【短編】ハーレムを夢見た令息たちは少女にぶった斬られた

宇水涼麻

【短編】ハーレムを夢見た令息たちは少女にぶった斬られた

 とある国のとある王城パーティーで三十路を迎える前の貴族令息たちが数人集まりバカ話をしていた。


「女百人ほど侍らせてハーレム生活って男のロマンだよなぁ」


「いいねぇ。俺を取り合って女が罵り合うところをニヤニヤしながら見たいな」


 男たちはおとぎ話のハーレム生活を嬉々として語る。


「女は男を喜ばせるための『物』だからな」


「違いない」


 男たちが大笑いした。


 そこへ一人の令嬢が後ろを通り過ぎようとしてその話が耳に入ったようだ。


「貴方方は愚か者ですか?」


「何だと!!」


 令息たちが振り返るとどう見てもデビューしたての少女がいる。


「申し訳ございません。あまりの想像力の乏しさに驚いてしまいましたの」


「はあ!?」


 令息たちが凄むが少女は全く怯まない。


「では。もし、一人の男性と百人の女性の住む島があったらどうなるとお思いになられますか?」


「男が王様になって毎日違う女を抱いて女たちに世話をさせて暮らすに決まっているだろう!」


 男たちはそうだと言わんばかりにニヤニヤした。


「ある意味正解ですわね」


「ふんっ! わかりきったことじゃないか。女は男に尽すのだよ」


「ある意味と申しております。解釈が違いますわ」


「あ!? じゃあどうなるってお嬢ちゃんは思っているんだ?」


「男性は食事の世話から下の世話まで女性たちにされることでしょう」


「だよなぁ。何もせずとも生きていける。やっぱり悠々自適のやりたい放題だ」


 少女はそれを無視した。


「ただし、ベッドに鎖で繋がれ精力がつく食事を無理矢理食べさせられ、媚薬を使い生理的に繁殖できる体制にさせられ、一日に何人もの女性に繁殖行為を強制されます。

女性百人が妊娠するまで」


 男たちは目を見開いた。少女は涼しい顔で続ける。


「一人の男性では血が濃くなってしまう恐れはありますが、女性が百人いればそのうち薄まるだろうと思われ、その男性は女性百人が妊娠が難しくなる年まで繁殖機として生かされます。

そして、その時期を超えると女性たちは子育てや生活に重点を置き男性は一切興味を持たれなくなります。

女性たちに興味を持たれなくなった男性はどうなりますかね?」


「そ、そ、そ、そんなの島などという特殊な状況だからだろうがっ!」


「そうですか? では、この世界にハーレムが常識化したといたしましょう。

常識化すると女性たちの意識も変わり、女性同士の嫉妬やヤキモチ、独占欲は減ります。そんなことをすれば国が弱体化するという考え方も常識化するからです。

女性たちは自分の未来のために国の未来のために、より逞しくより賢くより性格の良い男性の子を産みたいと考えるようになります。優秀な男性を取り合うのではなく共有するのです。

ひ弱で能力もなく努力もせず性格も悪い男性はお相手として選んでもらえなくなるでしょう」


 男たちは息を呑んだ。


「その場合、皆様は女性たちに選ばれる自信がおありになりますの?」


 男たちはハクハクと金魚のように口を動かすが声が出ない。


 いつの間にか出来ていた人垣から拍手が起きた。主に女性たちが拍手をしている。


「もう赦してあげなさい」


 その声に道が開かれる。


「王女殿下。出過ぎた真似をして申し訳ございません」


「それはいいの。この国がまだまだ男尊女卑だと改めて認識できたから。

でも、貴女がその者たちにそこまで親切に教えてあげたのだから、これ以上は時間の無駄よ」


「了承いたしました」


 王女が踵を返すと少女が後ろに従う。

 王女ははたと止まり振り返る。


「愚か者たちに言っておくわ。この子はわたくしが隣国でスカウトしてきた侍女なの。

もし万が一、恥をかかされたことへの反論や復讐をするのなら、わたくしと対立すると思いなさい」


 男たちは顔色を青くした。


 王女は先日まで隣国へ留学しており、今日は王女の帰還パーティーなのだ。


「わたくしのためのパーティーで女性を愚弄するような発言をするなどと、本当に愚か者ね」


 王女には他の者たちから報告が届いており、少女と男たちがどうしてこのような話になったのかを知っている。


 王女は少女を伴い控室へ入った。


「王女殿下。早々にトラブルとなり申し訳ございません」


「もう! それはいいって言っているでしょう。貴女もこの国の男たちの考え方に呆れたのではなくて?」


「まあ、あの者たちのような考え方が全てであるとは思っておりません」


「でも、少数でもないわ」


 王女は小さくため息を吐いた。


「王女殿下が立たれれば女性の地位向上は進みます」


 王女はこの国の第一子だが、下には弟が二人いる。国王は王女の優秀さを見込んでおり女王でもいいと考えているし、弟たちも姉を大変慕い将来は家臣として支えるつもりでいる。


 まだ王女は踏ん切りがついていなかったが、今回のことで立太女することに気持ちが動いた。


「国王陛下は王女殿下のお気持ちを急がないと仰っておいでなのです。ゆっくりと考えてまいりましょう」


「そうね」


 王女は自分に気合を入れるために扇をギュッと握った。


 翌日、かの男たちは、ある者は婚約を破棄されある者は婿入り婚家から追い出されある者は嫁に実家へ帰られた。女性たちの情報収集能力は恐ろしい。


 一週間もすると彼らの家は王女と対立する意思がないことを示すために彼らを騎士団見習いにしていた。二十五歳を超えている者たちなのに十六歳前後の若者と同等に扱われることになる。だが、騎士団で根性を叩き直されなければ平民落ちだと言われているので辞めることもできない。

 

 そして、少女には釣書がたくさん届いた。半分は養女にすべく養子縁組の釣書だ。


「みな、貴女を優秀だけど身寄りがないとでも思っているのかしら? 貴女が隣国の公爵令嬢だと知ったら驚かれるわね」


「四女ですから公爵家の名前を出すつもりはありませんよ。わたくしは王女殿下付きの宮中侍女です。いつまでも」


 王女は嬉しそうに笑いお茶を口にした。


「隣国のお茶。美味しいわ」


 少女も微笑んでカップを持ち上げた。


〜 fin 〜

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