第2話英雄と憧れと妹弟子

「大丈夫だった?」

「はい!! ありがとうございます!!」


 懐かしの優しい笑顔、五年経った今も変わらず思いやりのある優しい笑顔だった。

 

「よかった、間に合ったようで」

「すみません、ご迷惑を」

「いやいや、討伐にはつきものだから仕方ないよ……君、この近くの村の冒険者?」

「はい、フィナっていいます!!」


 懐かしの再会、見た目が大人っぽくなったとはいえ流石に思い出しただろう。


「よろしくフィナ、早速だけど村まで案内してもらえるか?」


 ……あれ?

 まさか、ボクの事を覚えてない?

 

「ボクの事、覚えてませんか?」

「……う~ん……」


 覚えのない感じだったので腹が立ってきた。

  

「フィナですよ、約束忘れたんですか?」

「フィナ、フィナか……」


 剣に手を掛け引き抜き彼に振う。

 彼は表情を変えることなく、剣を受け止める。


「危ないって」

「うるさいうるさいうるさい!!」

 

 あっさり受け止められるのが余計に腹が立つ。

 怒りのままに剣を振い続けるボクの方をみながら受け止めるだけで全く反撃をしてこない。 

 

「……はぁ、はぁ……」

「気が済んだかい?」


 腹立つ腹立つ腹立つ!!

 ボクが汗だくなのに彼は汗一かいてないのが腹が立つ。

 ボクだけ覚えているのが馬鹿みたいじゃない。

 こうなれば意地でも一発喰らわせてやると強く思い起き上がり、彼に向かって剣を振り続ける。

 カインは何も言うことなく受け続けている。

 あれだけ打ち込んでいるのに、全く隙が出来ない!?

 

 そう思っていると、ほんの一瞬だけ隙が出来た。

 

「せい!!」


 渾身の突きを放つが、ひらりと躱されいつの間にか握っていた剣を彼が持っていた。

 どうやったのかわからないが、取り返さないと!!


「返して!!」


 腕に手を伸ばそうとすると、彼は距離を取る。

 

「いい剣だね、よく手入れされてる……うん?」


 彼は剣を見ると、こちらを見る。


「この剣、あの時の子か」


 剣を見ると何かを思い出したのか、彼は真っ直ぐこっちを見る。

 やっと思い出したようだ。

 嬉しいような腹が立つような感覚だが、思い出したから許してあげようと思った。


「思い出してくれました?」

  

 馬鹿にしたように言うと彼は首を傾げる。

 

「……女の子だったんだ」

「……は?」


 何を言ってるんだろうこの人は。

 失礼にも程がある。

 見た目でわかるはずだ、主にこの双丘が物語っている。

 ……。

 自分で思った事だが、何故か心がズキッと痛んだ。

 

「どういう意味ですか? ボクの事男の子だと思ってたんですか?」

 

 そう言うと、彼は小さく頷いた。

 まぁ、彼のいう事もわかる。

 女の子らしくないのはボクが一番知っている。

 わかってるんだけど……流石に傷つくなぁ~。

 

 憧れの人に忘れられただけでなく女の子らしくないと言われてるようでなんだか腹が立つのを通り越してあきれていた。

 

「いいですよ、あの頃は女の子らしくないのは自分でわかってますし」


 女の子らしいものがあるとすれば胸にある小さな二つの膨らみ位だ。

 それがなかったら、間違いなく男の子に間違えられても仕方ないだろう。


「村に行くんでしょ、ついて来てください」


 何か言いたそうな彼を無視して歩き出す。

 足音が聞こえるのでついては来ているのだろう。

 だが、その足音は最小限で気を抜けば聞こえなくなる程小さかった。

 後ろを見ると一定の距離を置きながらついて来ていた。

 道理で近くに来るまでボクも獣もわからなかったわけだ。

 特に敏感な獣ですら感じられなかったのだ。

 ボクでわかるはずもないのだが。

 そうして無言のまま村の役場に戻り、ミナに報告をして報酬を受け取る。


「はいこれ」

「要らないよ、偶々通りかかっただけだし」


 この人は相変わらずだな~。

 お人よしというかなんというか。

 あの時だって報酬を受け取らなかったと聞いている。

 本来なら村を救った英雄として受け取るべきなのにだ。


「それでも、一緒に討伐したんだから報酬は半分こ!!」


 そう言って彼に無理やり報酬を渡した。

 そうして彼を村に案内する。


「本当によかったのか?」

「しつこい、良いって言ってるでしょ。 次言ったら殴るよ」


 全くしつこい。

 あれから何度も彼は申し訳なさそうに言ってくる。

 しびれを切らし彼にそう言うと、それ以降それについては触れてこなかった。

 

「カインって呼んでもいい? ボクの事はフィナって呼んで」

「わかったよ、


 瞬間、身体に寒気が走り痒くなる。

 ちゃん付けで呼ばれると女の子扱いされている気がして痒いのだ。


「フィ・ナ!! ちゃん付けはやめて!!」

「あ、あぁ……フィナ」


 何だろう、頬が熱い。

 熱でもあるのかな?

 ちゃん付けでこんなに暑くなることはなかった。

 

「よろしい」


 そう言って案内を終え、彼を泊まる村唯一の宿屋に案内する。


「それじゃ、私はこれで」


 そう言って彼と共に村のはずれにある訓練場へ向かう。

 ここは独自で作った訓練場で普段は誰もいないはずなのだが、今日は先客がいた。

 その女の子は素振りをしていてこちらに気づいていない。

 気づかれないようにゆっくりと近づく。

 

「どうしたの、姉様」


 振り向かずにその女の子はそう言った。

 どうやら初めから気づいていたようだ。

 そうして素振りを終え、お辞儀をすると女の子はこっちに振り向いた。


「姉様、その男の人は誰ですか?」


 カインを見た瞬間、彼女の目から光が消える。

 彼女は恐らくだが、男性嫌いだと思う。

 

「初めまして私はラナ、貴方の名前は?」

「……カインだ」

「カインさんですね、よろしくお願いします」


 彼女はまるで行事のように挨拶を済ませる。


「それでカイン様、姉様とはどういう関係ですか?」

「どういう関係とは?」

「貴方と姉様の関係性についてです」


 なんでこの子は喧嘩腰なんだろうか?

 カインさんを睨みつけ、答えによっては襲う気満々だろう。

 まぁ、襲った所で彼女では彼に勝つことは出来ないだろう。

 

「別に何でもないよ、顔見知りって所だな」

「そうですか、所でカインさんってお強いらしいですね」

「弱いよ」

「……え?」

「僕には師匠がいるんだが、彼らに比べたら全然弱いよ」


 彼より上がいるのか。

 世界は広しというが、まさか彼より強い人間がまだいるとは驚きだ。


「でもまぁ、君よりかは強いかな」


 その言葉は不味い。

 ラナは眉をひそめて睨みつけると木刀を投げる。

 

「勝負をしましょう」

「……構わなよ、やろうか」


 カインさんは剣を拾いあげ、彼女をまっすぐ見つめそう言った。

 ラナは剣を構える。

 その構えは流派の清流の構えだ。

 流れるような攻撃を行う事が主体の戦い方だ。


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