第6話 検証
「なぁ。昔さ、毛穴パックとかいうやつが流行ったじゃんか」
『ん? 毛穴パックって、今は流行ってないの? 角柱って駆逐されたの?』
「いや、角柱を駆逐できるほど人体は進化してないよ」
『じゃあ、廃れるはずなくない?』
「ああ、その、剥がすやつ」
『ああ、剥がすやつ! それなら確かに廃れたね。一応売ってはいるけど、前ほど盛り上がってないっていうか。あれ、なんで廃れたんだっけ?』
「剥がす時に、角質を取りすぎる、みたいな理由だったはずだよ」
『なんか適当だな。話題にするなら、もっとちゃんと調べて、覚えてからこいよ』
「ごめん」
『いいよ。そんで? 角柱を取ろうとして角質まで取っちゃうから? かぁ。それが本当だったらさ、角柱だけ取れるやつを開発すればさ、廃れることなく、今でも大人気だったりしそうだけどね』
「まぁね」
『そんな都合のいいものは、開発不可能だったってことかなぁ』
「ま、開発したところでって感じなんじゃない? コストに見合わないっていうか」
『ま、クレンジング何ちゃらで溶かしてしまえばいいと』
「そそ」
『ところで、毛穴パックがどうかしたの?』
「ああ、いや、その……。あれってさ、うまいこと角柱をキャッチできたら、チンアナゴが取れるって聞いてさ」
『……はい?』
「チンアナゴ」
『いや、人間の鼻の毛穴からチンアナゴが出てきたら引くけど』
「あー、ごめん。その、取れた角柱がチンアナゴみたいに見えるってこと」
『あー、そういうことね』
「それでさ、なんかほら、ちょっと興味が」
『剥がしたパックを見てみたいと』
「そうそう」
『でも、どうするよ?』
「とりあえずさ、やってみたらどうかなって思うんだけど」
『……ん?』
「やってみるんだよ。チンアナゴ観察」
『はぁ』
「まずはこのでっぱったあたりを洗って」
『はいはい』
「綺麗になったら水で濡らして」
『うん。だいぶ濡れてるっていうか、なんていうか。これ以上濡らすのは不可能だよね?』
「そうしたら貼り付ける」
『私の話、聞いてくれてる? ま、いっか。それで、うん。貼り付けるっていうか、貼り付いてるっていうか』
「貼り付けたら、しばらく待つ」
『どのくらい?』
「季節によるらしいんだけど、だいたい十分くらいかな」
『ふーん』
「さて、乾くのを待つ間、何しよう」
『うーん。これ、乾くのだろうか』
「ひまだなぁ、ひまだなぁ」
『ほっといたら十分間「ひまだなぁ」って言ってそうだな』
「おお、じゃあこの先、『ひまだなぁ』と言ったら負けゲームでもするか」
『ひまだなぁ』
「おい、ふざけるなよ」
『はいはい。仕切り直しましょうね』
「んで、何しよう」
『ひまだ――』
「そうだ、なんか面白い話をしてくれよ」
『はぁ? なぜ私が』
「いや、わたしに面白い話ができるとでも?」
『そんなことは思っていないけどさ』
「失礼な」
『自分で言ったんだろうが』
「さぁ、失礼なことを言った罰だ。さっさとわたしに面白い話を聞かせたまえ!」
『申し上げれば宜しいか』
「そうだそうだ! 申せ申せ!」
『ええ、と。のんびりと空を見ていましたところ、突然「なぁ。昔さ、毛穴パックとかいうやつが流行ったじゃんか」と話しかけられた私は――』
「え、今の今までの話を改めて語られても、プランクトンほども面白くないんだけど」
『え、マジ?』
「うん。マジ」
『なにそれ。私は今の今まで面白くないことに付き合わされてるってこと?』
「いや、そんなことはないさぁ。アハハ」
『苦しいのぅ。正直を言うと、私も苦しいのだよ。今一番面白い話を否定されてしまったからねぇ』
「なんか、ごめん」
『いいさ、いいさ。私が楽しい気持ちになるような話を君がしてくれたなら、今のことは全て水に流すさ』
「ほう。お、そろそろ十分経つな」
『おい、面白い話は?』
「それでは、しっかり乾いたようなので」
『いや、めちゃくちゃ潤ってるけど?』
「バリッと剥がしていきたいと思います」
『いやいや、待て待て。角質がどうとか言ってなかったっけ? なんかこう、イメージの話で申し訳ないんだけど、バリッといくよりゆっくりの方がダメージが少なそうな気がするよ?』
「おお、そう? じゃあ、ゆっくりいく?」
『ゆっくりできるものなら』
「できるかな」
『ゆっくりな、ゆっくり』
「そーっと、そーっと」
『お、すげぇ、剥がれてきた』
「おお、なるほどチンアナゴ」
『わ、引っ込んだ』
「くそ、出てこいチンアナゴ」
『ってか、これじゃチンアナゴ死ぬんじゃね?』
「それはいけない」
『元に戻せ』
「もう一度貼り付ければいいか?」
『まぁ……たぶん?』
「ふぅ。これで元通りだ」
『一安心だな』
「うーん。元通り、なのかなぁ」
『何か不満か? 申せ』
「なんか、肌がピリピリするんだよ」
『マジ?』
「久しぶりに太陽の光を直接浴びたからかなぁ」
『そうかもね』
「痛いの嫌だぁ。〝道を作ろうとする奴が二度と現れませんように〟って神に祈ろう」
『手を差し伸べれば宜しいか?』
「いやいや、手なんかないじゃないか」
『生み出すさ』
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