episode12.痴話喧嘩(校内放送もあるよ)
体育大会から数日、俺はなんかいい感じだった。なんかよく分からんけどいい感じ。例えば……。
「山瀬くん!今日も一緒にご飯食べない?」
「いいですよ」
赤井さんが俺の席に椅子と弁当を持ってくる。一つの机で男女二人。むず痒いものはあるけど、一人で食べるよりはマシ。六組にぶち込まれたせいでめちゃくちゃ浮いていたけど、三ヶ月ぶりに人と食べられる生活が始まったのだ。
「もー、いつになったら敬語抜けるの?」
「もうちょい時間かかるんで大目に見てください」
「あはは」と乾いた笑いを付け加える。タメ口で話して良いよ?って拷問でしかないんだよな。がち、気をつけてください、皆さん。
「そうそう!体操服どうしよっか?私の鼻血で血まみれになっちゃったの。洗ったけど、あんまり使いたくないよね?」
「気にしなくて大丈夫ですよ。男の汗の方が汚いですし」
というか、洗ったとはいえ女性の体液がかかった体操服とか背徳感あって飛べそう。いや、流石に気持ちわりぃな。
「そんなことないよー!汗かく男子ってかっこいいよー。その上でお姫様抱っこされちゃったらもうっ!って感じだもん」
「どんな感じっすかそれ」
もうっ!って……牛か何かだよな。猫耳少女の牛バージョン、
時計が一時を刺すと同時に校内放送が流れ始めた。
『さぁ!今週もやってまいりました、お昼の校内ラジオのお時間です!今日は放送部員三年、
おお、名前、イカれてんだろ。取り敢えず羅生門に謝れ。すいませんでした。
『今回のゲストはこの人たち!クレイジーな美男美女。校内一のバカップル!山下 結菜さん、アマテラス・ボルジャックマンでーす!因みにアマテラス・ボルジャックマンは本人の要望により偽名でーす!』
「ぶっっっ!」
飲んでいた水が滝のように溢れ出た。抑えた甲斐あって赤井さんにはかかっていない。アイツら何やってんだよ。あと偽名ダサ。アマテラス・ボルジャックマンて……。
「ハンカチいる?」
「ありがとうございます。今の、友達なんですよ」
「らしいね!じゃ、ラブラブだって!私たちも見習わなきゃね」
「ははっ」
取り敢えず愛想笑い。何を見習うんですかね。こんな奴らの。
『早速ですがお二人に質問が来ています。この学校では有名人のお二人ですが、もう一人幼馴染がいると聞きました。その人のことを知りたいです。ラジオネーム、アマテラス・ボルジャックマンとのことです』
おもっくそ、自作自演じゃねーか。あと何で話題俺なんだよ。
『そうですね、海斗は良いやつですよ。優しいですし、面白いですし、滑稽ですし』
おいこら。うっせぇ。あと、名前言うな。バレるだろ。案の定、クラスメイトの視線を集めてしまう。
『春樹の方が優しいし、面白いよ!』
春樹って言っちゃったよ。偽名の意味。
『ほう、ではもう一つだけ、お二人の初めて出会ったエピソードをお聞かせください。とのことです。ラジオネーム、ヤマシター・ユイッナーさんからの質問でした』
自作自演しかしないのかよ、このラジオ。あとユイッナーのポケモン感何とかしろ。
『私たち、昔はさっき言った子と、もう一人の合わせた四人で遊んでたんです。私たち二人が出会ったのはそのグループが初めて作られた時ですね』
『そうそう、俺がまだ
『流石に天使は違うんじゃないですかー?』
流石、龍之介介介介さん。俺たちの言葉を代弁してくれる。天使は言い過ぎだね。
『すいません、間違えましたね。女神です』
グレードアップさせてんじゃねーよ。
『ほう!アマテラス・ボルジャックマンのアマテラスと女神が掛かってるわけですね!』
そんな伏線回収、誰も求めてないって。
『と言うことで!今週のラジオはここまで!来週もお楽しみに!』
急に教室に静けさが戻る。その後は赤井さんとご飯を食べ、昼休みを終えた。
授業も終わり放課後になる。俺は問題児二人と帰るべく四組に向かう。
「春樹の浮気野郎!知らない!どうせ私みたいな地味女、遊び程度にしか思ってないんでしょ!」
教室の方から結菜の声が聞こえてくる。何があったんだよ。駆け足で廊下を進み、ドアを開ける。そこには、二人が喧嘩している姿があった。珍しっ。
「誤解だって。俺が浮気とか二股とかするわけないだろ?そんな奴いないから」
「嘘だ!いるでしょ!知ってるよ!金髪でおっぱいがデカくて!青色の瞳の女の子!スキンシップが激しいタイプのヤリ◯ンよ!」
感嘆符多すぎだろ。おそらく春樹の浮気相手の話でもしている途中だ。
「落ち着けって、いるわけないだろ。被害妄想だって。どっから出てきたんだ、その情報」
「私の春樹に手を出しやがって。ぶっ◯して
「どうしたんだ?」
「海斗、聞いて!春樹が悪い女にたぶらかされてるの。いち早く止めないと。スナイパー雇おうかしら。いえ、一発で仕留めたら私の気がすまないわ」
結菜がナンパされたら春樹がヤバいことになるけど、それと同じ感じなんだろうな。いや、それより酷いか。
「で、春樹、何があったんだ?」
「俺が結菜のことをマイハニーって言ったらハニーって奴がいると思って勘違いしたらしい」
バカだろ。今どき、ハニーを知らない奴いるのかよ。
「結菜、それ勘違い。欧米とかでは愛する人のことをマイハニーって言うんだ。ハニートラップとか言うだろ?」
「あっ……なーんだ!そう言うこと!ごめん、ちょっと取り乱しちゃった……」
世間ではあれをちょっととは言わない。コイツら喧嘩したら俺がいないと会話もできないのかよ。
「全然気にすんな。勘違いとか誰でもあるしな。全然話変わるけど、海斗は神崎さんと会話出来たのか?」
うっ……痛いところを突かれた。
「なんか避けられてるっぽいんだよな」
確かに「話したいこと」ってのを理由があったとはいえ無視したから怒ってるのかもしれん。同じクラスなのにアレから目も合わせてくれない。
「そうか……。まあ、なんかあったら言ってくれ」
俺は春樹の助言にコクリと頷いて見せた。春樹は結菜より少し大人かもしれない。母子家庭ってのもあるんだろうけど。
「そうだ、楓ってこっち帰ってきてるらしいよ。絶賛入院中だって」
「また入院してんのかよ」
結菜の発言に春樹が声を出して笑う。だが、俺は何も言えない。
「もうすぐ夏休みだし海斗が良かったらお見舞い行かない?」
「行かない」
行くわけない。行きたくない。聞きたくない。喋りたくない。顔も見たくない。
「海斗、行こうぜ?見たくないのも分かるけどさ。ほら、神崎さんも誘ってさ。なんかあるかも知れないじゃん?」
ぽんぽんと肩を優しく叩かれる。あーもう。分かったよ。
「気が向いたらな」
俺の意思が変わったのを見て二人の頬が緩む。
「よし、帰るか。お送りしますよ。マイプリンセス」
「ねえ、プリンセスって誰よ?!分かった!浮気相手でしょ!名前からしてイギリス人だわ!銀髪、巨乳のスキンシップが激しいタイプのヤリ◯ンだわ!」
いやプリンセスは分かるだろ……。
俺は痴話喧嘩話を背中で聞きながら、教室のドアをそっと開けた。
次回!もしくはその次、4人の!いや、5人、もしかしたら6人……の物語は佳境を迎える!ぜひお楽しみに!
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