彼氏?①
「はぁ」
小さく溜め息をついたら、大学時代からの付き合いの和博に「悩み事?」と聞かれた。
「うん。優柔不断な自分をどうにかしたいなって」
力なくつぶやくと、「ああ、美代子の決断力のなさは筋金入りだもんな」と笑われた。
「俺はそういうところも含めて可愛いと思ってるけど」
悪戯っぽく微笑まれて、腰まで届くアッシュのゆるふわウェーブをクシャリと撫でられた。
「この髪だってさ、本当はずっと切ろうか迷って5年だろ? 出会った時は美代子、ショートだったじゃん?」
彼との出会いは大学に入学して間もなくの頃。
私の何を気に入ったのか、1つ上の彼に見初められてなぁなぁで5年。
就職してからもお互いそんなに距離が離れなかったため、そのままズルズルと。
私は正直この端正な顔立ちの彼のことが好きなのかよく分かっていない。
5年も一緒にいて?と思われるかも知れないけれど、例によって迷いの多い私は彼とのことでさえまだ自分の中でハッキリ答えが出せていないの。
5年も付き合った彼女が、そんな風に思っていると知ったら、彼は怒るかな?
ドキドキしながら窺うように和博の顔を見上げたら、「どした?」と聞かれた。
「何でもない」
誤魔化すように答えて、ここでもまたこんなって自分のことが嫌になった。
「ね、和博。あなたは私の何が気に入ったの?」
思わず聞いてしまってから、まずかったかな?と思う。
それは逆を言えば私が和博の“どこも気に入っていない”と告白しているのと同義だと気づいたから。
「ん? まず第一は顔。それから背の低い所。あとはそうだな。その物事をスパッと決められない感じかな」
やばいかなって思ったけど、和博は私の言葉の真意には気づかなかったみたいに呆気らかんと答えてへらりと笑った。
身長差。
確かに彼は175センチを越えていて、私は150ちょっと。
身長差20センチ以上は差が大きい方に入るんだろう。
私はそれもあって、彼との付き合いを迷っているというのに、そこが気に入っているって本当?
「この高低差、好きなの?」
ふと立ち止まって彼を見上げたら、「その上目遣いが堪んねぇのよ」って抱きしめられた。
季節は8月。
就業後で日差しこそ昼間のギラギラした感じは薄れているとは言え、温度も湿度も高いままだ。
蒸し蒸しと暑いこんな日に、どうしてこの人はくっ付きたがるんだろう。
そっと両手で押し除けるように彼の腕の中から逃れると、
「私は和博の顔見上げるのしんどい。もう少し差がない方がいい……」
5年かけて出した結論。
それを恐る恐る口にしたら「そっか」って頭を撫でられた。
そう言うところ。
小さいせいか、やたら子供扱いされているみたいに感じるあれこれ。
それが嫌なのに。
「頭を撫でられるのもあまり好きじゃないって言ったら、怒る?」
頭に載せられたままの和博の手に触れて小声でそう言ったら「そうなの? いつも嬉しそうに目を細めるから好きなのかと思ってた」って嘘でしょ?
「私、嬉しそうなの?」
聞いたら「うん、とても」って……知らなかった。
じゃあ、いつから私はこんな風にされることに違和感を覚えるようになったの?
って言うか嬉しいと思っていたのはいつの頃?
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