姫様と魔術士 2
リリーはパーティが昔から好きではなかった。話しかけてくる人々は皆優しい。だが、何か仮面を被っているような。そんな感覚がどうしても好きにはなれない。
しかし、第2王女としてこれから行われるパーティでは今から自分自身も仮面をつけなければならない。そんな億劫な気持ちに駆られながら、リリーは会場の扉の前に立っていた。
「はぁ」
「あら、リリーはもうお疲れなのかしら?部屋で休んでは如何?その方が恥をかかなくても済むでしょう?」
リリーがため息をついた瞬間に隣に立つローズは非肉の言葉を浴びせてくる。
双子という特異な2人ではあるが、ローズは普通にリリーを嫌っていた。
リリーの方は姉妹らしく在りたいと、心からそう願っているのだが、最近では突き放されてしまうことに嫌気がさしてしまい。自ら話しかけること自体少なくなっていた。
「その言い分からして、もう仲のいい貴族達には触れ回っているのだろうな、余の魔力が無いことを」
昨日の一件でリリーが失望した時、誰かの気配を感じ取った。
リリーが振り返るとそこにはローズがおり、初めは戸惑っている様子だった。しかし、リリーに魔力がないと分かった途端。嘲笑うかのようにリリーを貶した。
リリーは逃げるように立ち去り、それで事は終わったのだが。ローズはリリーの弱みが1つでも見つければ、触れ回り評価を下げようとする。
恐らく今回もそのようなことになっているだろう。
「そんな大袈裟に言うわけないじゃない、誰もそんなこと信じなそうですし・・・今日はリリーが儀式で面白い物を見せてくれるとお伝えしただけですわ」
性悪な事をするとリリーは思った。しかし済んだことに一々反応してもキリがないと判断し、これ以上の言及はしなかった。
「まぁなんにせよ、余に逃げるという選択肢はない・・・選んだ道は突き進むのみだ」
「威勢だけは良いんですのね」
そうしていると、扉の先から父であるキースの声が聞こえてくる。もうすぐ扉が開く。
「女王両殿下の御成〜!」
扉の騎士の掛け声と共に分厚い扉が開かれる。
拍手とともに迎えられるリリーとローズ。会場には自国の貴族や諸外国の貴族達が見られ、端の方にはテーブルが並べられ豪華な食事が提供されている。
そして、リリー達が歩くカーペット。その奥には階段があり、上段には王の風格を醸し出している実の父キースが真ん中に、その左隣には実の姉であるナタリーが居た。
リリー達の母はリリー達を産んだその日に亡くなった。
母親からの愛情を経験していないことに関して、リリーとしては悲しくもあった。しかし、その分キースやナタリーから貰えたものも多かった為今では産んでくれたことへの感謝しかない。
リリーとローズが同時に右足を出し、歩き始める。
その姿はまさに仲良しな双子。だがしかし、リリーには分かる。ローズが苛立ちを感じていることに。
威圧に近いそれを我慢し続け、しばらくするとリリー達は階段の数歩手前で止まった。
そして、リリー達は片膝をつきながら頭を垂れる。
「表をあげよ」
キースが許可したと同時に2人はゆっくりと顔を上げる。
「其方らがこの地に産まれ早14年、この日をどれだけ待ち望んだことだろう・・・此度の儀式で其方らは晴れて魔術という武器を手に入れることが出来る・・・そこで我は問おう、其方らは魔力を手にし何を成したいのか」
この質問はリリー達が1年前にキースから課題として出されたものだ。
何をするかは自分たちの自由。しかし、その形を見定めることは自分達のこれからの道を知るいい機会だと言われた。だからリリーは今日という日のために準備を整えてきた。
魔術文明の開花や現代の魔術の在り方は勿論のこと、国ごとの政治と魔術の関係まで洗いざらい調べあげた。
昨日まで順調にことが運んでいた。その筈なのに。
「まずはリリー其方のこれからを聞こう」
どうするか悩んだが、リリーにはこの場を乗り切る言葉しか出てこなそうだった。
「余は、これまでに魔術の知識を多く学んできました・・・この国を更に良くする為に、国民の平和を守る為に・・・これからも余は魔術に関する知識や経験を高め、安全な魔術を人々の暮らしに取り入れられるよう精進する所存です」
今の魔術はやはり危険性が伴ってしまう。だから14歳から使用可能という枷が付けられてしまい、子供は魔術を学べないまま大人となっていくケースが最近は多い。
生活するにも仕事をするにも、魔術があれば効率は格段に上がる。
だが魔術士が使うような魔術にはかなりの修行を要してしまう。そこでリリーが導き出したのが、魔術のレベルを落とすというものだった。
レベルを最小限落として誰でも安全に使えるようにする。そうすれば生活水準が上がり国の発展へ大きく貢献出来る。
しかし、これには魔力がある事が第1前提となる。魔術規定の改正を求めれるのは実績のある魔術士だけだ。
そして、その魔術士になるには魔術士協会で試験を受けなくてはならない。
科目は筆記と実技。そして、今回の儀式の様な魔力適正検査というものもある。
こんなに御託を語っておいて、自分は何も出来ないなんて笑えてくる。言い終わったあとは後悔の念にかられ、リリーは口の中を噛んだ。
「うむ、其方の頑張りは見て取れる。今後も精進するように」
「・・・はい」
「では次にローズ。其方のこれからを聞こう」
「承知しました、陛下」
自分とは違い礼儀作法を熟知しているローズ。所作の一つ一つに人を惹きつける何かがあるように思えてくる。
「私もより良い国を作ろうという志はリリーと同じです・・・ですが、レイクロック王国は他国よりも魔術のレベルが低い傾向にあります。私はこの国に魔術の研究所を設けて、この国独自の魔術を作り、魔術のレベルを格段に上げ、少しでも陛下やお姉様にお力になれればと考えております」
野心の強いローズらしい答えだ。自分と同じ志だが、その道筋は大きく違っているのがこの双子のらしさなのだろう。
ちなみに、研究所を作るとなると国で魔術博士を雇うか、ローズ自らが魔術博士を取る必要がある。
今の国でも魔術士団を創設し、かなりの功績を立てているのだが。やはり他国と比べると劣ってしまうことが多い。
リリーがそれを言わなかったのは、レイクロックの剣術のレベルが高いからだ。相手が魔術士だとしても問題なく対処できると自負する程には。
しかし、魔術も日々進化している。これからの事を考えた時に、ローズの答えは理にかなっていると言える。
「更なる王国の躍進を願うか、それも良かろう」
2人の意見を聞いたキースは豪華な椅子から立ち上がる。
「では、乾杯の準備としよう」
そうすると、係の者達が参加者や王、ナタリーやリリー達にグラスが渡される。
この国では成人は15歳からだ。リリー達にはぶどうのジュースが渡されていた。
「更なる王国の繁栄を祝って。乾杯!」
「「「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」」」
これがこのパーティの始まりの合図だ。リリーとローズは階段を上がりキースとナタリーと言葉を交わす。
「2人とも、いい答えだったぞ」
「ほんと、私なんかとは比べ物にならないくらいだよ」
2人が褒めてくれる。リリーは嬉しくもあったが、それと同じぐらい打ち明けられなかった罪悪感があった。
「これからも成長を続けられるように祈っているぞ」
「はい!お父様」
「はい、お父上」
話し終えた2人はキースの右隣にある2つの椅子にそれぞれ腰掛けた。これからは訪れる貴族達の応対をしなければならない。
これも王族としての責務の1つだと心では分かっているつもりだが、テーブルの上にあるローストビーフを一口でも食べれたらと願うリリーであった。
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