第21話



 休日だと言うのにアラームの音で目が覚める。


「朝か……」


 時計を見れば時刻は13時頃を指し示している。


「まあしょうがないよなぁこの一週間色々あったし……あ、LIME来てるなになに……」


『今日暇なんだけどどこか遊びにいかない?』


LIMEの主は成嶋明日羽なるしまあすはだ。


『休みの日には弁護士に相談行くんじゃなかったのか?』


『返信遅い!』

『もしかして寝てた?』

『弁護士には相談?』

『って言うか依頼はもう終わってた』

『思い出してムカついたから気晴らししたくて……』


 と怒涛の連騰が続く……


 相当フラストレーションが溜まっているようだ。


『了解。今からでもいいなら付き合うけど……』


『30秒で支度しな!』


『昨日やってたよな天空〇城ラピュタ』


『場所は入力しておいてくれ今から着替える』


『わかった。場所はXX駅前でお願い』


 ベッドから起き上がって風呂場に向かう。

 身だしなみの基本はやはり清潔感だろう。

 匂いや洋服の皺どちらかがあるだけでもみすぼらしく見える。

 前世では靴にも気を付けたものだが、今回は割愛させてもらう。

 妹の鈴乃リノに相談してお洒落や美容に気を遣うようになった。

 

 人は中身何て言うけれど、結局は見た目が第一。

 青髭が残らないように丁寧に剃り保湿する。

 化粧まではいかないまでも、日焼け止めは塗るようになった。

 転生によって変わり果てた俺の躰は丁寧なケアによって一割マシぐらいに良く見える。


「俺も変わったなぁ……人間きっかけがあればこんなに変わるものなんだ」


 ドライヤーを使って髪を乾かすと、両手に良くなじませたワックスで流れを付けてセットする。


「大分慣れて来たな……」


 でもなんか足りない。

 違和感が拭えない。


「やっぱり人にやってもらうのと自分でやるのとだとおお違いだな」


 時計を見ると時間がやばい。


「前髪が決まらないとか、恋する乙女かよ!」


 焦りながらワシャシャワシャ、クシュクシュと毛束を作り前髪を整える。


「まぁこれでいいか……」


 クローゼットの中にある俺の洋服は、中学生丸出しの英語Tシャツやガイコツなどの痛々しいものばかり、その中から無難なモノを組み合わせる。


「難しい……」


 今度男性向けファッション誌を買うか、マネキンコーデ一式を何セットか買うか……


「これってデートなのかな?」


 不意にそんな言葉が口を付けば、そわそわとした感情が胸の奥底から溢れ出してくる。

 意識するな相手は現役女子高生だぞ? それが成人男性と……それってなんてパパ……

 なんだかいけないことをしている気分になってくる。

 大丈夫、肉体だけは俺も現役高校生だ。

 俺が手を出さなければ大丈夫。


「こういう時は円周率か素数を数えて落ち着くんだったな……」


 世界で唯一女性だけが使えるマルチフォーム・スーツを使える男子高校生と、世界を一巡させた神父を思い出す。

 冷静に考えてみるとLIMEのメッセージは友人や同僚に呑みに付き合えというような軽いモノ、向こうはデートを意識している訳ではないように見える。


「いい年こいて恥ずかしい……」


「起きたと思ったらなに急にバタバタしてんの?」


 ドアの外から妹の声が聞こえた。


「ああちょっとな、友達に遊びに行こうって誘われて……」


「ふーんそうなんだ。友達・・ねぇ……最近色気付いてきたと思っててたけどやっぱり女できてたんだ」


「……」


「おかしいと思ったのよ。夜遅くまでフラフラするし、美容院いったり、お肌気にし始めたり全て女の影響と考えれば辻褄が合うと思ってたの」


「女の子だけど友達だよ気晴らしに遊びに行こうって誘われただけなんだ」


「そういうことにしておいてあげる」


「服装も中学生丸出しのクソダサよりはマシってところね。

本気で落としに行くのならその女に洋服見繕って貰えば?

アタシの知識だとメンズは守備範囲外だし」


「そうする。心配してみにきてくれてありがとうな」


「ウチのお兄がみっともないのが嫌なだけよ」


「……そうか」


「お兄がいい影響をその人から受けているのは確かなんだから、今日は恩返しの気持ちでお兄がエスコートしなきゃダメだから」


「……そうだな」


 俺が【幼馴染を寝取られたので努力したらハーレムが出来た件】の悪役から抜け出すきっかけをくれたのも、『ボランティア活動イベント』でラブコメの世界からの強制力を何とか跳ねのけることができたのも全ては彼女の御蔭だ。


「今日は全力で成嶋なるしまさんを楽しませる!」


「ふーん。その人成嶋なるしまさんって言うんだ……」


「……」


おっと墓穴を掘ってしまった。


「これ付けて行く? ボディーコロンなんだけど、ラベンダーの香りで色々と邪魔にならないと思うんだけど……」


「折角だし付けて行こうかな」


 スプレーを何か所かに吹きかけて貰う。

 前にショート動画で香水を安く買う方法を見たので後で注文しておこう。

 なんでそんなことを知ってるのかって? カイトをフォロワーしてるから。


「行ってらっしゃい」


「行って来ます」


 汗をかくのは嫌だったので贅沢にも、今回はバスを使い待ち合わせの場所まで来た。



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