第22話
待ち合わせの場所は駅前から少し離れた広場で、お昼過ぎにもかかわらず俺と同じように待ち合わせと思われる男女が多い。
その中でバッチっと決まった美少女を見つけた。
絹糸のようなさらさらの髪は陽光を反射し天使の輪が浮かんでいる。
素材がいいのかシンプルなファッションながら異様に似合っている。可愛い系と綺麗系の中間で手に持っているス〇バのコーヒーですら映画の小道具のようだ。
まるでファッション誌や写真集の一ページのような雰囲気のある構図に俺は思わず息を呑んだ。
愛嬌のあるメインヒロイン達とは異なる。
生っぽい存在感と美しく整った顔立ちは、見る者を惹きつける。
そんな彼女の元に駆け寄ると、死角で近づくまで気が付かなかったが大学生風の男にナンパされているようだ。
【幼馴染を寝取られたので努力したらハーレムが出来た件】のモブながら、ヒロイン力の高い
人目のあるこの場所で実力行使に打って出るとは思わないが、このまま放置していい道理はない。
何とか穏便に
「嫌がってるのでやめてあげてくれませんか?」
「あ゛あ?」
「
「ちっ! 男連れかよ……声掛けて損した」
捨て台詞を吐くと、そそくさと逃げていった。
彼はこのラブコメの世界が役割を与えた悪役……そのなかでも辻褄を合わせのために生み出した急造品だから、痴漢でもハラスメントでもなく『ナンパ』程度だったのだろう。
少し声をかけただけで尻尾を巻いて逃げ出したのがその証拠だ。
俺は主人公とヒロイン達にとって邪魔者となってイベントを妨害する宿命を背負った悪役。シーンにメリハリを持たせる小道具程度の役割しかない名無しのモブ悪役とは格が違うのだ。
願わくば彼も世界の運命から逃れ俺のように主人公を目指し、自分の物語を紡げることを祈る。
「ごめん待った?」
「多少ね……」
「助けるのが遅くなってすまん」
「そうね。もう少し早く助けて貰えたのなら言うことはなかったんだけど」
「もしかして怒ってる?」
「別に怒ってないわよ。元々約束をしていたわけでもないし、
「よくわかったな……エスパーか?」
「勘で言っただけよ。なにそんなに私とデートすることが楽しみだったの?」
「~~っ! 気晴らしに付き合うだけだ。デートなんて大それたこと考えてないよ」
「冗談よ。やっぱり
「ちょっと待て、今からどこへ向かうんだ?」
「言ってなかったっけ?」
なにも知らされず集合場所だけ言われたからな。
「ウィンドウショッピングとか兎に角気晴らしがしたいから気の向くままに行くわよ!」
「やれやれだ……」
初めて見る
俺はズンズンと前を進んで行く彼女の背を追いかける。
170㎝を優に超える俺からすれば彼女の身長は大きくない。
だけど俺が変わるきっかけをくれたのも、手助けをしてくれたのも後押しをしてくれたのも全て
「いつもは結構しっかりと髪の毛セットしてるのに……今日は少し手を抜いているわね」
「時間がなかっただけだ。やっぱりこの髪型変か?」
「私背は高いほうだけど170㎝超えの頭をしっかり見れるほど身長高くないの! しゃがんで良く見せて」
「……」
しゃがむと彼女の胸と顔の位置が近づいた。
柔軟剤か甘い匂いが鼻腔を擽る。
「ふ~ん。へぇ~ほ~」
左右を見るように確りを動くせいで左右のおっぱいが頬を掠める。
「……へっ、変かな?」
「問題ないと思うわ。
褒められたことが少し照れ臭い。
「そう言って貰えるのはうれしいけどさ、あんまり自信が無いんだよね。マネキンコーデだからどうしてもワンパターンで」
マネキンコーデと言ったものの、実際はダサい中学生ファッションの中でも無難なモノを着ただけだ。
「ふふふふ、
「おい」
「悪気はないのよ? よかったら
「そうしてくれると助かるけど……それでいいのか?」
「良いも何もウィンドウショッピングに具体性が出ただけじゃないの」
言われてみればその通りだ。
この数日間のお礼と彼女の気晴らしのために今日はむしろ精一杯、
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