第2話 ダメなのは分かってる
一枚の写真を撮り、部屋に戻って来た俺は扉に背中を預け、少しの間考えていた。
この写真を真矢に見せてもいいのだろうかと。
元々勝手に部屋に入って撮った写真だ、怒られるのは目に見えているし嫌われてもおかしくはない。
それに真矢自身が出会いを求めてした事なら、酷い目に遭ったとしてもそれは自己責任になる。だから俺は見なかった事にしようかと一瞬思ってしまった。
見なかった事にすれば、自分が咎められる事が無くなるから。
「最低だな、俺は…」
背中に体重を掛け、少しずつずり落ちるように床にお尻が付く。
こんな考えになってしまう俺は、お兄ちゃん失格だな。自分が傷つかない為に逃げて逃げて、こんな惨めに閉じこもるだけの人間に成り下がってしまっている。
変わりたいと願うけど、苦しみたくないから楽な方へと足を進めてしまう。
ちょっと嫌な事があったからって仕事を辞めてしまうのは、大人としてどうなんだろうな。自分でもわかっている、このままじゃダメな事くらい。
でも、はじめの一歩を踏み出せないから今日もまたタバコに手が伸びてしまう。
一本口に咥え、左ポケットから出したライターを顔に近づける。
「うわぁ、凄い量!」
カチッと火を付けようとした所で隣から声が聞こえて来た。
真矢はお風呂上りで身体が温まっているからか部屋の扉を閉めない事があり、そのせいでこっちの部屋まで声が響いてしまっている。
扉の前に居るからいつもよりも声がはっきりと聞き取れてしまう。
「えぇ、どうしよう。全員にメッセージ送ればいいのかな。でもそれだと時間掛かっちゃうし」
どうやら本格的に始動し始めたのかそんな声が聞こえて来る。
「聞くなら今だよな…」
頭では分かっていても、言葉にする事は出来ても体が言う事を聞かない。
改めて自分がどれだけ臆病な人間なのかが良く分かって胸が痛む。
このまま聞こえて来る声を、ただ右から左へ聞き流していいのだろうか。
知らなかったと白を切っていいのだろうか。
真矢が酷い目に合っても…いいのだろうか。
「いい訳がない」
俺は持っていたタバコの箱をぐっと握りしめる。
落ちた人間の辛さは俺が一番分かっているんだ、少しの傷が大きく広がっていつか取り返しがつかなくなるかもしれない。今ならまだ間に合うんだ。
止めないと…
そう強く心では思うが、足が震えて立てそうにない。
前にもこんな事があった。
大切な仕事をチームで作っていて、ちょっとしたミスを見つけたがその頃は繁忙期で俺が声を挙げればより一層忙しくなってしまうと思うと足が震えてしまい、言えなかった。
そういうミスを放置していたせいで、結局発売する事が出来ず解散。
『気付いてたなら早く言えよ、使えない奴だな』
『こんな奴が居たら成功しようがないわ』
他にも酷い言葉を浴びせられたのを覚えている。
あの時、一言言い出すことが出来れば今頃変わっていたんじゃないか、こんな辛い思いもしないで済んだんじゃないか、そう思わない夜は無い。
そんな辛く苦しい思いを妹の真矢にはしないで欲しい。なら、今すぐにでも止めないと。
「動けよ…」
そう思うも俺の足は鎖で括り付けられているかのように微動だにしない。まるで俺の足が自分の足じゃないみたいだ。
身体は動きそうにない、じゃあ声ならと口を開く。
「……」
が、はやり思うように声を発する事が出来ない。
もう、お手上げかもな。
俺には誰かを守る勇気なんて無いんだ、悲しい事に俺は物語の主人公にはなれそうにはない。
アニメや漫画の主人公みたいにキラキラした才能も…ない。
でも、それでも。俺は最後のあがきとして座り込んだときに、落ちたであろうスマホを手に取る。
こんな事ダメなのは分かっている、でも今の俺にはこれくらいしか出来そうにないんだ。
俺は撮った写真に乗っていたIDのアカウントに『はじめまして』とメッセージを送るのだった。
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回:第3話 上手くいくわけ…
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『毒親から逃げた俺と捨てられた義妹は一つ屋根の下で大人になる。』
https://kakuyomu.jp/works/16817330665223226103
『傷心中に公園で幼馴染の妹を段ボールから拾ったら、めちゃくちゃ世話してくれるようになった』
ネット彼女な妹に彼氏が俺だと気付かれるまで 白メイ @usanomi
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