第46話
「何よ、真琴ちゃん」
可哀想なので混ぜてあげることにした。ああも泣かれては夏休みの計画どころではない。澄河さんもなんだか気まずそうにしているし、話くらいなら聞いてあげてもいいだろう。どんな悩みだって人に打ち明けるだけで多少なりとも胸が空くものだ。
「綾が許してくれないんだぁ……」
「ああ、そうですか」
真琴ちゃんと綾先輩はどうも交際していたらしいのだが、真琴ちゃんがあまりにも学園の王子様的振る舞いを憚らないので嫉妬深い綾先輩がついにキレた、というところまでは知っている。
「なんて言われたんですか?」
「最初はね。どうして私の気持ちが分からないの、的なことを言われたんだ。それで私としてはこう返したわけだ。キミの愛ならきちんと受け止めているつもりだよハニー、と」
「はぁ」
混ぜなきゃよかった。そこらのおじさんの初夢の話でも聞いていた方がよっぽど有意義な気がする。
「そしたらこう来るわけだ。私のことを愛していないのか、と。いやいや、そんなわけはない、キミへの愛なくして久野真琴は久野真琴たりえないと」
「で?」
「なら、どうして私が怒っているのかわかる?と来たもんだ。でも、嘘をついちゃよくないと思ったから、素直にわかんないとこう答えた」
バカじゃないんだろうか。金鳳花は相当偏差値が高いはずだけど。あれか、バカと天才はなんとやらってやつか。化けの皮が一枚剥がれてバカが露呈したんだ。
「……」
「そしたらその場でほっぺをひっぱたかれて、綾もぷいっと部屋に帰っちまうし、私ったらその場で大泣きしちゃった。それで、落ち着いてから部屋に戻ると、まあ綾はいたんだけど、今日の今日まで一言も口をきいてくれなくてね。あんまり寂しいから君たちに泣きついてきたってわけさ」
「よくもまあそんな情けない話を後輩に……」
「頼むよぉ!仲を取り持っておくれよ!毎晩毎晩気まずいっていうか、枕がびしょ濡れっていうか、とにかくしんどいんだよぉ!」
真琴ちゃんは縋り付いてくる。廊下を通りかかるお嬢様方がこちらを見てひそひそと何か囁いている。きっと「あらまあ、仲が良くって微笑ましいこと」とは思っていないんだろうな。
「そんなこと言われても……。そういや澄河さん、天野先輩と仲良かったよね」
「えっ!」
私に振らないでよ、といった顔をしている。逆の立場だったら私もそんな顔をするだろうな。
「ね、お願い。なんとか綾の斜めに傾ききったご機嫌を真っ直ぐにしてくれないかな」
「……話くらいはしてみます」
「ありがとう!いや、君は私の天使だよ、深山澄河ちゃん」
そうやって誰にでも天使とか言うからよくないんじゃないかしら。これを言ったところでなぜよくないかの説明が面倒なので言わないことにしよう。
「それじゃすみか、行こっか」
「へ?どこに?」
「どこって。綾先輩のところ」
「私も?」
「うん。一人だと説明が大変だから」
「ああ、うん」
まあ、ここで真琴ちゃんを励ますよりは事態が進展するはずだ。少し可哀想な気もするが、なんというか見てらんないし、落ち込んでいる真琴ちゃんはなんとなく顔を合わせたら損する気がする。というか、この人こんなんだったっけ。前に遊びに行ったときはもうちょっとイケメンだった気がする。
「え?私置いてくの?」
「わがまま言うと取り持ってあげませんよ」
「分かった……」
綾先輩と仲がいいだけあって真琴ちゃんの扱いも心得ているらしい。真琴ちゃんは随分しょんぼりしてしまっているが、いい気味という言葉がパッと脳裏に浮かんできた。
☆☆☆
「というわけで来ました」
天野先輩は寮の部屋、つまり私たちの二つ隣の部屋にいた。
「はぁ……。ごめんね、ふたりとも。なんか変なことに巻き込んでしまって」
ほんとだよ。
「それで、許してあげないんですか?」
「正直、もうそんなに怒ってないんだけどね。ちゃんと謝ったら許してあげようと思うんだけど……」
「謝んないんですか、真琴ちゃん?」
「謝っては来るんだけど、なんかズレてるというか。何が悪かったのかまるで分かっていなさそうだから」
「はあ」
「参考までに、何が気に入らなかったんです?」
「まあ、あのスケコマシよね。目に付いた子のほとんどにやれ天使だの小悪魔だのと言うもんだから、本気にしちゃう子もいてね。妬んじゃうのもそうだけど、妬まれちゃうのもキツくて」
それは大変そうだ。女の嫉妬は傍から見てもなかなか気持ちのいいものではないし、当事者にしたらなおさらだろう。
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