第九話 最初の進化
「…とうとうきたか」
目の前に現れた進化を告げるアナウンス。俺がさらに強くなるための最初の一歩だ。リンカも緊張したようにこちらを見つめている。
「ふー……いくか」
一度感情を落ち着けてから、進化を開始させる。
『第二段階への進化を実行。プレイヤー:カイの職業を〈剣士〉から〈豪剣士〉へと進化します』
『新たにスキル《剛腕》《円回閃》を獲得しました』
そんな声を聴きながら、進化が終了する。
「ど、どうだった?」
待ちきれないといった様子でリンカが尋ねてくる。
「無事に進化はできたみたいだ。〈豪剣士〉ってやつになって、新しくスキルも獲得できたみたいだ」
ステータスを確認して新しいスキルの能力を見る。
《剛腕》
自身のSTRを20秒間、50%上昇させる
クールタイム:15分
《円回閃》
半径2メートル以内の敵をまとめて斬り飛ばす
クールタイム:30秒
「《剛腕》は強化系のスキル…短時間だけど上昇率がとんでもないな。うまく使えばいい切り札になりそうだ。《円回閃》のほうは、範囲攻撃のスキルか。これで戦い方の幅が広がったな」
「やったねカイ! おめでとう!」
リンカが屈託のない笑みで祝福してくれる。職業が進化して強くなれたこともうれしいが、相棒に祝ってもらえたことがなによりもうれしい。
「ありがとな。けど喜んでばかりじゃいられない。早くリンカにも進化してほしいしな」
「うん! カイに置いて行かれてばかりじゃいられないからね。私もさっさと進化させていくよ!」
俺が進化したことでリンカも、対抗意識に似た感情が生まれたらしい。そこからまた少しモンスターを狩っていると、リンカもレベル上限に達したようで進化のアナウンスが流れた。
「よーし、じゃあいくよ!」
気合を入れなおして進化を実行すると、リンカも第2段階へと至る。
『第二段階への進化を実行。プレイヤー:リンカの職業を〈魔法使い《氷》〉から〈氷魔法士〉へと進化します』
『新たにスキル《魔法出力操作》を獲得しました』
「よし、しっかり進化できたね!」
「ああ、おめでとさん。いきなりだけど、どんなスキルだったんだ?」
「えーと、今手に入れたのは《魔法出力操作》ってスキルだね」
《魔法出力操作》
魔法に込めた魔力量によって威力、効果を増大させることができる
「今までの魔法は一定の出力しか出せなかったんだけど、これで一撃の威力も高められるし私もアタッカーとして活躍できるよ! あとはいくつか新しく魔法を覚えたみたいだけど、それはおいおい説明するね」
これで二人とも、無事に第二段階まで来れた。第三段階までいくにはまた時間をかけてレベルを上げなければならないが、そう焦ることでもない。ゆっくり成長していけばいい。
「街の近くの狩場でずっと戦ってたけど、さすがに単調になってきたよな……。もう少し新しい場所に行きたいけどリンカはどこかいいところ知ってるか?」
「そうだねー…。……あ。そういえばこの前、この辺りにダンジョンがあるって聞いたよ」
ダンジョン。それは自然界に存在する空間とは異なり、濃い魔力が漂っておりその影響でモンスターが自動的に発生してくる場所である。
その最奥には『エリアボス』と呼ばれるモンスターが控えており、そいつを倒せば晴れてダンジョンクリアとなり、アイテムや装備を手に入れることができる。
「ダンジョンか。話には聞いてたけど行ったことはなかったな」
「ね、せっかくだし挑戦してみない?」
リンカがその目を輝かせながら聞いてくる。だが聞かれる前から答えは決まっていた。
「せっかくだし、行ってみよう。俺たちの力を試すのにもちょうどいい」
サイラスの付近には3つのダンジョンが存在する。東の「小鬼の洞穴」、南の「聖火の湖畔」、そして北の「翡翠嵐の草原」だ。情報を集めていくと、第二段階になったばかりならば実力的にも「小鬼の洞穴」がちょうどいいといわれたので、そちらに向かうことにした。
「小鬼の洞穴」はその名の通り洞穴型のダンジョンであり、全5階層からなるダンジョンだ。出現モンスターはゴブリンが大半であり、罠も少ない。
だからといって油断をしていいわけではないので、気を緩めずにいこうということになった。
「ここか、ダンジョンは。また随分と辺鄙な場所にあったもんだな」
「街からそう離れてはないけど、崖の真下にあるもんね。人気がないけどその分モンスターの取り合いにならないって思っておけばいいよ」
洞穴の目の前に到着した二人はそんなことをこぼしながら中へと入っていく。
「小鬼の洞穴」第1階層
ダンジョンに入った俺たちを出迎えたのは、一匹のゴブリンだった。
「ギシャアア!!」
奇声をあげながらその手に持っている棍棒を振り上げ、飛び掛かってくる。しかし、この程度で慌てることはない。
俺がゴブリンの攻撃をいなしながら少しずつ体力を削り、ある程度弱らせたらリンカが魔法を叩き込みとどめを刺す。
「なんというか、弱かったね」
「一階層ならこんなもんだろう。深く潜ればその分だけ敵も強くなるし、歯ごたえのあるやつも出てくるさ」
「そうだね。じゃあ、じゃんじゃん進んじゃおう!」
そこからゴムリンと遭遇しながらも探索を続け、次への階層へとつながる階段を探す。途中で魔法によるトラップに引っ掛かりそうになったりしたが特に問題もなく探索は続いた。そして──
「ようやくあったな、次の階段が」
「やっとかー。結構時間かかっちゃったね」
階段を見つけるまでにかかったのは30分ほど。モンスターはさほど強くないので、苦戦することはなかったが、如何せん洞穴の広さが想像以上だった。どうやらこのダンジョンはこの広さによる探索の難易度に重きを置いているようだ。
その分道中で宝箱を見つけ、ポーション等が手に入ったから構わないのだが…やはり多少なりとも疲弊してしまう。
「集中力も持ってかれるし、どこかで休憩を挟んだほうがいいな。油断しまくりの状態でやられたなんてことになったら目も当てられない」
「じゃあ次の階層のどこかで休憩しようか。階層のどこか一か所には安全が確保されてるエリアがあるっぽいしね」
「そうしよう。じゃあ早速次のエリアに進むか」
二人は第二階層へとつながる階段を下りていく。洞穴の魔力は探索者を歓迎するように蠢いていた。
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