。」

「それは大変だっただろうけど、森や俺のせいなのか?」

「い、いえ、決してそう言いたい訳では……。」

「いや、そうとしか聞こえない。それにさ、国のことだけか?俺がいないと不便なのはそれだけが理由なのか?」

「い、いや、そんな風に言いたいわけではなくて、その……。」

 威勢の無いグリシーヌはが、繊細と捉えるとこいつらしい。


 言葉にしながら記憶がじんわりと戻ってきている。当時のこと、それより昔のことを、しっかり思い出してきた。

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