1-4 徒歩散歩記 プロローグ
富士山は大学や学校近くで見るよりもずっと綺麗だ。この場に立って長所と言えば、それくらいしかない。地獄とも言いがたいが、何も無いのはむしろ絶望というに等しいのかもしれない。
富士山以外に見えるもの。一軒家、田んぼ、果樹園、畑。元何かに使われていたであろう草だけが生えた地面むき出しの土地。
この光景を見て、ある人はなんて自然豊かなんだと感動する者も中にはいるだろう。
しかし、学区内のギリギリ端へ行けばこの光景は容易に見ることができる。
以前までは、小学校から徒歩五分圏内に学校持ちの畑など学習に使う農園もあった。
現在はすっかり都会となった学校周辺。今となっては小学校の限られた土地で一人一つのプランターで花植物、トマトを育てる事にとどまっている。
作物の栽培経験が薄くなる事を心配するミツキは後輩達にこう言いたかった。
経験こそ物を言うと。そして、この誰もが考えても無謀な今をミツキはなんとしても成し遂げたくってオレンジ色に照らされる空の下。空を見上げ。蟻が渡る路面を見て。周りを見渡す。
「はぁ~」何気も無くただただため息をつく。無謀だと思っていない。しかし、気力は少し削られた。
もう日暮れ。意地を張って一回だけ助けてあげるという制限も無しに通話手段は手元に残っている。だが、そんな安易な手を使ってしまえばこの自分に課した挑戦というのは夢幻に消えていく気がした。安易というのは、あくまでもミツキのプライドが止めに掛かっている事。全くもって道半ばでリタイアするのも悪い事では無い。
だが、なんとしても山の外に広がる世界を見てみたかったんだ。自分の足で。自分の力で。
まだ旅は始まったばかりだった。彼女は日が暮れてからも歩き続ける意志をまだ残していた。
リュックから伝わるバイブレーションと着信音がミツキを夢の世界から呼び覚ます。
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