第3話 本物と偽物の剣技
「それは、何の構えだ?」
カインは彼女の構えを見て不機嫌そうに吐き捨てた。
まるでそれは汚い物を見るような目だった。
「受けてみたらいいんじゃない!!」
そう言うと、ラナは流れるように彼の懐に近づく。
はいると同時に木がぶつかる音が鳴り響く。
「なるほど」
カインは受け続け、何かを悟ったような声をあげる。
彼はそのまま無言のまま受け続けると、先程のようにラナの方が息を切らし始めた。
そうしてしばらくして彼女は膝をつく。
「清流っと言いたいところだけど、ほとんど我流に近いね。 誰にも学んでない感じかな?」
一瞬にして彼女の我流に気がついた。
彼女は剣舞祭で清流の使い手を見て、それを見よう見まねでやっているだけだ。
清流の構えなだけでほとんどが感覚と我流だ。
「加えてその動き、リンに似てるな」
「知ってるんですか?」
その名はラナの憧れている人の名前だ。
「彼女は僕の
「紹介してください、お義兄さん」
先程の嫌悪は何処へやらといった感じで彼の手を掴んでそう言った。
なんと厚かましい。
「構わないよ、何なら清流派の所に入門するかい? 君の才能なら無償で行けるだろうし」
「本当ですか!? やった!!」
カナは嬉しそうにピョンピョンと兎のように跳ねて喜んでいた。
そうして何故かカインから彼の知っている限りの清流の基礎講義が始まった。
彼も一応中級までの技は使えるらしいので、カナが教えてほしいとお願いしたのだ。
ついでに彼に教わる好機だったので、仕方ないふりしてそれに乗っかる。
内心は彼に教えてもらえるとウキウキだったが、必死に口角が上がるのを抑えている。
「じゃあカナちゃん、清流についてはどこまで理解してる?」
「カナでいいです、そうですね私の感想としては無駄のない流れるような斬撃の嵐と言った感じでしょうか?」
「ふむふむ、フィナは?」
「えっと、清らかに淀みのない流れるような攻撃とか?」
言葉の意味を組み合わせただけの言葉で実際はカナと同じような言葉だと言った後に思った。
「どっちも近いようで少し違う、清流は確かに無駄のなく流れるように攻撃を放つ点は確かにそうだ、しかしそれは他の流派も同じ、さっきの言う斬撃の嵐は火流の方が清流より上だ」
火流、清流と同じ四大流派の一つだ。
流派はそれぞれ相性があり、火流は流派の順位で第四位の位置付けで清流は第二位の位置付けだ。
これは世代によって変わるが、いずれの世代もこの流派が上位に君臨している程伝統的な流派でもある。
「とりあえず、打ち込んでくるといい」
そうしてある程度の清流の流れを教えてもらい、実戦形式に移る。
基本的にこれは実践あるのみらしい。
そうしてボクが彼に力強く木剣を打ち込む。
「……え?」
気が付けば、首元に突きつけられていた。
何が起こった?
一瞬の出来事で何が起こったかわからなかった。
「わかった?」
ラナに向かってそう言う。
あぁ、実験台ですかそうですか。
腹立つなぁ~!!
「では次、受けをラナ、攻撃は僕がするよ」
「はい、よろしくお願いします」
そう言ってカインが先程のボクのように剣を振る。
ラナは剣に触れると同時に腕をまっすぐ伸ばす。
首元に剣を突き付ける事は成功するが、彼の剣も頭上で止まっていた。
「次、打ち込んできて」
「はい」
そう言って次はラナが打ち込む。
端から見ると、簡単な事だった。
当たる瞬間に彼は重心を傾けていたのだ。
たったそれだけの簡単なものだった。
重心を逸らす方に掛けて、戻しながら突く。
これが絡繰りだ。
清流の本質は剣技ではなく、重心に重きを置いているようだ。
「次、行くよ」
「はい」
そうして次にラナは完璧に攻撃をそらし、彼の喉元に剣を突き付けた。
しかし、同時にカインは彼女の首元に突きつけられようとする剣を弾く。
彼女の木剣が弾き飛ばされ、彼女の後ろで深々と突き刺さる。
「しまった、怪我はないかい?」
「え、えぇ……」
今のは彼には想定外だったようだ。
いつもの彼とは違い、少し焦っているように思えた。
「よかった」
ラナの手を見て安心したような安堵を浮かべると、彼女はじとっとした瞳でカインを見ていた。
「あぁ、すまない」
「いえ」
そう言うと、彼女は後ろに刺さった木剣を引き抜く。
「次、お願いします」
「……あぁ」
そう言って彼は構える。
完全に蚊帳の外である。
そうして彼女は打ち込み続ける。
先程の剣技と何かが違う。
これは感覚の問題だ。
説明しろと言われれば難しいが、ぱっと見何かが変わったような気がした。
「驚いた、まさかあの一回で感覚を掴むなんて」
「そう言いながら、避けないでください!!」
カインは驚いたようにそう言うと、不満そうにラナは言い放った。
そうしていつもの彼女の攻撃が加速していく。
彼女の攻撃は速度を増していく。
「なるほど、これは早いな」
「だからそう言いながら受けるな~!!」
防御を無視した攻撃速度で、涼し気な顔が真剣な表情に変わる。
そうして剣技が続くと、ラナが先に疲れ切ったのか膝をつくのだった。
そうして次はボクの番になったが、全くといっていいほど感覚がつかめないでいた。
彼が言うにはこれは感覚の問題なので、長く訓練を詰めれば中級までなら習得できるだろうと言われた。
代わりにいくつか剣流を行った結果、第一位の雷流がいいと言われた。
雷流は手数の多さが主体の流派だ。
圧倒的な攻撃速度で相手に攻撃する暇を与えない流派だ。
「君は剣技の速度が変則的だから、こっちの方が向いている」との事だった。
ボクの剣技はそもそも男に力では勝てないし、カナのように感覚が鋭いわけでもない。
平凡な自身勝つには速度しかないと今まで練習してきたのだ。
そうしていくならとカナは青、ボクは紫の推薦状をその場で書いて渡してくれた。
「これをそれぞれの道場に渡せば、試験無しで入門できるよ」
「いいんですか?」
「うん、君達はそれぞれの流派の素質があると思ったから推薦させてもらう」
その言葉はボクにとって嬉しい限りだ。
憧れてた人に認められるのは誰だって嬉しいものだ。
「んで、出発なんだけど……準備もあるだろうし、一週間後でいいかな?」
「一週間後ですか?」
「二週間後に王都からの依頼があってね、道場案内も含めて伸ばせるのは最長でそのくらいだ」
元々、ボクは両親は居ないのでいいのだが、カナは村長の一人娘だ。
加えて、彼女の修行に対してもいい印象を持っていないので至難極まりない。
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