そのダンジョンでは絡まれます Ⅱ
チッ! めんどくせえ。
「そうかい。折角の申出申し訳ないが、優秀なあんたらの腕を上層で遊ばすのは勿体ない。こちらの事は放っておいて、下層を目指してくれ。オレ達は見ての通り、上層をプラプラしているだけだからさ」
グリアムの言葉にニヤニヤと見下す態度は強くなる。自分達より、明らかな格下だと値踏みしたのがあからさまに伝わった。
「おい! 【忌み子】が指図すんな。おまえは黙って見てればいいんだ。ほら、お嬢ちゃん、お兄さん達が矢の扱い方を教えてやるよ。優しくな、ブッハハハハハァ」
(グリアム、あいつ撃っていい?)
(ダメに決まってんだろう)
しつこい下衆
「いいから、お嬢ちゃん行こうぜ」
「きゃっ! ちょっと、触んないでよ!」
リーダーらしき男のがっちりとした手が、ヴィヴィの細腕を掴んだ。その姿にグリアムの瞳は鋭さを増す。
「おい! おまえらいい加減に⋯⋯」
「放せ! 彼女は嫌がっているでしょう!」
グリアムより先に、イヴァンが見せた事の無い鋭い瞳を男に向けた。その瞳に宿る怒りは、今にも爆発を起こしかねない危うさを纏っている。
イヴァンの手が、ヴィヴィを掴んでいる太い腕をしっかりと握り締めた。今にも握り潰さんとばかりに、ギリギリとその手に力を込めていく。
まさかの反抗に、ヴィヴィを掴んでいる男の顔はみるみるうちに険しくなっていった。
「てめぇ⋯⋯どういうつもりだ?」
「どうもこうも、先に仲間に手を出したのは、あなたでしょう?」
「止めろイヴァン、あんたも手を放せ」
「うるせえ【忌み子】! 指図するな!」
ドン! と男がグリアムの胸を小突いた。
ヤレヤレ、まったくしょうがねえなぁ。
グリアムが嘆息混じりに呆れる横で、イヴァンの怒りが沸点を迎えた。
「仲間に何をする! 謝れ!」
「よせ、イヴァン! 落ち着け! いいんだ、こんなの⋯⋯」
これ以上こじれるのは、芳しくない。激昂し、男達の眼前へと迫るイヴァンを、グリアムが羽交い締めで止めに入った。
何だ? こいつの力!?
テールを抱えているとは言え、イヴァンを止める事が出来ない。体躯では負けていないグリアムが、小柄なイヴァンの力に手を焼いていた。
今にも、襲い掛かりそうなイヴァンの雰囲気に場の空気はひりついて行く。
向こうはお遊び半分だったものが、格下と見ていたパーティーに思わぬ反抗にプライドを傷つけられ、引くに引けない状況となってしまった。血の気の多い
こいつら自体は三流
グリアムは急いで、彼らの胸や肩を覗き、所属の有無を確認する。
紋章持ちじゃねえ。大丈夫、ただのチンピラ
グリアムはイヴァンを押さえる腕に力を込め、体ごと割って入った。
「イヴァン、止めろ。あんたらも、十分遊んだろ。ここいらで、勘弁してくれ」
「はぁ? 遊ぶのはこれからだ。なぁ、お嬢ちゃん」
「いい加減にしろ!」
「ダメだ! イヴァン! それは、ダメだ」
剣に掛かるイヴァンの手を、グリアムは必死に押さえる。どんな理由があれ、先に剣を抜いたら最後、向こうの正当防衛が成立してしまう。仮に、向こうがこちらを殺したとしても、罪に問われる事はない。
先に剣を抜いた方が負けになる。
それがダンジョンの常識だった。何としてもそれは阻止しなければならない。焦るグリアムの事など、イヴァンにはまったく見えていない。怒りに身を任すイヴァンの熱は上がる一方だった。
「坊主、そいつを抜くのか? いいぞ、抜いて見ろ。ほら、早く、抜けよ」
「止めろ、イヴァン! 落ち着け!」
煽る男に鋭い眼光を飛ばすイヴァン。剣に掛かるイヴァンの手に、ギリギリと更なる力が込められる。
「やっちゃえ、やっちゃえ、イヴァン!」
腕を振り解こうと、もがくヴィヴィが声を上げる。
「おい! バカ! おまえも煽るな!」
余裕の笑みを浮かべる男を前にして、イヴァンの緑瞳は鋭さを増して行き、加熱する怒りは止めどなく上がっていった。
「ほれ、ほれ、どうした、どうした。うん? 来ないのか? そらぁそうか、【忌み子】の荷物持ちが先生のパーティーなんざぁ、たかが知れているもんな。しょぼいクズパーティーのくせにいきりやがって、ケツの穴でも舐めやがれ」
舐め切った男が、無防備にイヴァンの眼前へと迫る。熱を帯びていたイヴァンの瞳が、今度は一気に冷えて行くのが分かる。
こいつはマズイ。
イヴァンが剣を握る手に、更なる力がこもる。グリアムは、一言も返さないイヴァンから危うさしか感じなかった。
「抑えろ⋯⋯イヴァン」
グリアムの言葉に一瞥だけして、下卑た三下の笑みにイヴァンは冷たい瞳を向けた。
ゆっくりと抜かれる剣。
ヤバっ。
柄からじわりと刃が顔を出し始めた。グリアムは必死にその手を押えるが、止める事が出来ない。
クソ、馬鹿力が。
「ど、どうしたこんな所で? 奇遇です⋯⋯だな」
唐突に上ずる女の声が届いた。声の方へと一同の視線は向く。
その女はいきなり向けられた視線に、少し照れながらアワアワと慌てた素振りを見せた。
「落ち着け。アザリア」
後ろを歩いていた
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