第八話 決意と誓い


 その鬼は攻撃を仕掛けてくるでもなく、二人を見るわけでもなくただ、立っていた。二人に興味を持っていないのか、その視界に収めることはない。


 それでも、二人はその圧倒的な、いや圧倒的という言葉ですら足りない隔絶した実力差を感じ取っていた。


 そしてもはや無意識のうちに《鑑定》を使ってその鬼のステータスを見てしまった。


エンブラー・サイズ Lv:2689


HP 21476098/21476098

MP 857498/857498



(なんっ、だよこれ!!)


 そこにあったのはもはや絶望としか思えない数値。こちらを気にかけてこないのも、脅威でもないとわかっているかこそのことだった。


 この場でするべきは撤退。できるかどうかはわからないが、留まっていれば確実に死ぬ。そう思ったカイは未だ動けないリンカに合図を出そうとし……光の塵となったリンカを見た。


「………え?」


 唐突に訪れた展開に理解が追い付かない。だが、いつの間にか先ほどまでリンカがいた場所にいるエンブラー・サイズが、リンカを殺したのだということは理解できてしまった。


「う、うあああああ!!」


 仲間をやられた怒りからか、先ほどまですくんでいた体に鞭を打って攻撃を仕掛ける。


 自らに攻撃をしてきたカイを見たエンブラー・サイズは、目で追いきれない速度をもってカイの目の前に現れ腹に触り────


「《───》」


 次の瞬間、カイの視界は暗転し、HPが全損した。




──プレイヤー:カイのHP全損を確認


──デスペナルティを実行します







 …俺が目覚めたのは街でリスポーン地点に登録されていた広場だった。


「ああそうか、やられたんだな」


 どこか実感のない感情を吐露するように口にする。


 上にはまだまだ上がいることは分かっていた。それでも、強くなれていると思っていた。だからこそ、あの圧倒的な力を見せつけるように殺されたことが何よりも悔しかった。


「……カイ」


 目の前にどこか気まずそうにリンカが立っていた。きっと彼女も感じているのだろう。自らの無力さを。


「ごめん。私が弱かったからあんなにあっさりと…やられてちゃって。こんな不甲斐ない仲間じゃ「それは違う」…カイ?」


「あいつに負けたのはリンカが弱かったからじゃない。俺たちが二人で戦えていなかったからだ」

「っ!」


 彼女は自らの弱さを責めていたようだが、そうではない。そこは否定しなければならない。俺だってあの時は恐ろしくて動けなかった。リンカが殺されるのを見ていることしかできなかった。


「あいつは強かった。手も足も出ないくらいに。だったらさ、俺たちでそれを超えてやろうぜ」


「……え?」


「俺は弱い。どれだけ一人で戦ったとしても、あいつに勝てるイメージはまるで湧いてこない。けどさ、リンカと二人でなら勝てる気がするんだ」


 そう、それが俺が言いたかったことだ。一人では無理でも、二人でならできることを。


「あいつがとんでもない強さをもってるなら俺たちも圧倒的な強さを手に入れればいい。そのためには二人で戦う必要があるんだ」


「……っ!」


「だからリンカ。もう一度俺と、今度はお試しなんかじゃなくて、本当の意味でパーティを組んでくれないか?」


「…………うんっ!!」


 そういった俺に対して、リンカは最高の笑顔で答えてくれた。


 そう、ここからだ。この日、この瞬間から俺たちは本当の意味でパーティを結成した。








 後から聞いた話だけど、やはりというべきかあいつは『ボスモンスター』だったようだ。そしてあの鬼は、他にも森にいた『プレイヤー』や『レイヤ』を殺してまわっていたそうだが、忽然と姿を消してしまったらしい。


 それにあいつが出てきた裂け目も、細かいことは何もわからなかった。周りからはもう倒されたんじゃないかなんて言われたけど、俺たちはあいつが生きていると確信している。


 情報はつかめなかったが、諦めるつもりは毛頭ない。



 そしていつか、この雪辱を果たしてやるのだと誓ったのだった。




「早速戦いに行こう……って言いたいけど、死んだことでなんかデスペナルティが付与されてるんだよな」

「あっ、本当だ。私にもついてる。しかも装備の耐久力も減ってるっぽいし…」


 どこか体の調子がおかしいと感じたのでステータスを確認してみると、《弱体化》というものが状態異常の欄に追加されていた。


《弱体化》

ステータスが減少する。

効果時間:24時間


「大体半減くらいか…。これじゃ戦いにはいけないな」

「今日はアイテムの補充とか装備の整備に努めたほうがいいかもね。どっちにしろもうボロボロだし」


 カイもその意見に賛同し、消耗したポーション類を補充するために店へと向かった。







 アイテムを購入した後、装備の整備を行うため武器屋を訪れたカイとリンカは、互いの装備に関して悩んでいた。


「どうするか…資金は素材を売ってある程度確保できたし、そろそろ防具を新調してもいいかもな」

「うーん。私は防具を着てもそこまでダメージを受ける機会自体少ないし、杖だけ新しくしてみようかな」


 カイは武器は黒鉄製の大剣であり、威力も十分だが防具は初心者用の「カイヤグラ」の素材を用いたものであり、リンカはどちらも初心者用のものだ。


 確かに替え時としてはちょうどいいかもしれない。


「装備の耐久力もボロボロだし、いっそのこと買い替えちまうか」

「さんせー!」



 そうしてカイが選んだものは「ラグホーク」という鳥型のモンスターも素材とした全身装備を8万ゼルで購入し、リンカは6万ゼルの、先端に水色の宝石が備え付けられた《氷晶の杖》を選んだ。




 装備を変えた二人は、できることがなくなってしまったため、その日はそれで別れた。そして後日、《弱体化》の効果が切れたことを確認した二人はもはや日課のようにもなっているレベル上げを行っていた。


 そうして時間が経っていた時───




レベル上限に達しました

第二段階への進化を行いますか?


 新たな力への道が開かれた。

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