第十話 ダンジョン攻略


「小鬼の洞穴」第二階層


 ここでも一階層と変わらずにゴブリンが攻め込んでくる。ただ違う点があるとすれば、ゴブリンの持つ武器のバリエーションが増えたことだ。


「最初は棍棒だけだったのが、この階層から片手剣に斧、短剣を使ってくるやつも出てきたな。対処は難しくないけど当たればダメージはでかいから、慎重にならざるをえないな」

「けど戦い方は一階層と大して変わらないし、そこまで不安にならなくてもいいんじゃない?」

「まあな。まだ多少相手の手数が増えてきたってだけだし、ここもサクッと攻略していこう…っと、また来やがったな」


 話している最中にもゴブリンはやってくる。斧と槍を持ったゴブリンが敵意をもって睨みつけてくる。


「二体だけどいけるか、リンカ?」

「任せて、《氷縛アイスバインド》!」


 リンカの放った魔法が二体のゴブリンを縛りつける。その隙をねらってカイが斧を持っていた方の首をはねる。


「グルル…! ギシャアアアア!!」


 もう一方のゴブリンは氷の拘束を脱したようだが、問題はない。槍を構えて突きの攻撃を繰り出してくるが、その軌道を冷静に見切り対処する。


「ふんっ!《鋭刃》!!」


 槍の攻撃が途切れたタイミングでゴブリンにスキルをお見舞いする。そのやり取りで力尽きたようで、光の塵となって消えていく。



「よしっ、ここも大したものはなさそうだしさっさと攻略しよう」


途中で発見したセーフエリアで休みながらも順調に探索を続け、三階層への階段も発見したのだった。




「小鬼の洞穴」第三階層


ここからモンスターの質が変わってきた。武器を使う者も相変わらず出てくるが、魔法を使うゴブリンが現れ始めたのだ。


「っと危ね!」


 今も周りから打ち込まれる魔法を回避しながら、追随する近距離型の相手を仕留めるために動いている。


「リンカ、どうだ!やれそうか!?」

「もう少し待って! ……っよしここ!!《氷棘アイスニードル》!」


 そうして放たれた魔法は前方の相手の隙間を潜り抜け、後方のゴブリンに命中した。


「ギシャ!? グアア……」


「よし。あとは近接型のやつらだけだ、一気に攻めるぞ!」

「了解!《氷縛アイスバインド》!」


 そこからは大した時間もかけずにゴブリンの群れを殲滅していった。





「やっぱり魔法使いがいると厄介さが段違いだね。優先的に倒すようにはしているけど、前衛の敵も無視できないからどうしても攻撃の時間を与えちゃうね」

「そこは気合でかわすしかないな。この階層から遭遇するモンスターの数自体も増えてきてるし、戦闘を避けて攻略することも難しい。結局ダメージを受けることを覚悟で進むしかなくなる」

「そうだけどさぁ…。何とかならないかなぁ……」


 自分も魔法を使えるからこそ、その厄介さを身に染みて感じているのだろう。しかし口では不満を漏らしながらも、その瞳は全く揺らいでいない。きっと頭の中では最適な倒し方を考え続けているのだろう。


 そこまで話したところでカイが立ちあがる。


「そろそろ行くか。次の階段も見つかったし、ここで時間を食ってても仕方ない」

「まためんどくさそうな敵がいそうだなぁ…。どうする?魔法を使えるやつが増えてたりしたら…」


 リンカが思わず不安になりそうなことを話しながら伸びをする。その予想が現実となるとも知らずに……






「小鬼の洞穴」第四階層


 いよいよ終盤へと近づいてきたダンジョンはその特有のいやらしさを遺憾なく発揮していた。ある意味では迷宮にとって最良の形で、攻略者たちにとっては最悪の形で…。


「くっそ、ほんとにいやらしい場所だなここは!」


 道中で遭遇したモンスターとの戦闘をしながら思わず口にするカイ。それもそうだろう。第四階層に入ってから攻略者を阻む壁が一気に高まったのだから不満だって蓄積する。



 ではその障害とは何か。モンスターの数が増えたことか?否、たしかに襲ってくるモンスターは増えたが、時間がかかる程度で壁というほどではない。では、モンスターが強くなったからか?違う。モンスターの数こそ増えているが、一階層からここまで強さ自体は変化していない。ならば、今起こっている問題とは何か。それは───


「なんでここにきてを使うやつがでてくるんだよ!!」



 ────回復魔法使いが現れたからだ。


 どれだけダメージを与えても、倒せると思った瞬間に回復されてしまう。しかも回復魔法使いに加えてほかの攻撃魔法使いも当然のように出てくるため、そちらにも意識を使わざるを得ない。


 リンカの魔法で仕留めようと狙ってみたが、回復魔法が自分たちの要だと理解しているのか魔法が着弾する直前に近接型のゴブリンが盾となって防がれてしまう。


 ここで取れる手段は二つだ。一つは回復魔法使いのMP切れを狙うこと。いかに魔法使いといえど、その術を行使し続ければいずれは使えなくなる。しかし、そこまで戦いを継続すれば二人の集中力も必然的に削れていく。ここからまだ戦いが残っていることを考えれば、得策とは言えない。


 もう一つは短期決戦を狙った特攻だ。カイが回復要員のゴブリンの元まで駆け抜け、直接攻撃を仕掛ける。もちろんリスクはある。攻撃をする際には周囲のモンスターに狙われるだろうし、攻撃自体をまた別のゴブリンが盾となって防がれるかもしれない。だが、最善の選択を考えればこれが最も勝機が望めるし何よりカイには考えがあった。


「リンカ! 今からあいつらのところに突っ込んでを使う! そのあとは頼む!!」

「あれ…? ……っ!! わかった、任せて!」


 その言葉でカイの意図を察したリンカは魔法の準備に入る。それを確認したカイはモンスターの群れへと飛び込む。ゴブリンが攻撃してくるが、そんなことは気にも留めずただ最小限の動きでかわしてゆく。


「ぐっ…あと少し……! ……来たぞ!」


 目当ての相手の元までたどり着き、大剣を横なぎの構えにしたカイはスキルを発動させる。


「《円回閃》!」


 発動したスキルが回復魔法使いの首をとらえた……がその直前に近くに控えていたゴブリンが盾となって防がれてしまった。


 だがこれでいい。《円回閃》の効果は、半径2メートル以内の敵をまとめてというもの。つまりノックバック効果が生じるのだ。


 ゴブリンが吹き飛ばされる。一瞬ではあるが、回復魔法使いは完全な隙を晒す。そしてその一瞬があれば十分だった。


「ふっ!《氷棘アイスニードル》!」


 後方で魔法を整えていたリンカが、普段よりもはるかにMPを込めた《氷棘》をお見舞いする。その威力に耐え切れず、群れの要だったゴブリンは力尽きた。


そして要を失ったゴブリンは動揺し、そのまま二人に倒されていくのだった。






「…はーっ…はー…」

「ふぅー……疲れたねぇ…」


 たった今、激戦を終えたばかりの二人は壁に体をもたれかかりながら休めていた。


「ここにきて回復魔法が出てくるとはな…なんとなく厄介になるとは思ってたけど、これは予想外だった…」

「けど勝てて良かったよー…。ここで負けてたら悔しいなんてものじゃなかったよ」

「そうだな。それに何とか攻略法もできたし、今回ほど時間はかけなくても勝てるようになるさ」


 しばし急速を挟んだ後、再び探索を続ける。この後もゴブリンとはエンカウントしたが、戦い方を理解した二人は連携を駆使して終わらせていく。


 そして40分ほどが経過したとき───



───第五階層へとたどり着いた。

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