ネット彼女な妹に彼氏が俺だと気付かれるまで

白メイ

第1話 出会い系って奴か?

「ふぅ」


 冬初めの冷たい風を感じ、暗い夜に白く濁った息を吐く。


 トントンと指を動かし、窓額縁に置いた子供の頃に使っていたクマの絵が描かれた皿に灰を落とす。


「続かねぇな…」


 もう3本目だというのに、次に吸うタバコに手が伸びてしまう。


 初めに入った会社で、強いパワハラを受け退社…それからバイトに入っては数ヶ月で辞めるを繰り返し2年経った今では、酒やタバコに逃げる日々を送る現役ニート。


 変わりたいとは思うが、どうも人間関係で躓いてしまう。


「あれ、もう無くなったのか…」


 ポケットの中に入っているタバコの箱を手に取るが、空になっていた。


 買いに行くかな。


 そう思い、窓を閉めて上に黒色のダウンジャケットを羽織り部屋の外へと出ると階段前にある隣の部屋から妹の真矢まやの声が聞こえてくる。


「へー、私もやってみようかな。うん、うん…」


 友達と話しているのか、あまり内容は聞こえないが楽しそうだ。


 来年大学受験の妹とは年が3つ離れていて、まだ学生な妹が少しだけ羨ましく感じてしまう。


 どこで間違えたんだろうか…


 俺(夢乃ゆめの 清正きよまさ)は普通の高校を出て、小規模ではあるが実力でゲーム会社に入社することができた。


 でも、今は何でもない存在へと成り下がってしまっている。


 真矢は俺とは違い、真面目でコツコツと勉強をするような子。だから、俺みたいな人間にはなって欲しくないのが、少なくとも兄としての願いだ。


コンコンッ


「何?お兄ちゃん」


 軽くノックをすると、少しして妹の真矢が出て来てくれた。


 真矢は、眼鏡を掛けているが明るい性格。遊びっ気の無い黒髪はストンと下に垂れ下がっていて、深い緑色のダークモスグリーンのような瞳をしている。


「ちょっとコンビニに行こうかと思って、何か欲しい物とかあるか?」

「うーん、アイス…かな。今からお風呂入るから、お風呂上がりに食べたいかも」


「分かった、チョコなら何でもいいか?」

「うん!」


 真矢はチョコアイスが大好きだからか、元気の良い返事が返ってくる。こう言う所を見ると、もうすぐ高3になるというのに子どもっぽくて微笑ましく思う。


「それじゃあ行ってくる」

「うん、気を付けてね」


 俺は真矢にそう言って階段を降りていく。


 1階に降りるが、22時過ぎた今でも家の中はがらんとしている。両親はいつも深夜に帰ってくるから、この時間は俺と妹の2人だけ。


 普段と変わらない、静かなリビングを歩き玄関へ。


 ガチャっという少し重い音を立てて外に出ると、チラチラと街灯の光に映る白い雪が見え始めていた。


「うぅ、さむ。真矢本当にアイスで良かったのか?」


 風が吹くと体が軽く震えて、こんな日に良くアイスを食べたいと思うなと感心してしまいそうになる。


 都市から離れた此処は交通量も少なく、コンビニ1つとっても徒歩10分は掛かってしまう。


 もう少し近場にあればもっと気軽に通えるのに、そう思わざるを得ない。


 しばらく歩いていると、目的地のコンビニへと辿りつきチョコアイスとタバコ、ついでにおでんを購入した。


 晩御飯はいつも交代で作っていて、今日は俺が作る日なのだが何ぶん家事が得意では無いので今晩はこれで我慢して貰おう。


「それにしても、おでん久しぶり買ったな」


 帰り道、ふと思ったことを呟いてしまう。


 去年こっちに帰って来た時からお金が無くなるって自炊しまくっていた。


 でも、貯金というものはそうすぐには無くならないので、1年働いた分と少しバイトして貯めた数十万で何とかしている。


 だからか、おでんを買う事もすごく久しぶりに感じてしまった。


 奏功していると、2階建ての一軒家にたどり着き鍵を開けて中に入る。


 アイスを冷凍庫に入れ、おでんを机の上に置き買って来た事を報告しようと階段を登っていくと真矢の部屋の電気が付いていた。


 コンコンと家を出る前と同じように扉をノックをするが返事がない。


 もう1度ノックをするが返ってこない。


 寝落ちでもしているのかと思い、ゆっくりと扉を開けると付いていたのは部屋の電気ではなくパソコンモニターの明かりだった。


「真矢のやつ、風呂に行く時くらい消していけよ」


 最近のPCは落とさなくても電気代がそこまで掛からないらしいが、画面くらいは消して欲しい。


 そう思い俺の昔使っていて妹にあげたパソコンに近づくと何やらサイトを見ていたようだ。


 部屋前からだと分からなかったが、これは…


「出会い系って奴か?」


 プロフィール制作画面を開いており、一言と書いてある欄には『彼氏募集中です!』と書かれていた。


 真矢もそういう歳かと、お兄ちゃんなのに少しお父さんみたいな事を思ってしまう。此処は見なかった事にしようと踵を返し、部屋に戻ろうとする。


 が、ネットというものは怖い。


 もし妹の真矢に何かあれば、後で後悔するのは俺かもしれない…


 嫌われるかもしれないが、後で聞いてみようとパシャッと1枚写真を取り、自室へと戻るのだった。


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ここまで読んでいただきありがとうございます! 


次回:第2話 ダメなのは分かってる


応援、☆☆☆レビューよろしくお願いします!励みになります。


現在連載中です


『毒親から逃げた俺と捨てられた義妹は一つ屋根の下で大人になる。』


https://kakuyomu.jp/works/16817330665223226103


『傷心中に公園で幼馴染の妹を段ボールから拾ったら、めちゃくちゃ世話してくれるようになった』


https://kakuyomu.jp/works/16817330662341789174

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