ブロック注射を体験する
先生に紹介され、痛み緩和専門病院へと出かけることとなった。タクシーで行くこと30分。私は病院に行くだけでヘロヘロ、辿り着いた病院で問診票を長時間持っていることができず、「すまん書いて」と身内に頼むような状態だった。
痛みで脳内の八割を持っていかれて、この状態で変な契約持ち込まれたら間違いなく精査できないというヤバイ状態な中、先生に呼び出される。
正直ヘロヘロ状態な中、先生に診断を受ける。
「まずはブロック注射でヘルニアの痛い部分を緩和します。炎症していますので、腰のヘルニアと炎症部分を中心に行います」
「あ、はい……」
「だいたい三回くらい通ってもらったら日常生活送れるくらいには回復するはずです。それでもなお悪くなるようでしたら、手術も考えないといけません」
「はい……?」
手術は嫌だなあ、むっちゃ嫌だなあ。ここで治ってくれると嬉しいなあ。
そう思いながら助手さんに連れられてベッドに連行、うつ伏せになり悲鳴を上げる。ヘルニアを患ってからというもの、寝るポーズが限られていた。
うつ伏せ→痛い
仰向け→痛い
痛い場所を向いて横→論外
私のヘルニアは左。
結局のところは左を上にして寝る以外の選択肢が残されてない状態だったので、うつ伏せになった途端に「痛い痛い痛い」を連呼して悲鳴を上げるようになったのである。
人は痛さの前では無力である。かつて幕末の京都の夜を暗躍していた岡田以蔵は拷問の末、痛さのあまりになにもかもを吐いたという醜聞が残っているが、痛さのあまりに涙目で注射を打たれている私は、なるほどと思った。
痛さの前には、誰もがひれ伏すし、言うことを聞いてしまう。逆に言ってしまえば痛さのあまりに結んだ契約を反故にされた途端に狂暴化するんだなあと、車椅子に乗せられ、ベッドで一時間ほど寝かされながら、暇のあまりに考える。
痛み緩和専門病院のベッドルームはカーテン越しに、たくさんの人が来ていた。グースカいびきをかきながら寝る患者もいれば、立て板に水とばかりにしゃべり続ける患者。私のようにおとなしく寝ている患者などなど。
帰りにふらふらしながら薬局に向かい、薬をもらう。
「この薬は副反応でものすごく眠たくなりますので、この薬服用後はあまり細かい作業はやらないようにしてください」
穏やかな薬局の薬剤師さんに処方してもらった薬を携え、少しずつ回復していくが、なぜか左足だけいつまで経っても治る気配がなかった。
左足を使うと、だんだん痛んできて、痛みとしびれが抜けきれなくなる。そしてその状態で歩くと、だんだん右足にも負担がかかってくるようになるのだ。
痛みが薬と治療のおかげで治まってくると、取っ散らかった思考も整理できるようになってきて、気が付いた。
「そういえば私、ひかれてた」
唐突な思い出しだった。
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