砂時計②

「森原様、最近5分間にやたらと縛られていませんか?」


 さっき、店外で言われたのと同じ言葉をもう一度繰り返されて、私はドキッとする。


「どうして……そんなこと……」

 分かるんですか?という言葉は寸でで飲み込んだ。


「森原様がいらっしゃる少し前から、“これ”が次は自分の番だからと騒ぎまして」


 言われて目の前に置かれたのは、ペリドットの粉が中に詰まっている様な、綺麗な緑色の砂をたたえた砂時計で。流線型のラインがとても美しかった。


 砂時計というと普通どちらかのフラスコ状のガラス容器を下にする形で置かれていることが多いと思うのに、これは何故か横向きに寝かされていて。

 それが前提であるかのように、フラスコ状の底辺一部に転がらないための平らな凹みが設けられていた。


「砂時計?」

 つぶやいたら「はい。5分計です」と返る。


 5分――。

 ああ、これを売りたいからこの人はあんなことを。

 そう思ったけれど、久遠くおんさんは「お代は結構ですので、この子とほんの少しの間一緒に過ごされてみませんか?」と仰って。


「あの、でも……」

 お金を受け取らなければ商売にならないのでは?

 そう思うのに、何故かそれが聞けなくて。

「うちの骨董たちに選ばれたお客様は特別です。いつもこうではありませんのでお気になさらず――」


 言って、私の方へ砂時計をほんの少し押すようにして近づけると、「必要ないと思われたらいつでもお引き取りいたしますので」と微笑まれた。


 その砂時計は見れば見るほど何故か持ち帰りたいという気持ちが膨らんでくる。


「本当にいいんですか? あの、代わりに何か……」

 つぶやくようにそう言ったら、「でしたら、そちらを」と、和博に初めてプレゼントされた例のペリドットのフック式ピアスを指さされた。


「でもこれは……」

 言いかけて、そんなに大事なもの?と改めて考えたらそうではない気がしてきて。


 私は少し迷ってからそれを外すと、「使い古したものですが、大丈夫ですか?」と久遠くおんさんに手渡していた。


「問題ありません。大事にお預かりしますね。もしその子が必要なくなったらまたこちらと交換と言うことで」


 言われて、私は少し肩の荷が降りた気がした。


 もしも和博にどうしても納得がいかないと言われてしまったら、その時は交換かえしてもらおう。


 そう思って。


 久遠さんは私の言葉を聞くと砂時計を緩衝材でクルクルと丁寧に包んでから、紐の持ち手がついた小さな紙袋に入れてくださった。


「どうぞ」

 手渡された砂時計を受け取る私に、久遠さんが「最後にひとつだけ宜しいですか?」と声を低めた。

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