第3話一つ目の理由
長い夜を峯田の眠るベッドの側で過ごしていた。
何処か心配な彼女から目を離すことが出来ずに眠れない夜は過ぎていた。
陽も昇ろうとしている世界で僕は軽くうとうとしていた。
少しの間、座りながら目を閉じると時間が過ぎていった。
「おはよう…私…やらかした?」
陽も完全に昇りきった世界でベッドの上でガサゴソと物音を立てた峯田に気付くと目を開ける。
「おはよう。別に何もやらかしてないよ。酔ったら皆あんな感じでしょ」
「そう…失望してない?」
「全く。初めて見た姿だったから感動したぐらいだよ」
軽く苦笑してその様な言葉を口にしてみると峯田は額を軽く押さえた。
「遂にやってしまったかぁ〜…加藤くんの前ではしっかりとしておきたかったんだけどなぁ〜…やっぱり疲れているときは酔いやすいね…」
峯田は自分に呆れるように嘆息するとベッドから這い出てキッチンへと足を向けた。
僕も彼女の後を追うように立ち上がるとリビングに顔を出した。
「せめて朝食ぐらいは作らせて。ってかタクシーか何かで私をここまで運んでくれたんじゃない?お金は出してくれたの?」
「あぁ〜。まぁそうですけど。居酒屋で奢ってもらったんで…これぐらいは出させてください」
「良いの?私のわがままだったのに…」
「構いませんよ。これで対等ってわけじゃないけど…これぐらいはさせてください」
「そう。加藤くんが良いなら…じゃあ朝食食べたら揃って職場に向かう?シャワーでも浴びてきたら?」
「借りて良いんですか?」
「全然いいよ。変えの着替えはないけどね」
「じゃあお言葉に甘えて。行ってきます」
峯田の案内に従って脱衣所まで向かうと服を脱いで風呂場に向かった。
シャワーで全身を流すとそこから時間を掛けて丁寧に洗っていくと二十分程で脱衣所に出る。
用意されていたバスタオルで全身を拭くと着ていた服に再度着替えてリビングに顔を出した。
「使わせて頂きました。ありがとうございます」
そんな言葉を残してリビングの椅子に腰掛けると峯田は簡単に作った朝食をテーブルの上に置いていく。
「あまり凝ったものが出来ないで申し訳ないけど…良かったら食べて」
「ありがとうございます。お腹空いていたので助かります」
「お口に合うか分からないけど…どうぞ」
「いただきます」
手を合わせて甘そうなフレンチトーストをフォークで刺して口に運んでいく。
「美味しいです。甘くて。朝から元気が出そうです」
微笑んでそんな言葉を口にすると峯田は軽く破顔した。
「良かった。嬉しいよ」
隣に腰掛けた峯田も自分の作った朝食に手を付けていた。
そこから食事に集中しており少しの間、無言が続いていた。
「そう言えば…」
食事も終わりに差し掛かる頃に僕は峯田に問いかけた。
「何かな?」
「えっと…どうして僕にだけ甘いんですか?」
何気なしに疑問に思っていたことを問いかけてみると峯田は仕方なさそうに返事をくれた。
「まぁ…私の人生で一番付き合いが長い人だからって言うのはあるよ」
「そうなんですね。僕もそうですから…何となくわかりますけど」
「殆どの人が離れていくもんね」
「そうですよね。長い付き合いの人でもいつの間にかいなくなりますもんね」
「何でだろうね。まぁそれぞれの道に進むってだけの話なんだろうけど」
「残された方は寂しいですよね。だからかはわかりませんが…僕もこの場から離れたくないですし…」
「うん。出来たら離れてほしくないけど…夢はどうするの?」
「簡単に叶うような夢じゃないですし…当分は離れないと思いますけど」
「そう。叶っても一緒に居られたら良いね」
「そうですね…もう誰かとの別れは嫌ですからね…」
「そうだね…」
二人して朝から少しだけしんみりとした雰囲気で話をしていた。
朝食を終えて食器を洗っていると峯田は風呂場に向かう。
彼女もシャワーを浴びて出勤時間一時間前に峯田の家を出る。
本日も峯田とペアでホールの仕事をこなすのであった。
一つ目の理由はおぼろげに理解できた。
あと二つの理由とは…?
それはまだ謎なのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。