第2話 ロシア人留学生

2021年 東京 春


3度目のアラームが鳴る。

目が開く。日光がカーテンの隙間から進駐し目の網膜に攻勢をかける。まぶしい。

アラームを止める。10時00分。

急がないと!10分後には授業が始まる。


いまだにオンライン授業だがキャンパスが近いので大学に行ってオンライン授業を受けることにしている。

急いで準備をして、家を出る。


春咲きの街路樹に風がほほえんでいる。信号を渡り、キャンパスの広場も桜が埋め尽くしているのを確認する。手が届く桜の花びらをつまんでみたが、強く枝に寄り添っていて、離れない。そういえば、この桜が舞い落ちる前に夏の留学の予定を考えておきたい。夏にドイツに留学し、冬はロシアに旅行に行く予定だ。


今日はネイティブの先生によるロシア語の授業と、専攻しているドイツ語の授業である。ドイツ語はもう2年もやっていることもあり普通の会話ならドイツ語でできるようになってきた。ロシア語はまだまだだ。


今日のロシア語の授業といったら退屈であった。ネイティブの先生による授業だから会話とかコミュニケーションをやるのかと思ったら、第二次世界大戦に関するロシア語の文章とビデオをみるというもので、こんなの日本人教師でもできるだろ、と思った。しかしどこかひっかかるものがあったのだ。ロシア語、第二次世界大戦、、、あ、そういえば数か月前にロシア人宛ての手紙を翻訳したことがあったな、結局そのロシア人は謎のままなのだが。


授業終わりに先生に質問する時間があったので、祖父の手紙と日記について話してみた。先生は戦争史が専門らしく、興味津々に聞いていた。彼は祖父に会いたいと言っていたが、つい数ヶ月前に亡くなったことを伝えた。そして、謎のロシア人の話になる。ダーニル=クズネツォフだ。


「で、その宛先が、ダーニル=クズネツォフってなってるんですよ。この名前って、ロシア人によくある名前なんですか?」


「ええ、ロシア人によくいる名前ですよ。クズネツォフ、、、おそらくその方の祖先は鍛冶屋でしょうね。」


「この名前に心当たりありませんか?まあ、70年前の人なので、流石に難しいと思いますが…」


「いや、クズネツォフというファミリーネームなら、ここの留学生に一人いますよ。イリーナ=クズネツォフという方が。」


「そうなんですか!?ぜひ、その方とお話したいです。」


「それなら私の方から言っておきましょう。来週の授業のときにその方をお呼びしますよ。」


まさかクズネツォフという方がこの大学にもいるとは。しかし、苗字が同じだけである。日本で言えば、田中さんを探すために別の田中さんに会うようなものだ。





一週間後


ロシア語の授業のあと教室で待っていると、一人のロシア人が現れた。


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雪の中のクリンゲル シヤフ=カック @galleon

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