2話
2
メガミに促されるまま薄汚れたトイレの扉を押し開けると、そこは雪国……ではなく、雪のように真っ白な花畑であった。青空の陽光を照り返し、一瞬目がくらんだ。
「おお、タヌキもんのどこでも扉みたいだ。イセカイの最先端技術はとんでもないな!」
通り抜けた扉が溶けるように消えたのを見届けた後、六男は鼻息荒く興奮したまま辺りを見渡した。
「……あれ、メガミさんはどこだ? トイレか?」
『違います。女神は排泄しません』
「なに?! 声が直接脳内に……!」
驚きつつも疑うことなく、
『そのまま東に向かえば、アインズという交易が盛んな町があります。人間に友好的な種族が多いので、へんじ……個性的なロクオさんでもギリギリ多分溶け込めると思います』
「メガミさんは一緒に来ないのか? これから共に働く仲間として、一緒にメシでもと思ったんだが……」
『いえ私は……時の狭間で
「何? メガミさん残業中だったのか。今からでもオレに手伝えることはないのか? 早く終わらせて、一緒にフライドポテトを食おう!」
すると一瞬、メガミが驚いたように息を呑む気配がし、「気持ちだけ受け取っておきます」と言って小さく笑った。
『それにフライドポテトは……どんなに美味しくても、食べたら死ぬ料理なんて女神的にはちょっと……』
六男は思わず立ち止まって、晴れ渡った空に向かって慌てて弁明をし始めた。
「ち、違う! それは誤解だ! 確かに16歳で上京して5年間、あまりの旨さに食べに食べたら腹囲が身長と同じになり、痛風と尿路結石と糖尿病になった。死ぬぐらい辛く苦しい思いをしただけで、食ったら死ぬ料理ではない! この世で一番美味くて幸せになる魔法の食べ物だ!」
『ええ……どんな病気か知りませんが、やっぱ毒や呪いみたいなものじゃないですか。検索したら身体に悪いとか寿命が縮むって書いてありますけど』
その正論ストレートパンチに二の句が継げず、空に向けて突きつけていた人差し指をぶるぶる震わせながら拳に戻した。
「……だから今はじいちゃんとの約束を守るため、親友考案の『ウマ女子になった気分で人参ダイエット』を続け、医者の言う通りフラポテもSサイズを月に一回だけにしている。体重は元に戻ったが、生きる楽しみが少なすぎる……せめてМサイズがいい……」
口惜しそうに顔を歪めた六男は、思わず両手で顔を覆い、ぐすぐすと鼻を鳴らし始めた。
「ナック、ぞうさんバーガー、ネス、ケンタおじさん……修学旅行で北海道に行ったとき、我慢できずにグループから離れてハッピーピエロに行った。その後班長のゴリ子にタコ殴りにされたが、後悔も反省もしないぐらい本当にサクカリだったのが今でも忘れられない。食べたくて食べたくていつも震えが止まらない……だが!」
ガバっと顔を上げ、溢れ出る悔し涙を手の甲で拭って叫んだ。
「ここならLサイズフライドポテトを1日3食100年間食べ続けても、病気一つしない健康な身体が手に入るなんて……イセカイの科学力は世界一ィだ!」
『……実際はもう耐毒と耐呪スキル最大値、寿命を125歳に付与済みなんですけどね。もう説明しても分かってくれ無さそうだからいいや』
「さぁ、そのアイーンとかいう街へ行こう! そこの本社で薬でももらえるのか? それとも改造手術でもするのか? フライドポテトの未来を救うバッタのヒーローなら歓迎だぞ」
先程とは打って変わって、鼻歌交じりでルンルン気分の六男は再度歩き始めた。『この人、やっぱ頭おかしい……』と、妙にげっそりとしたメガミの呟きがその後を追った。
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