episode16.夏祭り(おんぶもあるよ)
これは俺––––山瀬 海斗と、幼馴染三人。プラス神崎さんが描く夏祭りの一話に過ぎない。
「happy new year!」
「出だしっからわけわかんないのやめろ」
真っ赤な着物に腕を通し、はしゃぐのは結菜。頭が常にハッピーしてる。
「山瀬くん、私の着物姿どうですか?」
神崎さんがくるりと一回回る。うん、いいんだよ。似合ってるんだけど……。
「ガルルルル……」
「神崎さん、隣の楓が威嚇しまくりだから先に楓のこと褒めとくわ」
楓も派手目なピンクの着物。まるで夜に咲く一輪の花火のよう。
「着物似合ってるよ。楓ってこういう動きにくい服あんまり着ないから新鮮で見惚れる…………」
自分の精神を削りながら褒める。これでいいだろと春樹を見ると、うんうんと頷いている。
「海斗……なんかいい感じだよ! 普通のカップルっぽい!」
普通のカップルっぽいって発言がバカップルぽいんだけど。
「てかなんで凛ちゃんは海斗のこと諦めてないわけ? 彼女いる男に唾かけんなっつーの」
「楓さん、なんか前より当たり強くないですか? この前は優しかったのに」
「けっ! 私はね、日に日に海斗のことが好きになってんの! もう絶対人にあげないんだから」
やばい、俺絶対ニヤニヤしてる。ピクピク動く口角を何とか押し留める。
「諦めなくていいのは女の子の特権なんですよ。それに、楓さん押しが強いんで山瀬くんもちょっとしんどいなーってなってきますから。そこが私の勝機です」
花火が上がる前から火花が散ってますね……。
「よし、春樹! 最近イチャイチャ出来てないからここらで私たちもヤバいのいっとこう!」
「だな! 何する? 夏だし壁ドンでもやる?」
夏関係ないな。
「いや、夏だし顎クイいっとこう」
夏関係ないな。
「二つ合わせて壁クイやるか」
意味わからんとこだけ残ったじゃん。
「とりあえず、壁役は……楓ちゃんでいっか。断崖絶壁だし」
怒られるぞ。いや、怒るぞ。
「じゃあ春樹が壁ドンしながら顎クイして」
楓は結菜にされるがまま壁役になり、春樹が楓の胸部に腕を伸ばす。締め潰すぞ。そしてそのまま楓の顎をクイッと……。
これ春樹が楓の胸触りながら顎クイしてるだけじゃん。変態プレイやめろ。
「思ってたのと違う!」
「最初っから間違えてたからな」
なんで、説明書通りにやったんだけどなー? みたいな顔してんだ。
と、結菜がじゃれあいから抜け出しこっちにくる。
「最近の海斗はモテモテだねー」
「春樹よりはマシだよ」
実際、春樹はやばい。バレンタインデーとか靴箱なのかチョコ箱なのか分からんし。
「春樹と海斗じゃスペックが桁違いだからね。海斗の優しさだけじゃ春樹には勝てないよ」
腹立つが言ってることは正しいので黙っておく。花火がもうそろそろ始まるからか、人がだんだんと増えてくる。すると、ラブコメど定番。連れと離れ離れになる。
「ちょっ! 春樹ー! どこー?」
「クッソ。急に人増えやがった。しかも混雑しすぎて電話つながんねー」
人混みに揉まれ、押され、追い出され。残ったのはさっきまで話していた結菜だけ。神様、普通は楓を用意してくれるんじゃないんですか?
「なんで海斗なのよ。ゴミ引きじゃん」
「ゴミ引き言うな」
あの四人の中じゃハズレ枠なんだろうけど口に出すなよ……。
「とりあえず去年見たところまだ行く? あの三人だと春樹が提案するだろうし」
「だね。でもあそこカップル多いんだよね。みんなキスしちゃってて、私も春樹と流れで初キスしちゃったもん」
うわー。と相槌を打ちながら人混みを抜け、山に登る。塗装された道なので重労働ではない。
「赤井さんを助けたのってやっぱり楓の影響?」
階段をゆっくり登りながら聞いてくる。
「別に、そんなんじゃないと思う」
確かに、傷つく女子を見るのは嫌だったし、応急処置のノウハウは多少あった。でも、ただそれだけだった。
「てか、前から思ってたんだけど結菜って俺の前だとIQ上がるよな」
クワガター! とか言って海に走りにくようなやつなのに、唯一俺の楓への気持ちがわかっていた人でもある。
「気のせい、気のせい。まっ、四人の中じゃ海斗が一番付き合い長いからね」
俺と結菜、春樹と楓の2組がくっついたので古参は結菜ということになる。
「ねえ、疲れた。おんぶしてよ」
「春樹にしてもらえ」
「チッ」
舌打ち聞こえてますよ。わざとらしく舌打ちしながらいたずらに笑う。
「ねー、海斗! クワガタいるよ! クワガタ!」
「嘘つけ。早よ行くぞ。花火始まるから」
薄暗い木の方を指差しながら足を止めている。俺は楓といちゃつくために花火始まる前からいいムード作っとかなきゃなんだよ!
「まだ電話繋がらなーい。どうしよ。春樹たちどこいるかも分かんない」
木にもたれながらスマホをぽちぽちしている。もしかして……。
「結菜、足痛い?」
「なんで? 別に……」
少し前からおかしいとは思ってた。結菜のことだから「春樹ー!」って言いながら俺を置いてきぼりにするはずだし、明らかに止まる回数が多すぎる。
俺が屈んで背中を見せると、察したように腕を首に回す。何の感触とは言わないが背中に当たるおっ◯いの感触がおっ◯いですね。
「あれか、押された時に足踏まれたのか」
「ううん、壁クイのダメージが回復してないの」
「どつくぞ」
壁クイ云々は嘘なんだろうけど、別に無理に聞くようなことじゃないし深掘りしないでおく。結菜はケラケラ笑ったかと思うと、急にため息をついた。
「はぁー、春樹がよかったなー」
「マジでどつくぞ」
こんな状態で五分ほど歩くと道が開き、花火が見える丘に出た。
「あっ! 結菜ちゃん達いましたよ!」
神崎さんがひょっひょこ歩いてくる。
「私の海斗に何してんだっ!?」
「俺の結菜に何してんだっ!?」
修羅場だな……。その後は写真を撮り、花火を見て、解散となった。
楓とのイチャイチャ忘れてたああぁぁぁぁぁ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます