第三話 職業講座


 チンピラに拉致されたカイが連れてこられたのは、先ほどの広場から少し離れた場所にある、木造の建物だった。


(こんな奴らに連れていかれるくらいだから、もっとボロボロの廃墟みたいな場所をイメージしてたんだけど……むしろ手入れが行き届いてるのがわかるくらい立派な建物とは。なんなんだここ?)


 今もなおカイを連行し続ける男たちに訪ねようかとも思ったが、余計な事を口走れば何をされるのかわからないため黙っている。いきなりチンピラに囲まれる展開は勘弁してくれよ…などと考えながら建物の二階に上がるとようやく腕が解放された。


「ひゃはは! これからが楽しみだなぁ!」

「一緒に楽しもうぜ、にーちゃんよぉ~」


 そんなことを言われていると背後から声がかけられた。


「ふむ、その小僧がお前たちの連れてきた初心者か」


 その野太い声が響く場所に目をやるとそこには………筋肉がいた。いや、正確にはすさまじい筋肉をもった男がいた。


(やばいな…、この二人組だけならなんとか逃げられるかとも思ったが、この男から感じる圧力はその比じゃない!)


 カイがわずかでもこの場から逃げられる算段を模索していると、筋肉をもった男が迫ってくる。


「では始めようか。このビルダーが直々に行う……初心者のための講義をなぁ!!」

(だめだ! やられる!)








「いやー、すまんすまん!」


 結論から言えば、暴力は何も起こらなかった。いや正確には、カイに対してはというべきか。カイとビルダーの後ろではカイを連れてきた二人が呻き苦しんでいる。


「まさかこいつらから何も教えられていなかったとは……。お前がおびえるのも無理はない」


 実はこのビルダー。本当は善意で初心者へのアドバイスや手助けを行っていた『プレイヤー』だったのだ。そして一見チンピラに見えるあの二人は、その活動に共感し、手伝いを請け負っていたそうだ。


 しかし、なんの入れ違いかこの二人は、当の初心者であるカイにそういった助言を受けられることを伝え忘れていたのだ。


「初心者の手助けをするための場だというのに初心者を怖がらせては本末転倒ではないか………。この馬鹿者が!!」


 その事実を知ったビルダーが憤慨し、二人の腹に渾身の打撃をお見舞いし今に至る、というわけだ。


「本当にすまん。こいつらは私がきっちり締めておくから、どうか許してほしい」

「いやいや、俺も別に被害は受けていないしいいって。全然気にしてないから」


「そういってもらえるとありがたい…」といって少しぎこちなく笑う。


「まぁそんなことよりも、ここって初心者のための講習をしてるんだろ? 俺もこの世界のことはまだよくわかってないし、いろいろ教えてくれると嬉しいんだけど」


 湿っぽい謝罪の雰囲気を変えるため、カイが提案する。実際まだルーキーであるカイはこの世界に関して詳しく知らなければならないと考えていた。今度ゲームのホームページでも見て調べようかと思っていたが……、実際にゲーム内で教えてくれるという者がいるのならそれに乗らない手はない。


「そうだな。ではビルダーの初心者講習といこうか!!」


 すっかりテンションを取り戻したビルダーが宣言する。


「ではまず最初に、自分のステータスの確認からだ。頭のなかでステータスを表示するように意識してみてくれ。

「頭でイメージってこんな感じか…?」


 そうして実践してみると目の前に自身のステータスが表示された。


カイ Lv:1 職業:剣士


HP 560/560

MP 80/80


STR 140

END 132

DEX 72

INT 65

AGI 113

LUC 26


状態異常:なし


《装備一覧》

《スキル一覧》

SP:0


「おお……! なんか出てきた!」

「それがお前のステータスだ。職業や自身の持っているスキルはそこで見ることができる。数値に関しては、大体100くらいが一般的な男の数値だと覚えておけばいい」


 なるほど、自分は〈剣士〉という接近戦を主とする職業だから物理的ステータスが高めになっているのか。と考えるが、そうなると運の数値が自分の異常な低さが目立つ。こんなところまで反映しなくてもいいだろう……。


「ステータスが確認できたところで、職業に関して教えていこう。今のお前は始めたばかりだから第一段階の〈剣士〉だな」

「第一段階……?いや待ってくれ、それより前に俺あんたに自分の職業教えてたっけ?」


「ああ、それは俺が《鑑定》のスキルでお前のステータスを確認したからだな。勝手に見てしまって不快にさせてしまったのなら謝罪しよう」

「いや、大丈夫だ。ちょっと疑問に思っただけだから」


 自分の情報が漏れていたのかとも思ったが、そういうことだったのかと納得する。


「話を戻すぞ。職業は第一段階から第六段階までの進化があり、各々が得てきた経験によってその進化も変化していく。第一段階と第二段階は〈下級職業〉、第三段階と第四段階は〈中級職業〉、第五段階は〈上級職業〉、そして第六段階は〈最上級職業〉と呼ばれ、ここまで至ればその者だけの唯一無二の職業となる。基本的にそれぞれの段階のレベル上限までレベルを上げることで、職業は進化させることができる」


「そして進化した際にレベルは再び1となる。まあステータスの数値やスキルは引き継がれるからそれほど苦労しないんだがな」

「ふむ……やっぱりそれぞれの段階でレベルの上限も変わってくるのか?」


「ああ、それぞれ順に50、100、200、300、500と上がっていき、第六段階ともなればレベル上限はなくなる。」

「レベル上限がない? ってことはどこまでも強くなれるってことかよ…」


「そうだな。だがその強力さに反して第六段階に到達した『プレイヤー』は数えるほどしかいない。NPCでもある『レイヤ』を含めてもなおな」


 あの本物の人間にしか見えないNPCは『レイヤ』と呼ばれるのか……と考える一方で、第六段階の職業を持つ者が少ない理由を探すが、やはりわからない。


「もしかして、第五段階のレベル500まで届くやつがそもそも少ないとかか?そこまでレベルを上げるのなら相応に時間もかかるだろうし」

「確かにレベルを上げるのは時間がかかるし、段階が上がるにつれてその人数は少なくなっていく。けど別にいないわけではないし、第六段階の職業持ちに比べれば第五段階のレベル上限まで上げたやつはそれなりにいる」


「だとしたらなおさら、なんで少ないんだよ」

「それはな…第六段階への進化のために、その人物ごとに設定された特殊条件を達成する必要があるからだ」


「しかもその条件は達成できるまでその内容がわからない。つまり不明瞭な条件を達成できるまで、闇雲に動くしかないんだ。『プレイヤー』の間では最初から条件は決められてるとか、それまでの経験や思考を反映させて決められてるとか言われているが、そこは定かではないな」


 内容のわからない進化条件。そんなものがあるのなら進化できた者が少ないのにも納得だ。要はクリア条件のわからないゲームをしているのと同じなのだから。それでもこのゲームが人気を博しているのはそれだけ第六段階の職業に魅力があるからだろう。


「そんな第六段階の職業を持つ者達は敬意をこめて『到達者』と呼ばれている。まあ一種の名誉みたいなものだな」

「『到達者』か…。大体どんなやつがいるのかとかは知られてるのか?」


「有名なのは協会に所属している〈聖女〉とかだな。あれも回復系統の魔法に特化しているから直接戦闘こそできないが、強力な職業であることは間違いない。ほかにも『到達者』であることは分かっているが、職業を公にしていないやつも多いな。まあ自分の最重要機密ともいえるから仕方ないがな」


 職業に関しては理解できた。要はレベル上げをしていって最終的に特殊条件を達成できれば、晴れて『到達者』というわけだ。


「職業に関してはこんなところだ。次はスキルについて教えよう!」

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