第41話
「というわけで、ひかりちゃん、おめでとー!!」
「いやぁ、ありがとうねぇ」
私が乾杯の音頭をとると、ひかりちゃんはそう言ってはにかんでから、黄金色のジンジャーエールを飲み干した。
流石に黄金のツートップと呼ばれるだけのことはあって、ひかりちゃんの試合は圧勝だった。ひかりちゃんと黄金の片割れにあたる先輩とは攻撃の主力として大活躍し、ふたりでゴールとアシストを2回ずつ分け合った。結果としてスコアは4-0。サッカーはもっとも点の入りにくいスポーツらしいが、今日の金鳳花サイドにとってはそうでもなかったみたいだ。
今はサッカー部での祝勝会から帰ってきたひかりちゃんを祝うため、栞ちゃんの発案で我々4人での二次会を開催しているところだ。一次会の方で、大活躍だったひかりちゃんはなかなかの量のご飯を食べさせられたらしく、せっかくのピザはひかりちゃんの口にはあまり入っていかない。
「次の試合は?いつ?」
栞ちゃんはずいぶん前のめりだ。
「来月だよぉ、練習試合だけど」
「じゃあ、けっこう間が空くんだ」
「ほんとはね、もうちょっと練習した方がいいと思うんだけどねぇ」
「そうなの?」
「うん。次のお相手はそこそこ強豪校だからねぇ。でも、先輩たちもすっかりお祝いムードだし、大会の予選が始まるのは9月だから、私もこうやってゆっくりみんなと過ごしているのです」
インターハイというのだろうか、たしかに全国大会が年末あたりにやっているらしい。その予選は夏休みの末頃から始まるらしい。金鳳花の試合は日程が遅く、夏休みが明けてから始まるようだ。
「やっぱり目指すは優勝だよね。私を連れてってよ、甲子園的なとこに」
「なんだよぉ、甲子園的なとこって。それに、優勝はさすがにねぇ。人数も少ないし、今日勝てたのは奇跡みたいなもんだしねぇ」
「ずいぶん弱気じゃない。私の同室がそんなの許さないんだからね」
「えへへぇ」
栞ちゃんはだいぶ遠慮がなくなってきた。将来はダンナを尻に敷くタイプの嫁御さんになりそうだ。現状、ひかりちゃんはしっかり座布団状態だ。
そういえばどこかで聞いたと思うけど、夫婦円満の秘訣は旦那が上手に嫁の尻に敷かれてやることらしい。その点ひかりちゃんは良い夫と言えるだろう。
「そういえばさ」
澄河さんが切り出した。
「栞さんの演劇ももうすぐ発表じゃなかった?」
ああ、確かに。
「何の劇だっけ、栞ちゃん」
「ロミオとジュリエット。シェイクスピア」
名前だけは聞いたことある。なんだったかな、ああロミオ、なんであんたはロミオなの、のやつだ。そんで死んだフリしたらほんとに死んじゃうやつだ。細かいところは違うかもしれないが、だいたいそんな感じだったはずだ。
「役は?」
「侍女C……」
「Cかぁ……」
「オーディション負けちゃったの!」
「セリフは?」
「ない。突っ立ってるだけ」
「それは見ものだわ。でさ、なんの役のオーディションだったの?」
「ジュリエット……」
ぴっかぴかの新入生のくせにずいぶん強気だ。
「ねぇ、すみか。ロミオとジュリエットに侍女なんていたっけ」
澄河さんがこそこそと訊いてくるけど、知らん。
「いるんじゃない。現に目の前にいるし」
「そうだっけかなぁ……」
澄河さんは納得していないようだけど、おそらく本人が一番納得していないので、これ以上の追求は無意味だと思う。
「でもさ、栞なら脇役でも主役を食えるよぉ。『美しすぎる侍女C』みたいな」
「なんか売り文句が古いなぁ……」
「ちゃんとやるんだよぉ。私たち見に行くし。ねぇ、すみかちゃんず」
人をハムスターみたいに。まあ、そのつもりだけど。
「えっと、ロミオとジュリエットだっけ?予習とかして行った方がいいのかな。私読んだことないし」
「私もぉ」
仲間がいた。今日の主賓がこちら側とはなかなか心強い。
「こ、来なくていい!恥ずかしい!」
栞ちゃんは顔を赤くしている。これはからかい甲斐があるというものだ。
「侍女Cが何を恥ずかしがることがあるのさ、セリフもないのに。ていうかジュリエットやろうとしてたくせに」
「そうだけど……」
「世の人々に見せておやりよ。稀代の名優、野上栞はここにあり、ってさ。彼女のスターダムはここから始まったって」
「もう、あんまりからかうと、先生にあることないこと言いふらすよ!なんたって、私学級委員なんだから」
栞ちゃんはぷりぷりしている。愛いやつめ。
「大丈夫だよぉ、栞」
おっ。ひかりちゃんがなんか言うぞ。
「栞だったら、堂々としてれば大丈夫。なんたって私の友達なんだから」
「う、うん……」
栞ちゃんは顔を真っ赤にしている。愛いやつめ。
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