第2話 ひみつきち


 ぼくのひみつきちは、くもをつかめるくらい、たかいところにある。

 ひみつきちにでいりするのは、ぼくとショウマたいいんだけ。ちょっとまえまでは、レンたいいんもいたんだけど、おかあさんに「もういかないように」っていわれたらしくて、もうこない。だからいまは、ふたりだけの、あそびば。


 きょうはまだ、ショウマたいいんがきていない。

 ぼくはひとり、そらをかんじながら、おおきなあくびをひとつ。

 あれ? あのくも、ソフトクリームのかたちをしているや。

 おいしそうだなぁ。

 ひとくちたべちゃお。

 パクッと。

 あれ? ショウマたいいん、おそいなぁ。

 まぁ、ここはたかいところにあるから、くるのちょっとたいへんだもんな。

 のんびりまつか。

 もうひとくち、パクッと。


 ぼくは、ひとり、かぜとあそんだ。

 かぜはかってにやってきて、ぼくのほっぺたをくすぐったりして、にげていく。

 ピンポンダッシュするみたいに、にげていく。

 わるいことじゃないんだからさ、もっとゆっくりしていけばいいのにね。


 ぼくはかぜがふわぁ、とぼくのおやつをとっていこうとするから、「どうぞどうぞ」っていった。

 そうしたら、とおく、したのほうから、「コラ、おちてるおかしにさわるんじゃないの!」って、おんなのひとのこえがした。

 たぶん、だれかのおかあさん。

 あれ? もしかして、ショウマたいいんのおかあさんだったり、するかなぁ。

 ショウマたいいんも、ここにこなくなっちゃったり、するかなぁ。

 もしもそんなことになったら、いやだなぁ。


 カン、カン、カン、と、おとがした。

 だれかがのぼってくるおとだ。

 おとは、たぶん、ひとりぶん。

 それに、あのリズムは、たぶん、ショウマたいいんだ。


 そらをみた。

 もうそこに、ソフトクリームはない。

 でも、かわりにゾウさんがやってきた。

 はながふわーん、ってうごいた。

 なんだか、パオーン、って、あいさつをしているみたい。

 ショウマたいいんがきたら、そらがどうぶつえんだよ、っていおう。

 いっしょにゾウさんをながめて、それから、どんなくもがながれてくるかはわからないけれど、ながれてきたどうぶつをみるんだ。

 もしもながれてこなかったら、そのときは、ふたりのこころのふでで、そらにどうぶつをえがくんだ。

 きょうりゅうとかもいいな。

 むしもいい。カブトとか、クワガタとか。かっこいいやつを、たーくさん!

 カン、カン、カン。

 そろそろぼくは、ひとりじゃなくなる。


「やっほー! まった?」

 やっぱり、ショウマたいいんだ。

「ううん。まってない」

「うっそだー」

「うーん……。まってたつもりはない」

「ははは!」

 ショウマたいいんは、あせをグイッとぬぐうと、ごろんとねっころがった。

 ふわぁ、とおおきくいきをはく。

 ぼくには、そのいきがみえた。

 ううん。いきとはすこしちがうかもしれない。

 ショウマたいいんのくちから、おつかれかいじゅうが、ひょこってかおをだしたのを、ぼくはみたんだ。

 ぼくは、かいじゅうをみたことを、こころのなかにしまって、ショウマたいいんのよこに、ごろん、ってねっころがった。

「きょうもいいてんきだね。おひさまがポカポカで、きもちがいいや」

 ショウマたいいんが、わらった。

「そうだね」

「ずっとここにいたらさ、ねむたくなっちゃいそう」

「そうかも」

 とつぜん、ぼくのくちから、ねむねむかいじゅうが、にげようとした。ぼくはいそいで、かいじゅうをのみこむ。

「ははは! ねむたくなってんじゃん」

「さっきまでは、すこしもねむたくなかったようなきがするんだけどなぁ。おかしいなぁ」

 ふわぁ、とおおきくいきをはく。

 かぜが、ぼくらのほっぺたをとびいしがわりに、ピョン、ピョンと、はねておどった。


「ねぇ。きょうさ、うちにこない?」

「え、ショウマたいいんのいえに?」

「そうそう」

 ぼくは、ショウマたいいんとは、ひみつきちでしかあえないとおもっていた。

 まさか、おうちにおよばれするひがくるとは。

 ぼくは、きゅうにドキドキしはじめた。

 どうしよう。もう、きんちょうしてきちゃった。

「だいじょうぶ?」

「う、うん」

「いえ、いや?」

「うう……う、うわぁ!」

 とつぜん、くもがふってきた。ぼくはおどろいて、とびおきた。

 ぼくは、くもをふりはらおうと、りょうてをブンブンふりまわした。

「もー。じっちゃんはほんと、虫が苦手だよね」

 いいながら、ショウマたいいんが、ぼくからくもをとってくれた。


「にがてじゃないやい。カブトとか、クワガタとか。かっこいいとおもってるし」

「わかる。わかるよ。でもさ、さわったりとか、そういうの、苦手じゃん?」

 ぼくは、むくれた。

「ほらほら、いこう。レンが、じっちゃんと遊びたいって言ってたよ? もう風邪治ったんだけどさ、公園で遊ぶほど元気じゃないっていうか。だからさ、うちでなら遊べるからさ、来てよ」

 ぼくはショウマたいいんにてをひかれながら、ちじょうにおりた。

 ちじょうにはおんなのひとがいて、ぼくにほほえむと、

「おじいちゃん、かえりますよ」

 といった。

 

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