砂時計①
送っていくとごねる和博を、「たった一駅だし、そんなに気を遣うならもうここへは来ないよ?」と脅して踏み留まらせて、のんびりと駅までの道を歩く。
せめて駅までと泣きそうな顔をする和博に、「何でそんなに心配するの?」って思ってしまう私は酷い女だ。
こんなぼんやりした子、和博以外興味なんてもたないよ?
思うけど、言わない。
言っても「でも」とか「違う」とか言われちゃうだけだと分かってるから。
だったら余計なことは言わずにこの関係にピリオドを打つことを匂わせて黙らせる方がいい。
「せめてあと5分」
玄関先でギュッと抱きしめられて、耳元でそう声を落とされた時、世の中は5分間で回っているのかな?ってぼんやり思った。
だとしたらやっぱり和美の言った「5分以内に決断する」というのは大切なことかも知れない。
そんなことを考えながらコツコツとヒールの音を響かせながら歩いていたら、薄暗い路地の先、ぼんやりと明かりが灯っているのが目に入った。
路地の入り口にA型の立て看板が出ていて、『あんてぃーくしょっぷ
あんてぃーくしょっぷ、が平仮名なのは意図的?
そもそもこんな所にこんなお店、あったっけ?
和博の家を訪れるのは初めてじゃないのだから、気付いていたら記憶に残っているはずだ。
最近できたお店かな?
いつもならこんなに何かに惹かれることなんてない。
そのことが何だか不思議で、思わず吸い寄せられるように路地へ入っていた。
「いらっしゃいませ」
私に負けないぐらい長い髪を、サイドでゆるっと編み込みにした女性がお店の入り口にいて、路地に迷い込んできた私に声をかけてきた。
「お客様は今、5分間にとても縛られていらっしゃいますね?」
唐突にそんなことを言われて、私は驚いてしまう。
「あの、ここ……」
“あんてぃーくしょっぷ”と書かれていたけれど、あれが平仮名だったのは実はそこも含めて「占いの館」の屋号だったりしたの?
ふとそんなことを考えた私に、女主人はクスッと笑うと
「外の看板にありましたように、アンティークショップです。……他所様にはないような面白い古物を取り揃えてございます」
そう言って店の中へと
私は彼女の不思議な雰囲気に押されるように店内へ足を踏み入れる。
「申し遅れました。わたくし、ここの店主をしております
年齢は三十路に至るか至らないかぐらいだろうか。
とても綺麗な人だった。
彼女に名乗られた私は、思わずそれにつられるように「森原です」と名乗ってしまってから、お店で自己紹介はおかしかったと赤面する。
「大丈夫です。ここは物とお客様との
婉然と笑って、「下のお名前もお伺いしても?」と畳み掛けられた。
そういえば彼女もフルネームを名乗っていたな、と思った私は「森原、美代子です」と半ば誘導されるようにぼんやり答えてしまっていた。
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