リュッセロへ 2
「殺された?」
「あぁ、余も話として聞いただけだが・・・」
「でも、王妃様は第2王女と第3王女を産んだその疲労で亡くなったと聞きましたが?」
「確かにそう伝えられているな。だが、その死に方が異常だったのだ」
リリーがナタリーに聞いた内容では死ぬ直前の王妃はやせ細り、真っ赤だった髪色も白へと脱色していた。
「余とローズを産んでから2日後に、お母様は苦しみながら亡くなった」
当時のナタリーが医者から聞いた話では、王妃は内臓が腐り果て、食事もままならなかったという。
「そうだとしたら、出産による疲労という線はなさそうですね」
「何かの病かもと医者は言ったらしいが、お父様は黒魔術士が原因だと結論付けた」
「王妃がそうなったのは黒魔術士のせいだと?・・・でも病の方が現実的なのでは?」
「確かにそうだ・・・だが、その1週間前に王城内で黒魔術士が目撃されていたとしたら話は変わってくるだろ?」
発見者はナタリーだ。
当時5歳だったナタリーは黒魔術士を見たと証言したが、誰も初めは信じようとはしなかった。
しかし、王妃が倒れたことと結びつければもはやそうとしか思えなくなってくる。
臣下たちが改めて聞けば、ナタリーはこと細かく、その時あったことを話した。
「お姉様は当時、夜中におひとりで抜け出してお母様に会いに行ったのだが」
その途中、ナタリーは不審な物陰を見た。
──誰?お母様?
嬉しそうに駆け寄ったナタリー。しかし、その陰は王妃ではなかった。
──だめよ?こんな時間に一人で歩いちゃ、私みたいな悪い魔術士に襲われちゃうわよ?
「ちょうどロズリィが羽織っているものと同じ色のローブを着た女だったらしい」
ナタリーは子供ながら黒魔術士は悪い魔術士だと理解していた。
だから、目の前にいるのが黒魔術士だと瞬時に判断して逃げた。
「追っては来なかったんですか?」
「あぁ、しばらく走って後ろを振り返っても誰も居なかったと言っていたな」
ナタリーは幸運にも黒魔術士から逃れることが出来た。だがしかし、王妃の様子ははその日から徐々に衰えていった。
キースが王妃にその夜のことを尋ねたらしいが寝ていて何も覚えていなかったという。
「私が聞いたのはそれぐらいだな」
聞かされたロズリィは頷きながらに答える。
「なるほど、だからレイクロック王やナタリー殿下は黒魔術士を人一倍嫌っていると・・・」
「あとはその事件を知っている臣下達だな・・・お母様はとても優秀で、誰からも好かれるようなお人だったらしいから、悲しみに溢れる人が多かったらしい・・・その分憎しみも多かったという訳だ」
大体は語り終えたと思い、リリーがロズリィの様子を伺うと、ロズリィは思考に耽っている顔をしていた。
「なにか気になる点でもあったか?」
「・・・黒魔術をかけられた相手は、リリーなのかも知れませんね」
「え?いやその時余はまだお母様のお腹の中にいたのだぞ?」
「遮蔽物があっても、優れた魔術士なら直接魔術を当てることだって可能です・・・ですが、そうすると、王妃様の最期が謎になりますね・・・王妃様とリリーだけに黒魔術をかけた?いやそれも少しおかしい気がしますね」
点と点が結ばれない。そんな感覚に近いのだろう。これでローズも黒色魔力の反応を示せばその説も成り立ったのかもしれない。
しかしロズリィが試しに儀式中止の後、代用品の水晶でローズの検査を行なったが、結果は透き通るような美しい赤色だったらしい。
「今更考えても無駄な事だ・・・お母様は亡くなり、余はもう王国の人間では無くなった」
14年前に答えが出なかったのに、今パッと答えが出るわけが無い。それはこの事件を知っている誰もがそう思っている。
「でも、王妃様が何故黒魔術士に狙われたのかは分かるかもですよ」
「ん?どうやってだ?」
「王妃様の過去を調べるんです」
「お母様の過去?・・・あぁそうか!」
リリーとロズリィは知っていた。王妃の過去を。
リリーは大急ぎで背負っていたバッグからある本を取り出した。本のタイトルは《追憶の記》。
この本は王妃が過去に体験した旅を王妃自身が書き記したものだ。
──つまり
「《追憶の記》に登場する場所に行けばお母様の過去を辿れる」
「さらに言えば、私の師匠に会えばもっと知ることができるはずです」
王妃には旅の仲間が2人いた。1人はラウラという魔術士。そしてもう1人は、ロズリィの師匠ファンウェイだ。
「それがリリーの体とどう関係しているかは分かりませんが、今後の目的はできましたね」
「そうだな!よし!そのためにはリュッセロへ早く向かわねばならん!急ぐぞロズリィ!」
「え!?いやそんな慌てなくても!」
「時間は待ってくれないと言ったのは其方の方であろう?さぁ!行くぞ!」
リリーは夜空の下をその足で駆け出した。
さっきまでの気まずさが嘘だったように笑顔を浮かべながら。
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