第十三話 日常の崩壊、救援
その日俺たちは、資金調達をするために鉱山に出向いていた。この辺りで採れる鉱石は高く売れるし、モンスターからドロップするアイテムもそれなりの値段にはなるので最適だった。
「結構集まってきたな。これだけあればかなりのもにはなる」
「採掘もいいけど、やっぱり同じ作業が続くと飽きちゃうね。私はモンスターを狩る方が合ってるなあ」
始めの方は一緒に手伝ってくれていたリンカだったが、途中から変わらない光景に耐え切れずモンスター狩りをしながらカイの採掘を眺めていた。
こういうことは誰にでも向き不向きはあるし、モンスターを倒して貢献してくれていたので別にいいかと思って特に何も言わなかった。
だが気づけば一時間近く鉱山にいたので、さすがにやりすぎたと感じ、リンカに声をかける。
「さすがにそろそろ街に戻ろうか。今採りすぎても持ちきれないしほかの『プレイヤー』と『レイヤ』が採る分がなくなったら申し訳ないしな」
「早く帰ろー。街で何か食べたい気分だし」
用事を済ませた二人は街へと戻る。
「「……は?」」
──そして帰還した二人が見たのは、モンスターに襲撃されている街だった。
異常な光景を目にした二人は街の壁の外でモンスターを撃退していた人物に事情を聞こうとした。
「おいっ、何があったんだ!? なんで街が襲われてるんだよ!!」
「んっ!? あんた『プレイヤー』か!? 俺も詳しいことは分かんねぇけど、「翡翠嵐の花園」からモンスターどもがあふれ出てきたらしい! モンスターの種族なんかもバラバラなくせに統率が採れてやがるから、多分指揮官なんかがいるんだろうがこの状況じゃ探してる暇もねぇ!!」
「ダンジョンからモンスターが出てくることなんてあんのか…! 指揮官とかの情報は分かってるのか!?」
「『エリアボス』あたりが知性をつけて攻めてきてるんだろうってことくらいしか情報はねぇ! あんた、悪いが街に『レイヤ』も大勢残ってんだ!そっちの避難誘導を手伝ってやってくれ!」
「わかった! リンカ、行こう!」
「うん、あなたも気を付けてね!」
「当たり前だ!」という男の声を聞きながら、街へと駆け込んでいく。これ以上の被害を起こさせないために。
街は変わり果てた姿になっていた。いつも人であふれていた広場はモンスターが跋扈し、そこら中に人のものかモンスターのものか区別もつかない血が飛び散っている。
幸いというべきか今は人が避難した後のようで、襲われているような者はいない。
「ここに逃げ遅れた人はいないようだが、どこかに隠れているかもしれない。とにかく今はできるだけモンスターの数を減らしながら探しに行くぞ!」
「了解! カイも油断しないでよ! モンスターが奇襲を仕掛けてきてもおかしくないからね!!」
リンカの忠告を受けながら、二人は行動を開始する。やはり逃げ遅れた人はいたようで自分の家に閉じこもっていたリ、路地裏の物陰でうずくまっていた者達を避難場所となっている教会へと連れて行った。
「大分街に残ってた人たちは避難させられたな。けど全員がいるかはわからないし、もう一度捜索に出よう」
「うん。東側と南側はさっき確認しに行ったし、西側は別の人が行ってくれたから次は北側を見に行こうか」
「ああ、早くこの襲撃が収まってくれればいいんだが勢いも増す一方だ。元凶の指揮官を潰せれば一番いいんだが、肝心のそいつが姿を現さないから討伐しに行くこともできない。このままだとジリ貧でやられて終わっちまうぞ…」
外を見ればまだモンスターが歩き回っており、その数も減るどころか増えているように思える。騎士団が掃討しているようだが、この勢いを思えば焼け石に水でしかないだろう。
「とにかく俺たちの役割は避難の手助けだ。もう一回行こう!」
少しでも被害を減らすために動こうとした時、教会の中に女性の焦ったような声が響く
「誰かうちの息子のガイルを見ていませんか!? 一緒に来ていたはずなのにいないんです!!」
その言葉を聞いた瞬間に、リンカが女性の元へと駆け寄り話を聞く。
「息子さんとはぐれてしまったのならば私たちが必ず助け出します。だから大丈夫です。一度落ち着いて話を聞かせてもらってもいいですか?」
そんなリンカの決意を聞いてカイはこんな状況でありながら口元に笑みが浮かぶ。カイ自身助けに行こうと思ってはいたが、あの時のリンカほど素早く行動することはできなかった。そんな人を助けることに躊躇いがない相棒の姿に誇らしくなったのだ。
「…なるほど、わかりました。絶対に連れてきますから任せてください!」
母親から情報を聞き終えたリンカは安心させるように頼もしい表情で頷き俺のもとへと戻ってきた。
「ごめんね、カイ。勝手に行動しちゃって。けどあの人を安心させるにはこれしかないと思って……」
「何も謝ることはないって。むしろ嬉しかったんだぜ? 俺の相棒は迷うことなく人を助けられるやつなんだってな。とにかく早く行こう。ガイルを助けるんなら無駄話してる時間もないだろ」
「カイ…。うん! ありがとう。絶対に助けようね!」
母親から依頼を受けた二人は今度こそ教会から出ていく。
──一人の小さな命を救うために。
街の北に存在する商業地区。そこに点在する店の一つにガイルは隠れていた。母親と共に教会へと避難しようとしていたガイルだったが、初めてモンスターを目にした衝撃と襲われるかもしれないという恐怖によって引き起こされたパニックではぐれてしまったのだった。
今は店の部屋の一つに鍵をかけて閉じこもってはいるが、モンスターを相手にそれは大した意味がないだろう。
「母さん……無事に逃げれたかな…」
バラバラになった母親の心配をするが、それもこの現状の不安から逃れてたい一心からの現実逃避に過ぎない。ガイルはこの悪夢が過ぎ去るのをただひたすらに待ち続けている。
そんな時、不意に部屋の外から足音が聞こえた気がした。ガイルは助けが来たのかと思い、立ち上がりかけるがモンスターがいる可能性に思い至り、動けなくなる。
長い沈黙が訪れ、恐怖心に押しつぶされそうになりながらもこの状況から逃れたい一心で話しかけることを選択した。
「だ、誰かいるの? …助けに来てくれたの?」
誰でもいい。助けてほしいという思いを込めて送った声に返ってきてのは──
「ギシャアアアア!!」
──純粋な殺意だった。
「う、うわああああ!!」
扉を破ってきたのはゴブリン。突然襲ってきた敵に叫ぶことしかできず、立ち向かう勇気など到底湧いてこない。
ゴブリンはこの小さな生き物をいたぶれることに歓喜しているのか、醜悪な笑みを浮かべて近寄ってくる。そしてガイルが自身の死を確信した瞬間、
「はぁっ!《鋭刃》!」
救いの手は、差し伸べられた。
「ギシャアアアアア!?」
いきなり現れた男の攻撃に対処できず、ゴブリンはそのまま光の塵となって消えていった。
「危なかったな。もう少し遅けりゃ間に合ってなかったかもしれねぇ…」
「おーい! ガイル君見つかったー!?」
目の前にいる男に話しかける女も現れ、展開についていけないガイルだったが自分は助けられたのだということが分かり安堵した。
「お、お兄さんは誰? お母さんはどこにいるの?」
「ああ、俺はカイだ。お前の母さんも教会に避難してるからさっさと移動しよう」
少年を安心させるために母親の安否も教え、安全を確保するために三人は教会への移動を開始した。
(しかし、本当に危なかったな。どこかから何かを破壊する音が聞こえてきたから嫌な予感を感じて向かってみれば、まさに襲われる直前だった)
ガイルを背負って道中のモンスターと遭遇しないように気を配り、最短ルートを突き進んでいく。
(けどこれで、とりあえずの任務は達成だ。あとはガイルを送り届ければ……? …なんだ、あれは)
走りながらカイが見かけたものは、紫色の布を被った何かだった。普段であればそこまで気に留めないが、この状況でもし人であれば避難させなければならない。
「リンカ! 悪いがガイルを頼めるか? 俺はそこの路地裏のところを確認してくる!」
「路地裏? わかった。送り届けたら一応私も向かうね!」
ガイルをリンカに預け、教会に向かったことを確認してから路地裏へと進む。
「すみません! 大丈夫ですか? もし怪我でもしているのなら俺が背負っていきますが……」
そこまで言って気づく。相手からどことなく生気を感じないこと。近づいていくこちらを全く気にしていないこと。…そして、その布から覗く腕が骨しかなかったこと。
「奪エ……殺セ…蹂躙シロ……。数多ノ死ヲ我ニ捧ゲヨ…」
振り返ったそれは、この騒動を引き起こした元凶のアンデッドだった。
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