リュッセロへ 1
夜空の下、リリーとロズリィはリュッセロへと足を運ばせていた。
ロズリィが前を、リリーがそのすぐ後ろを歩いているのだが、リリーには少し気まずさがあった。
別に気にしなかったらいい話なのかもしれない。だが、現在地からリュッセロとなるとまだ半日程はかかる。その間ずっと沈黙が続くのは、リリーとしては死活問題だ。
「と、時にロズリィはどうして余が黒魔術士ではないと思ったのだ?」
ちょうど、気になっていることは山ほどある。それでこの気まずさを解消出来るのではとリリーは考えた。
聞かれたロズリィもリリーの方に振り返り、少し距離を詰めながら答えてくれた。
「黒魔術士なら正体がバレそうになった瞬間にあの場にいる全員を殺そうとしますよ、そうでなくとも逃げる手段は用意しているはず・・・腰抜かして怯えてる黒魔術士なんていませんよ」
(こいつちょくちょく煽ってくるな)
ビビりのつもりは無いし、あの場で腰を抜かすのも仕方の無いことだろと思うリリー。
「あと、物的証拠を出すのならリリーの腕ですね」
「そう言えば其方、余の腕を確認して何か言っておったな」
「黒魔術士は利き腕に黒魔印という独特の模様をした黒い痣があるんです・・・今回の場合はそれを見てリリーが黒魔術士ではないと確証しましたね」
リリーも黒魔術士についていくつか目にしたことはあったが、そんな物もあるのかと感心してしまう。ロズリィが魔術の専門家というのが実感できた。
「そうなのか、初めて知ったな」
「まぁ魔術士協会の秘匿情報ですから、世に出回らないのも当然ですね」
「魔術士協会の人間がそれを漏らしてどうする・・・」
「秘匿情報なのは混乱を避けるためですよ。最近は黒魔印を隠す黒魔術士も増えてきているので、そればっかり見つけようとすると無駄足になりかねませんからね・・・知ったところで黒魔術士を探す時の参考にしてもらうぐらいにしかなりませんし」
「そ、それは。そうなのかもしれんな」
魔術士協会の一員では無い自分が組織の判断にとやかく言う資格は無い。協会は専門家の集まりだ。
今後を見据えてるからこそ、この情報を秘匿情報にしているのだろう。
「まぁ黒色魔力については協会が情報開示してしまったせいでリリーみたいな特異な存在が発見されて魔術士が向かう前に殺されてしまったなんてこともありましたし、その反省を活かしてるんじゃないですかね?」
「余と同じ境遇の者がいるのか?」
「リリーみたいに真っ黒な人はいなかったですね・・・でも、黒魔術士に何らかの術をかけられた人を魔力検査した結果、黒色が混じっていたという報告書は見たことがあります」
「そうか・・・余の魔力に前例は無しか」
同じ様な者がいるのなら何かそこから糸口が見つけられるかもと思ったが、ロズリィでもリリーの様な状態は初めてらしい。
「でも、似ている魔力ではあります・・・それを研究していけばリリーの魔力も分かるはずですよ」
励ましの言葉をかけてくれるロズリィ。
気にかけてくれたのが嬉しくて、リリーは更に奥まで話を掘り起こした。
「そうだよな!・・・その者たちに会えることが出来れば、余の体のこともわかってくるよな!」
「あっ、いや・・・それは、その」
リリーが元気を取り戻そうとした時。ロズリィはとても気まずそうな表情をした。
「実は、最後にそう言う魔力を持った人が現れたのが30年もの前のことでして・・・」
「さ、30年!?そんなに前なのか!」
「えぇ」
「だ、だが、秘匿情報の中にもっと詳しい情報があったりするのだろ?」
「大体が殺されてるせいでさっき言ったことぐらいしか残ってなかったですね・・・」
「絶望的ではないか・・・」
残念そうに俯くリリー。それを見兼ねたのかロズリィは別の話を振ってくれた。
「わ、私も気になることがあるのですが、聞いてもいいですか?」
「ん?なんだ?」
リリーが顔を上げたのを確認したロズリィはリリーへ疑問を投げかける。
「レイクロック王とナタリー殿下はなんであんなに黒魔術士を嫌っていたんですか?」
「え?」
そんなことを聞かれるとは思っていなかったリリーは咄嗟に答えることは出来なかった。
ロズリィはそれに気づかずに話の補足をしだす。
「あの二人のリリーへの愛は本物だったはず。なのにリリーが黒魔術士かもしれないと疑惑をかけられた瞬間の態度の変わり方は異常です。何か理由があるとは思うのですが、家族であるリリーなら分かるかなと」
「そ、そうだな・・・確かにお父様とお姉様は黒魔術士を嫌っているのには理由がある」
ロズリィはこの時思っただろう。(あれ?もしかして地雷を踏んだのでは?)と。
だがこの話はリリーが生まれる前の話。自分が話して何か不利益があるかと聞かれればそうでは無い。
だからリリーは躊躇わずに言った。
「余のお母様は黒魔術士に殺さたらしい」
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