スクール・オブ・フ●ック

高巻 渦

スクール・オブ・フ●ック

 最近、俺によく話しかけてくる女がいる。

 相葉沙奈。学校イチのヤリマンと噂されている、クラスの中でも悪い意味で一目置かれた女だ。

 出席番号一番の相葉は、五十音順にクラスの男子全員と付き合っては別れてを繰り返しているらしいが、友人がいない俺に真偽を確かめる術はない。


「文紀くん、一緒に帰ろ」


 放課後。今日もまた相葉に話しかけられた。ホームルームが終わり騒がしくなり始めた教室を抜け出して、俺は相葉の少し後ろを歩く。学校を出ても、俺たちの距離が縮まることはないし、これといった会話もない。一週間前から度々下校時のお供にされているので、相葉の後ろ姿を見ながら帰るのはこれでもう三度目になる。相葉が一歩進む度に、しっかりと伸びた背すじにウェーブのかかった明るい色の髪がふわふわ揺れている。


「文紀くんってさぁ、教室でさ、いっつもひとりで過ごしてるよね。あんまり喋らないし、透明人間みたいだね」


 こちらを振り向かずに相葉が話しかけてくる。その通りなので反論はしないが、肯定するのもシャクなので、俺は黙って歩く。

 そして、俺たちがいつも別れる場所で、相葉はくるりとターンを決めて俺の方を向いた。それはこれまでで初めての行動だった。


「文紀くんさぁ、私と付き合おうよ。透明人間の文紀くんを、私が色付けしてあげるよ」


 拒否権は無いと言わんばかりの、無垢な笑顔だった。

 出席番号ぶっちぎりのラスト四十二番の俺、度会文紀に、とうとうお鉢が回ってきたというわけか。


 高校生活最後の夏に、俺は相葉の、高校生活最後の男になった。

それからの学園生活に大きな変化はなかったが、授業が終わってからは毎日相葉と下校するようになった。付き合って一ヶ月ほど経った頃、相葉は俺に告白してきた時と同じようにこちらを向いて言った。


「文紀くん、今日私の家来ない? 今日親いないんだよねぇ」


 いつもは別れる道を、今日は別れずに二人で帰った。

 その日俺は、相葉で童貞を卒業した。

 俺の体液が入ったコンドームをゴミ箱にブチ込み、ブラジャーのホックを留めながら、相葉は言った。


「うーん、冴木くんより太くて、成瀬くんより大きかったけど、やっぱり津村くんには敵わなかったかぁ」


 しばらくして、案の定俺は相葉に別れを告げられた。

 その後、俺は高校を卒業するまで冴木と成瀬とよく話すようになり、津村のことを敵視するようになった。

 自分は誰とも関わらずに学園生活を終えるものだと思っていたが、相葉との交際を通じて、半透明人間くらいにはなれた気がする。白濁色の。

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