第十一話 洞穴の最奥


「小鬼の洞穴」第五階層


 第四階層から降りてすぐに見えてきたのは、巨大な扉だった。どこか威圧感を感じる扉であり、この先に何かがいることを感じさせる。


「とうとうここまで来れたな。そう簡単にはいかないだろうけど、俺たち二人なら絶対に攻略できる。準備はいいか?」

「うん、いつでもいいよ。絶対攻略して帰ろうね!」


 お互いの意思を確認し合った二人は、簡単に作戦を話し合ってから扉を開けて先へ進む。


「真っ暗だね……。何も見えないよ…」


 中の空間は周囲がかろうじて確認できる程度の暗闇だった。こういった暗闇が苦手らしいリンカは、怯えを含んだ声で語りかけてくる。


「ああ、けど何もないなんてことはないはずだ。警戒は怠らないようにな」


「わ、わかってるけどさ…」という声が聞こえてきた瞬間、壁に掛けられていた燭台に火が灯り、空間が照らされる。


「っ! 来るぞ、気を付けろ!!」


 完全に光に満たされた空間で、二人の視界に入ってきたのは……一匹の巨大なオーガだった。


 すぐに《鑑定》を用いてオーガのステータスを確認する。


グランオーガ Lv:86


HP 23840/23840

MP 750/750



(ステータスを見る限り、こいつは物理特化型のモンスターだ。何かスキルは持ってるんだろうがおそらく遠距離攻撃の能力はないだろう)


「リンカ、頼む!」

「《氷縛アイスバインド》!」


 氷のツタがオーガを縛り付ける。オーガはそれを破壊しようと試みるが、相当の魔力を込めたようで簡単には壊されない。


「《鋭刃》」


 カイが下から斬撃を叩き込む。そのまま切りつけようと大剣を構えなおすが、ついに《氷縛》が破壊され、巨大な腕を振り下ろしてくる。


「ぐっ、あっぶねぇ…」


 オーガの腕を間一髪のところで転がりながら回避し、反撃に転じようとするが既にオーガは攻撃を仕掛けてきており、後手にならざるをえない。


 リンカも魔法で援護をしてくれているが、その巨大な体躯に似合わない俊敏な動きをもってかわされてしまっている。


(わかってたけど、やっぱ強敵だな。純粋な身体能力だけでこの強さ、まだスキルを使った様子はないから全力じゃないんだろう。だけど今はとにかく時間を稼げ。ダメージを与えるのはリンカの作戦が発動してからでいい。とにかく耐え抜け!)


 脳裏に先ほど話し合った作戦を思い出しながら、相棒の技が発動するまでの時間を稼ぐ。だが目の前にいるのは親切に待ってくれるような相手ではない。この瞬間にも襲い掛かってきている。


「ちっ、少しは休ませてくれよ。こちとら戦いっぱなしで疲れてんだよ!」


 先ほどと同じように腕を振り下ろしてくる。大剣で受け止めようとするが、その勢いに嫌な予感がしたカイは、防御を諦め回避を試みる。


「っげほ! 当たっちまったか…。けどまともに受けなくて正解だったな」


 攻撃をまともに食らうことは避けられたが、わずかに当たってしまった。そしてその威力はさっきと比べて明らかに上昇していた。おそらく《剛腕》に近い強化系のスキルを使用したのだろう。


 回避を選択したのは正解だった。もし受けていれば今の一撃で終わっていたはずだ。


「カイっ! 大丈夫!?」

「問題ない! かすっただけだ!!」


 心配してくるリンカに返事を返す。今のでHPが3割ほど削れたようだが動く分には問題ない。しかし、状態異常に《挫傷》が追加されている。ポーションを飲めば治癒できるがそんな余裕はないので、早く決着をつけなければ継続ダメージでHPが尽きる。


「リンカ、はまだか!?」

「あともう少し…! 頑張って耐えて!」


 そのリンカの言葉を信じて、敵と向かい合う。カイもダメージを受けてはいるが、これまでの中で何度かオーガを叩ききっている。確実にHPは減らせている。


 だが、カイは先ほど受けた打撃の影響が残っていたのか、足をもつれさせてしまう。そんな隙を見逃すはずもなく、歪な笑みを浮かばせながらとどめを刺そうとしてくる。


 リンカが何とか助けようとしてくるがほとんど意味を成していない。


 そうしてオーガが腕を振り下ろし、カイがやられるかと思われたその瞬間───




 ───オーガが手足の先から凍り付いていた。


(っきたか!!)


 突如として起こった自らの体の異常に戸惑っている様子のオーガ。もちろんこうなったのには理由がある。


 原因はリンカオリジナルの氷魔法《氷灰》である。


 《氷灰》は自身の周囲に氷の霧を発生させ、霧を吸い込んだ者を徐々に凍結状態にしていく魔法だ。数の多いモンスターと遭遇した時のためにと作った魔法だったが、効果を発揮するまでに時間がかかる上に秒間でMPを5消費するため燃費もいいとは言えない。


 だがこの戦いでリンカはこの魔法を切り札に選んできた。物理ステータスに優れ、機動力もある相手に対抗するために、動きを封じることができるこの魔法は最適だった。


 手足から徐々に凍り付いていくオーガに対して、カイは突っ込んでいく。それに続くようにリンカも残りの魔力をすべてつぎ込み、魔法を発動させる。


「《剛腕》《鋭刃》!」

「《氷棘アイスニードル》!」


 己の持ちうる攻撃手段をすべて使って、オーガの体力を削り切らんとしていく。



──そして二人の攻撃を受けたオーガは、その命を燃やし尽くして消えていった。








「はぁ~。勝てたね~…」

「結構ギリギリだったけどな…。けど勝利は勝利だ」


 オーガを倒した後、二人は床に座り込んで休んでいた。


「しばらくは動きたくない気分だな…。けど宝箱みたいなものが出てきたし、確認しないわけにもいかないよな」

「ダンジョン攻略のご褒美だし、結構いいもの入ってるんじゃない?楽しみだね!」



 オーガからドロップした角やら牙やらをインベントリに回収して、重い体を引きずりながら出現した二つの宝箱の前に立つ。そして確認した宝箱の中には装備が入っていた。


《赤熱のブーツ》

炎属性耐性《弱》

AGI+8%


《エピオローブ》

氷属性耐性《弱》

INT+6%


 カイが開けた箱には赤を基調としたブーツが入っていた。耐性がついているのもうれしいが、AGIへの補正もでかい。今回の戦いで機動力の欠如を感じ取ったカイに対してこの装備を与えてくれたのかもしれない。


 リンカのほうは薄水色のローブだった。所々に銀色のデザインが入っており、美しさも兼ね備えている。効果も申し分なく、耐性と魔法威力に関係してくるINT上昇だ。


「店売りの装備と比べると付随効果がすごいな。こりゃダンジョン攻略の重要性もわかってくるよ」

「そうだね。これなら攻略するまでの苦労も報われたかな~」


 二人が手に入れた装備をまとい、使用感を確かめていく。


「履き心地も問題無し…。よし、これでダンジョンの攻略は完了かな。そっちはどうだ?」

「こっちもいいよ。素材もいいやつっぽいし、文句なしだね!」

「よし、それじゃダンジョンから出るか。ここともお別れだ」


 そういうと奥に出現していた、転移の仕掛けだと思われる魔法陣の上に乗る。魔法陣が輝き、光が収まったときにはダンジョンから二人の姿は消えていた。

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