第4話 side 琴葉1

 琴葉視点のお話です。

 ここから数話続きます。


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 12月のある日

 雨が降りそうだったので急いで帰ることにした私、柊 琴葉ひいらぎ ことは


 学校からは徒歩で20分程の距離にあるファミリー向けの2LDKのマンション。

 オートロックを抜けエレベーターに乗り3階へ。

 鍵を取り出し開けようとすると、鍵は既に開いていた。


「あれ?朝ちゃんと閉めたよね…。もしかして…」


 ドアを開けるとそこには予想通り一足のハイヒールが。


「お母様が来てるのか。連絡くらいしてくれればいいのに」


 そんな事は有り得ないと分かっていつつも期待してしまう。


「ただいま」


 返事は無いと分かりつついつも口にしている言葉を口にする。

 すると廊下とリビングを隔てるドアが開き、母が出てきた。


「やっと帰ってきたわね。全く私を待たせるなんて」


 勝手に来ておいてこの言い草。母はいつもこうなのだ。


「申し訳ありません。学校が終わって急いで帰ってきたのですが。それで本日はどうされたのでしょうか」

「チッ。まぁいいわ。今日はあなたに伝えたい事があって来たのよ」

「伝えたい事…」

「そう。私は彼と一緒になる為に、色々準備をするの。だから今後二度と私に連絡をしないでちょうだい。何かあったらあなたの父親に連絡してちょうだい」

「えっ…」

「あら、理解出来なかったかしら?」

「い、いえ…」

「そう。じゃあね。まったく…あなたさえ居なければもっと早く彼と一緒になれたのに!」


 そう言って母…だった人は帰っていきました。


 玄関に荷物を置き、フラフラとした足取りのままエレベーターへ乗り、エントランスを抜け外へ。

 降り始めた雨を気にする事なく、あてもなく彷徨う。

 そして辿り着いたのはマンションから5分もしない場所にある小さな公園。

 その公園にあるベンチへ雨で濡れている事など気にもとめず座り、ぼーっと足元を見つめる。


「何がいけなかったんだろ…私何か悪い事したのかな…」


 思考はどんどんと暗くなっていく。グルグルと廻るのは良くない事ばかり。

 どれだけの時間そうしていたのか分からないが、誰かに声をかけられ思考の渦から抜け出す。


「琴葉ちゃん、こんなところで傘もささないで何してるの?」

「……小鳥遊先輩」

「風邪、引いちゃうよ?」

「……ほっておいてください…」

「そう言われてもなぁ…流石にほっとけないって」

「…」


 小鳥遊たかなし先輩。小鳥遊 遥先輩。

 私の住んでいるマンションの隣の部屋で一人暮らしをしている、同じ高校へ通う1学年上の先輩。

 優しく声をかけてくれた先輩へ、ネガティブな思考になってしまっていた私は素っ気なく返してしまう。そしてその事に対してまた自己嫌悪する。


「帰らないの?」

「……帰りたくないんです。」

「うーん…。

 とりあえずこのままここに居るのはあまり良くないし、うちにおいでよ」

「……大丈夫です」

「いやいや、そんな顔して大丈夫な訳ないじゃん!」

「ッ!!」

「話くらいなら聞くから、とりあえず行こ?」


 そう言って先輩は私の手を掴み引っ張って行った。抵抗する気力もなくただ着いて行く。何も言わず自分が濡れるのも構わず傘に入れてくれたのに、それにお礼を言えないことにまたしても自分が嫌になる。


 気付けば数十分程前に居た場所へ戻って来ていた。

 先輩は自分の部屋の鍵を開けるとまた私の手を掴みそのまま中へ入った。


「ただいま〜」

「…」

(先輩も返事は無いって分かってるのにただいまって言うんだ…。)


 そんな事を考えていると先輩は

「タオル持ってくるからちょっと待っててね。」

 と言い脱衣場の方へ行ってしまった。

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