恐怖の寝たきり体験
普通に仕事に出かけ、日常生活を送り、小説を書く。
腰痛いなあ。左足むっちゃ痛いなあ。しんどいなあ。その頃は本当にそう思っていたし、そこまで大事になるとも思っていなかった。
しかし。ある朝起きてきて、そのまんま倒れた。
「……痛い。歩けない」
椎間板ヘルニアが悪化すると、歩けなくなる。正確に言うと、歩ける範囲と時間がむっちゃ短くなる。少し家から出て新聞取りに行くだけで左足が熱を持ち、左足をカバーしようとする右足に体重がかかり過ぎてガクガクになって生まれたての小鹿状態になってだんだん歩けなくなる。
そのせいで当然、寝込んだ。
椎間板ヘルニアの一番激しいときは、安静第一らしいが、前のときにむっちゃ痛いときでも、歩けなくって倒れたことはなく、私はしくしく泣いていた。
なにがつらいかというと、ぎっくり腰のときの再来なのだ。
いや、むしろ。ぎっくり腰のときより悪化している。
シャワーすら屈むことができずに浴びれない。蒸しタオルで頑張って体を拭くしかない。着替えるとき座って着替えることができず、寝転んで七転八倒しないと着替えられない。なによりトイレ行くとき、痛過ぎて長時間座ってられず、小は便器に力いっぱい腕に力をこめればできるものの、大が全くできない。私、便秘で死ぬんじゃないだろうか。
最初の一週間。本当に全く動けず、椅子に座って食事もできないので、家族にトレイを持ってきてもらい、寝転がったまま匍匐前進で食べるしかなかった。ちなみにお箸を長時間持つことができず、一番ひどいときはれんげだけで食べていた。
「多分世の中のコロナのワクチン対策は、ヘルニアで寝込んだ人間にも応用で使えるんだろうなあ……うちの家、誰ひとりワクチンの副反応で苦しんだ人間がいなかったせいで、全く備えてなかった」
今のところ誰ひとりとして新型コロナにかかってない我が家。その手の備えがゼロだった上に、倒れている本人も食が細くなることもなかったため、健常者用食事を七転八倒して食べ、体勢がきつくなってギブアップするまでは普通に食べていたのであった。
内心「普通に食べてたら便秘でいつか死ぬんじゃないだろうか」とそのことばかり心配していたのだが。
一週間倒れ続け、なんとか歩ける時間が十分くらいに増えたのを確認してから、急いで行きつけの整形外科に飛び込んでいった。
「すみません、この前から一週間倒れていたんですけれど、ブロック注射ってできますか?」
ちなみにブロック注射とは、椎間板ヘルニアにかかった人間の行う治療法、保存療法の一種である。あまりに炎症している部分に炎症止めになる薬剤を打ち込んで、動ける時間を増やし、その間にリハビリ進めようとする治療法の一環である。倒れている間、あまりにも生産性がなさ過ぎてずっと椎間板ヘルニアの治療法を整形外科のコラム読みながら勉強していたなんてそんなことはある。
それを言ったら医師に言われた。
「今日の二時空いてる? むっちゃ遠いところにブロック注射の専門医いるけど」
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