episode17.破局(クライマックスもあるよ)
これは、俺––––山瀬 海斗と、幼馴染の楓。春樹と結菜のバカップル二組が描く、破局の一話に過ぎない。
結菜が俺に泣きついてきたのは、夏休み最終日だった。メールで「お願い、うちに来て」と家に呼ばれ行ってみると、顔を真っ赤にして泣きじゃくる結菜の姿があった。
「春樹に振られた」
端的に説明された言葉に、目眩すら感じた。あの二人が? なんで振ったんだ? 最後にこの三人が集まったのは夏祭り。あの日はいつも通り壁クイだのわけの分からないことをして戯れあっていたはずだ。
「なんで?」
そうシンプルに問う。それぐらいしか俺のできることがない。
「今は結菜と一緒にいらないって。ごめんって、謝ってさ……理由聞いても、結菜には関係ないって。関係ないのに振られたの? なんで? 私悪いことしたかな? どうしよ……ねえ、なんで? 嫌だよ。まだ私春樹のこと好きだよ」
結菜の痛みは全てじゃないが分かる。楓と付き合い、短いが時間を過ごし、少なからず大好きにはなった。そんな思いが一方的に断たれると、それは苦しいって言葉だけじゃ表せない。
結菜のそれは泣くってレベルじゃなくて、嗚咽とか
春樹は一体何やってんだ。アイツは人付き合いが上手いのに、一人で突っ走ってしまうところがある。
春樹の家には誰もいなくて、電話なんか出るわけなくて。結局俺は何もできず、楓に頼った。
「高校生の恋愛ってそんなんだとも思うけど……あの春樹ってなると、確かに何かありそう」
「だろ。最近どっかで見てないか?」
その質問に、楓は目を逸らす。ちょっとわかりやすいな、この人。まあそこが可愛いんだけど。
「どこで見た?」
「海斗は春樹と結菜、どっちが大事?」
「一番が楓」
「話聞いてた?」
あれ? おかしいな。結菜と春樹ならこれではぐらかせてたはずなのに。
「強いて言うなら、付き合い長いし結菜かな。どっちも大事だけど」
最後のは付け足さなくても伝わっただろうけど、俺の善意が取ってつけた。
「そっか。私はおんなじ理由で春樹の方が大切。でも、海斗のお願いだから言うね。見たのは病院。この前の骨折の最終確認に行ってたの。その時に見た。でも春樹が怪我とか病気ってわけじゃないと思う」
その一言で、なんとなく察しがついた。春樹じゃなくて、結菜でもなくて、春樹の大事な人。春樹の母だ。
体育祭の時もチラッと話題に出たが、春樹は母子家庭で、母が毎日遅くまで仕事をしている。そんな母が疲労で倒れたとなっちゃ、恋愛どうこうじゃないのだろう。
「ありがとう。俺は今から病院行ってみるけど、楓はどうする?」
「私は遠慮しとく。結菜のとこにも行かなくちゃだし」
「そっか。じゃあ、これが終わったらデート行こう」
「タイミング考えてよ。バーカ」
死亡フラグを建設しつつ、俺は病院に向かった。確かに母が倒れたってなら色々筋が通る。点と点が繋がって点々になった。繋がってねーな。
病室の部屋名札にはしっかりと春樹の苗字が入っていた。
「春樹、いるか?」
「なんでここが分かったんだよ。あといない」
「純度100%いるじゃん」
そこには椅子に座る春樹と、ベッドに寝転ぶ母の姿があった。ここで話すのも迷惑か。
「外で話さないか? 流石に病人の前で声を荒げたくない」
「できれば声を荒げない方向で頼む」
春樹は目の下に隈を作りながら不自然な笑顔で笑う。
「それは出来ない。結菜に顔の原型無くなるまで殴れって言われてるんだ」
「俺の結菜はそんなこと言わねーよ」
「今はお前の結菜じゃねえ」
そう言うと、春樹は少し傷ついたように口をつぐんで立ち上がった。病院を出て、いつの日かの川のほとりに向かった。
「春樹なら両立できたんじゃねーの」
「違うんだ……俺って、結菜のこと好きなのかな?」
「春樹が結菜を好きじゃなかったらいったいどこの誰が結菜を好きなんだよ」
俺は木陰に入り、木にもたれかかる。春樹は、自分の顔を確かめるように、水面を除いている。
「ごめん……俺の感情分かんなくなってさ。あの明るさが、今の俺には眩しい」
「おお……そうか」
なんて言えばいいんだよ。あと、いつもの君らの方が数倍は眩しいぞ。
「でも多分、ダサいとこ見せたくなかったんだろうなぁ……」
「いや、既に十分ダサいし、振ってる時点でクソだぞクソ」
「海斗って、慰めるセンスないわ」
へっ、と鼻で笑ってやると、春樹が急に大爆笑し始める。
「あーっはっはっはっはっ。やっぱ、海斗と喋ってる時が一番楽だ。俺たち付き合わね?」
「急なBL路線やめろ。誰得だよ」
ツッコむと、春樹が「はぁー」とため息をつく。情緒どうなってんだこいつ。
「とりあえずさ、母ちゃん治ったら結菜と話し合えよ。続けるにしても別れるにしても。結菜泣いてたぞ」
「だよな。どうしよ」
「振った件と母の体調は伝えとくよ。死ぬってわけじゃないんだろ?」
「うん、疲労が溜まってるってだけらしい。それでも、無理させてたのは俺のせいだから」
笑った春樹の目尻は軽く腫れていて、泣き後であることが分かった。
「そうか。あんまり背負い込みすぎんなよ。それを支え合うのが彼女ってやつで、結菜はそれをしてくれるやつだろ」
「ああ…………」
それから三週間後、春樹の母はいつも通り元気になったらしい。そして、彼ら彼女らは––––––––。
次回!最終話!絶対見ろよな!
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