第26話
「
「いいのか?」
「私も弁護士さんとの話が長くてお昼まだなんだ。折角だからどこか入って食べない?」
「いいな」
「でも時間も微妙だし軽く済ませようよ」
「そうだな……」
彼女の同意する。
「この店でいいか?」
俺は数十m程先にある古い洋館のような店を指さした。
「そうね。折角なら冒険してみたいし丁度いいわ」
ドアを店内へと入る。
カランカランと心地いベルが鳴る。
店内は香ばしいコーヒーとパンの匂いに包まれていた。
内線だろうか? 洒落た音楽が響いている。
「いらっしゃいませ。お客様二名様でよろしいでしょうか? お席にご案内しますね」
清潔感のある黒と白を基調とした制服を着た店員さんに席に案内される。
店内を見回すと若い女性受けする喫茶店と言うよりは、マダムや老紳士と言った年齢層が高めの店のようで、土日だというのに若いお客さんは少ない。
店構えから考えて、地元の人達の憩いの場と言ったところだろうか?
店内には壁一面に立派な書架があり、まるで図書館の中に喫茶店があるように感じる。
店の中央には二つのソファーと一台のピアノが置かれている。
スマホで調べて見るとこう言う本がいっぱい置いてある喫茶店のことを『ブックカフェ』と言うらしい。
「これ内線じゃないわ。あのレコードから出てるみたいね」
近づいて見て見ると、どうやら昔からある機械のようでお金を入れて番号を押すと好みの音楽が流れる仕組みになっているようだ。
「へー、ブックカフェとジャズ喫茶の融合って感じか……」
「……何と言うかあたしたちには場違いって感じがするわね」
「そうだな……」
「それにしても意外だわ。だって
「よくわかったな」
「何度か
「そう言えばそうだな……ハラミステーキ、唐揚げ……言われてみれば無難だ……」
「軽く食べると言っても
「一人で失敗すると洒落にならないけど、二人で失敗したら笑い話になるからな……」
「何よそれ……」
「こちらメニュー表ですごゆっくりどうぞ」
お冷とおしぼりとメニュー表が置かれる。
店員さんは俺達とあまり年齢が変わらないように見える。
「店員さん若かったね」
俺の視線に気づいてかどうかは判らないが、バレている前提で動いた方が良さそうだ。
「そうだな……俺達とそんな変わらないんじゃないかな?」
無性に喉が渇いてしまってお冷を口にする。
「ふーんならいいんだけど……」
そう言うと
どうやら悩んでいるようだった。
「俺は無難にソフトドリンクとトーストにしようかな?」
「パスタとかホットケーキもあるみたいだよ?」
確かに昔ながらの喫茶店ならそう言う割としっかりしたメニューは多いのかもしれない。
「このお店『モーニング』あるみたいだよ?」
『モーニング』とは名古屋発祥のチェーンで一躍有名になったものだったハズ……発祥の地も愛知県の一宮と豊橋説がある。
コーヒー一杯でトーストやゆで卵と言った朝食が付いて来るサービスだ。
「もう昼過ぎだっていうのに気前のいい店だな……」
「ホントだね……」
「
「そう思ってたんだけど、ドリンクのメニュー見たらどれも美味しそうで……」
「なるほどな。確かに種類もたくさんあるし、これは目移りするのも仕方ないな」
「私ブレンドコーヒーとパンケーキにしようかな?」
「ガッツリ食べてもいいか?」
「遠慮せずに食べなよ男の子だし……」
「じゃあ……」
メニュー表を借りてページをめくる。
手羽先、味噌カツ、味噌煮込みうどん、カレーうどんやあんかけスパゲティ、おでんなど店主がもしかしたら愛知県民なのだろうか? 名古屋走りされそうで怖い。
「デミグラスハンバーグとコーヒーにしようかな?」
注文を通すと他愛のない話を続ける。
「ここ数日随分と活躍したそうじゃない」
「そんなことないと思うけど……」
「生徒総会で大暴れだったって聞いたんだけど」
「忘れて下さいお願いします」
その内に店員さんが注文した商品を持ってきてくれた。
「凄い厚み」
ふわっふわっパンケーキと言う名前に恥じることのない厚みのパンケーキの上にはバターとメープルシロップがたっぷりとかかっている。
デミグラスハンバーグは鉄板の上でじゅうじゅうと焼き音を立てており大変美味しそうだ。
「コーヒーもすぐにお持ちします」
コーヒーを注文しているためか、サラダとトーストが半分乗ったお皿も配膳される。
「凄いな……」
圧倒的なボリュームに気圧される。
「写真とってインスターとYに投稿しよ」
スマホを取り出すと、パンケーキを撮影して直ぐにSNSに投稿する。
俺なんて未だに
一通り写真を撮ると互いにナイフとフォークで食事を始める。
「美味しい。ふわわわで生地自体に優しいあまさもあってもうたまんない!」
デミグラスソースは濃いめで添え物のフライドポテトやブロッコリー、人参もデミグラスソースが美味しく食べさせてくれる。
家の近くに欲しかった。
食事を終える頃にコーヒーを持って来てくれた。
「凄くいい香りね」
「仄かにフルーティーな香りもする」
香りでコーヒーを一通り楽しむとマグカップに口を付け一息つく。
美味い。
焙煎の度合が良いのか旨味のある苦味の後に仄かな甘みを感じた後には、フルーツっぽい少し青臭い匂いが鼻腔に抜けとても飲みやすい。
とあるRPGにで主人公が食べっていた喫茶店のカレー(コーヒーに合うらしい)を再現するために、コーヒーとカレーに凝っていた時期があったことを思い出した。
そんな風に舌鼓を打っていると
「急だったけど来てくれてありがとう。こんなに安心できた日は数日ぶりよ」
「……」
「家族と居ても、友達と居ても……ずっと痴漢されたあの日のことが不意に脳裏を過るの……」
「……」
「私自身も気が付かないウチに追い詰められていたみたい」
「な、
「……うん」
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