Lost Way:ロストウェイ
@nonomekyou
姫様と魔術士 1
レイクロック王国。ここでは多くの鉱石が掘り出され、それを商人に売ることで繁栄してきた。
そんなレイクロックの王都マクナイト。その中央にそびえ立つ城では何やら忙しない様子だった。
「ローズ様!もう少し落ち着きを持ってくださいまし!」
ローズの肩まで伸びた金色の髪を整えながら、侍女であるマイアはそう言い聞かす。しかし、当の本人は椅子から垂れた足をぶら〜んぷら〜んと遊ばせながら嬉しそうに語る。
「分かっているわよマイア、儀式ではちゃんとするつもりよ?・・・でもこの興奮を抑えられなくて」
ついには鼻歌まで歌い始めるローズ。それを見たマイアは、呆れてため息を吐いた。
「成魔の儀は人生で1度しかない大事な行事なのですからしっかりメリハリは付けてくださいましよ?」
成魔の儀。それはこの国で代々伝わるもの。
儀式の内容自体は、王位継承権を持つ者が14歳になる日に水晶に手をかざすといった単純なものだ。
しかし、水晶は特殊な物で、その者が持つ魔力に呼応するように様々な色を映し出す。
そして、レイクロックの王族が水晶にかざせば瞳の色と同じくまるでルビーのような赤色に光るのだ。
その光は人々を魅了し、今ではこのな国の象徴になっている。
成魔の儀は招待されたもののみが参加可能なパーティの中で行われ、参加者達との交流も盛んに行う。
大人の女性としての落ち着きを第3王女であるローズにも持って欲しいと思うマイア。
しかし、気になることがあった。
「いつもは王女らしさがありますのに・・・成魔の儀がそれほど待ち遠しいのですか?」
言われたローズは一瞬考えてマイアに笑顔で答える。
「それはあるけど・・・勝てる勝負は真剣にやるよりも楽しんでやる方がおもしろいじゃない?」
何を言っているのか分からないマイア。それに気づくことなく。ローズは顔を鏡に戻してニヤリと笑う。
「ようやく、ようやく勝てる」
何かを呟いた後に含み笑いをするローズ。マイアは不思議に思いつつも、それ以上の踏み込みはしなかった。
◆
時を同じくして、もう1人。成魔の儀を行う者がいた。
名はリリー。ローズの双子の姉である。
ローズと同じ金色の髪を後ろで束ねている彼女。しかし、様子がおかしい。体を震わせ、両手で両肩を掴みながら何かに怯えている。
今から身だしなみを整える段階だと言うのに、そんな状態のリリーを見て侍女も困り果てる。
「リリー様、一体どうなさったのですか?」
侍女がリリーの容態を聞こうと質問する。
「すまない、ファウスを呼んでくれんか?」
リリーが呼んだのはリリーと仲の良い騎士で、ファウスという男だった。
呼ばれたファウスは侍女に一旦部屋の外に出るように頼み、リリーと2人きりになる。
「どうされたのですか?リリー様」
ファウスも一目見ただけでリリーが好ましくない状態ということを見抜いた。
「耳を貸してくれ」
ファウスが不思議そうに耳を貸すと耳元でリリーが告げる。
<昨日。水晶に手を翳したのだ>
「な!?」
水晶は普段、貯蔵庫で厳重に保管されている。しかし、儀式の1週間前からは出入りも盛んになる。そこを狙ってリリーは貯蔵庫に忍び込んだのだろうとファウスは結論付けた。
しかし、ファウスが驚いたのはそこでは無い。
<あまり良い結果ではなかったのですか?>
水晶に翳しただけで、リリーが今この状態になってしまった理由は恐らくそうなんだろうとファウスは思う。
実際に過去にも同じような前例はあった。光が弱かったり薄い赤色になったりと。
まぁ実際、そんな結果になってしまっても参加者は満足して帰るのだが。リリーからしたら溜まったものでは無い。
プライドだけならまだしも、リリーには小さい頃から魔術に対する強い憧れがあったのだ。
しかし魔術規定により14歳からしか魔術の使用を許可されないのもあり、やるせない気持ちで今まで過ごしてきた。
ようやくその日が来たと思った矢先、その憧れを否定されてしまったのだ。リリーが今のような状態になってしまうのも無理はない。
どうにか励ましの言葉を掛けようもするファウス。しかしリリーが先に言葉を放つ。
<いや、良くないどころじゃない>
「はい?」
<水晶は光らなかった。余が何度翳しても>
それは絶対に起こりえないことだ。なぜなら、この世で魔力を持たない人間などいないのだから。
「そ、そんな!?」
ファウスは驚く。王国史どころか魔術の歴史に置いても、リリーのような存在は発見されていないだろう。
「其方しか、信頼出来る者も居なくてな。」
小さい頃から父に憧れ、魔学、地学、歴史学や剣技を個人で学んできたリリー。そんなリリーの唯一の頼りは共に剣技を学んだ騎士団長の息子であるファウスだけだった。
「分かりました、殿下を連れて城から出ます!」
「何をいっている?」
「あ、あれ?違いましたか?」
時々良くない方向に物事を解釈してしまうのはファウスの悪い癖だった。
「余が儀式に出るのは王族としての責務だ。出なくてどうする?」
「そ、その通りです」
あまりにド正論過ぎてファウスは恐縮してしまった。
「今回其方を呼んだのは情報の共有相手が欲しかったからだ、それに打ち明けた方が少しは気が晴れるだろ?」
「そう、ですね、」
自分では何の役にも立たないのか、とファウスは思ってしまった。
騎士といっても、リリーの剣技は自分と互角レベル。それを踏まえると自分の存在意義を見失ってしまいそうになる。
「ただ、約束してくれ」
「はい」
「今回のことは誰にも言わないこと、それと──」
ルビーのような赤い目をファウスに向けてリリーは言う。
「余に何かあれば共に戦ってくれ」
「・・・は、はい!」
騎士としては守るのが役目。しかしながら、憧れの人と共に戦えると思うと嬉しさでいっぱいになってしまう。
「まぁ会場に其方は配属されてないから、取り敢えずは吉報を待っててくれ」
そう言い終わると、リリーは元気よく立ち上る。
「よし、気も安らいだ。侍女を呼んでくれ」
その後、侍女を呼んでその場に居座ろうとしたしたファウスをリリーが叱りつけたところで、事の収束を迎えた。
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