英雄に近づきたい私と英雄の君
ゆうき±
第一話 英雄への憧れと再会
目の前には紅い光景が広がっている。
村を焼き尽くしている炎と紅い空、いくつも屍が血を流して倒れている。
私は必死に逃げる。
だが小さい僕が大人の盗賊から逃げられるはずもなく、掴まれ連れ去られそうになる。
圧倒的暴力、力の前に私の抵抗は無いに等しいという他なかった。
僕はそのまま引きずられ、馬車に乗せられる。
中には若い女性や子供が狭い中入れられていた。
「がぁ!!」
そうしてしばらくして、男の悲鳴が聞こえる。
振り返ると、一人の男が立っていた。
蒼を基調とした服装をした後に英雄と呼ばれる男、カイン・アルベスが立っていた。
目の前のカインはこっちを見る。
否、僕の近くにいる敵を見ていた。
カインは僕の瞬きの間に近くにいた男の意識を刈り取ると、こちらに視線を合わせ頭を撫でてくる。
「もう大丈夫」
優しい感じがする。
なぜか彼に撫でられた瞬間、不安だった心が少し和らぐ。
「僕が来たからにはもう安心だ」
僕にそう言うと彼は立ち上がると、後ろを向く。
盗賊の増援が現れた。
人質にナイフを突き当ててこちらを見ていた。
「こいつが死んでもいいのか?」
「武器を下ろして投降しろ」
ニヤリと笑う男に問いかける。
しかし男は馬鹿にしたように笑う。
「状況がわかってねえの……か?」
言い終わる前に人質に添えられている刃を持っているの腕が地面に転がる。
「状況がわかってないのは君だよ」
いつの間にか、男の前に間合いを詰めていた。
圧倒的な力。
男達とは格が違った。
あっという間に三人の増援を一蹴して意識を刈り取った。
そうしていると、王国の騎士たちが現れ盗賊たちは鎮圧された。
あの光景は今も覚えている。
僕もあんなふうになりたい。
「お兄ちゃん」
彼の元へ向かうと、優しげな表情でこちらを見た。
先程の格好良く凛々しい姿とは違い、優し気な男性だった。
「助けてくれてありがとう」
「よかった、助かって」
僕の言葉に彼は心底嬉しそうな声で抱きしめそう言った。
当時の僕には、それがわからなかった。
「お兄ちゃん」
「うん」
「ボクもお兄ちゃんみたいになりたい。 誰かを守れる、今日みたいに苦しんだ時に手を差し伸べられる存在になりたい」
強く、そして誰かを助けれるこの人のようになりたい。
「だから、ボクを貴方の弟子にしてください」
僕の言葉に一瞬驚いたような表情を浮かべたが、彼は再び優しい顔でこういった。
「君は今何歳だ?」
「11」
「なら、あと五年だ……五年後、君に本当に僕の弟子になりたいかもう一度聞く……その時にまだ意志が変わってなかったら、君を弟子にしよう」
それから数年後
爽やかな朝に一人の女の子が出かける。
綺麗に手入れされた黒く長い髪に勝気な瞳にすらりとした手足の女の子、フィナが走り出していた。
自身の日課のトレーニングだ。
あれからずっと、彼女の思いは変わらずにいた。
あの頃から彼女はカインの弟子になるべく、独自でトレーニングを始めた。 英雄であるカインの弟子になる。
ただそれだけの為に私はこれまで頑張ってきたのだ。
そうして朝の日課を終えて帰ると、ミナが彼女に声を掛ける。
「おはようフィナ、ちょっといいかしら?」
「もしかして、魔獣でも出た?」
魔獣:魔力を持った獣で魔法はそれぞれの魔物によって異なる。
「うん、どうやら
「いいよ、やってくる」
彼女の依頼でフィナは教えてもらった場所に向かう。
見られてるな。
森の奥に進むと、彼女は複数の視線を感じ取る。
状況からして囲まれているようだ。
数は、わかんないな。
まだ未熟なのか、まだ視線を感じる以外は分からない。
集中する。
「……そこ!!」
森の茂みにフィナは苦無を投げると同時に、投げた方向に駆け出す。
茂みを抜けると、一匹の
「一匹目!!」
彼女は抜刀して風狼を切り裂き、一撃で絶命させる。
そのまま苦無をの方向へ向かい拾うと、彼女は再び投げると凄い勢いで近づく風狼の額に当たる。
風狼能力は風魔法を使ったものが多い。
それは身体的魔法が多いのだ。
そうして戦い続けると、残り一匹になる。
その一匹が面倒で、魔法を使うのだ。
「クソっ」
面倒くさい。
他の奴は風魔法を使った身体強化の魔法のみだが、こいつは攻撃魔法を使う。
加えて、奴は魔法で宙に浮き、移動しているのでずっと動き続けている為、捉えるのも容易ではない。
面倒くさいな!!
風爪をよけながら、近づこうとするが魔法でなかなか追いつけない。
魔法を使えない今の私にとってこいつは相性が悪すぎる。
どうしようか。
魔力切れを待つとはいっても、こいつの魔力がどのくらいあるかわからなかった。
詰めようと追いかけていると、複数の風狼が現れた。
誘い込まれたか。
これは、不味いかな.
退路を探すが、囲まれていた。
一点ばかりを見てしまうのは悪い癖だ。
ウルフの群れの中に三匹、同じくらいの風狼がいた。
何とかして逃げるか?
否、今この状況逃げたところで、敵を村に誘い込むようなものだ。
戻った所で風狼と戦える人選は限られているし、この強さを相手できる可能性は低い。
何匹かどうにかするしかないだろう。
「不味いな~」
ひらりひらりと躱され、魔法の攻撃が来るので避けられず私の服や身体が削れる。
致命傷は避けているけど、ジリ貧だった。
自身の剣技では奴らを捕らえることができなかった。
「気配がすると思ってきてみれば、助けがいるかい?」
茂みの中から、出てくる男の人に目を見開く。
あの頃から少し大人びているが、間違いない。
カインだった。
カインに気が付いたのか、牙を丸出しにして彼の方を向く。
彼の方が危険だと、本能で察したのだろう。
風狼は一斉に風爪を一斉に放つ。
「ほう、攻撃魔法を使えるのか」
彼はそう言って剣を引き抜くと、攻撃を全部剣で切り捨てる。
それと同時に、彼は一匹に間合いを詰めると、剣を突き立て風狼を貫く。
速い……って僕も見ているわけにはいかない。
こちらに視線が切れている。
一気に足に力を籠め、駆け出す。
「どこ見てんのよ、せぇい!!」
不意を突いたおかげか、風狼は反応が遅れ貫かれる。
そのまま剣を振り切り両断する。
残りは一匹っと思っていたのだが、もう一匹もいつの間にかカインが音もなく倒していた。
ボクの攻撃とは違い、的確に相手の急所を突き刺していた。
残りの風狼は長がやられたのか、散っていった。
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