第50話 やりたい放題

 池袋配信から二週間が経った。


 珠理亜達はそれぞれペナルティを喰らったが、本人達は納得していた。珠理亜と鉄男は一度彼女のもとに謝罪に訪れている。


 まどかは琴葉を本気で、ダンジョン・ライバーズに迎え入れるべく、マネージャーどころか社長とまで交渉を続けている。


 ちなみにだが、数日前に婚活パーティにほんの気まぐれで参加し、散々な結果に終わったことを琴葉に延々と語っていた。


 レムスはヒメノンチャンネルの管理が忙しくなった。コラボや案件依頼が増えてきて、毎日嵐のようにメールを受信している。


 また、前回魔人に遅れを取ったと感じているようで、自身のアップグレードもいろいろと試みているらしい。


 二週間が経ったことで、琴葉の話題も一段落するかと思いきや、彼女はなんだかんだで驚くべき結果を配信してしまう。結局のところ、もう当たり前のようにトレンド一位をキープし続けている。


 彼女の周囲は目まぐるしく変化しているが、では当の本人はどうなったのか?

 実は相変わらずであった。


 謝罪配信と池袋復興の寄付。できる限りのことをしたことで、むしろ人気がさらに高まっているが、日常は変わらない。


 玲奈と学校帰りにスイーツを食べに行くことも、週に何回かダンジョンに潜ることも変わっていない。探索配信は週に一度はしている。


 金曜の下校時のこと。玲奈は隣を歩きながら、友人の楽しげな顔に目を細めていた。


「今日もダンジョンに潜るの?」

「うん! ねえ聞いて、すっごい面白そうなとこ見つけちゃったの。他のダンジョンのお宝とか、超貯まっている所なんだって!」

「あら、どうして貯まってるの?」

「なんかね。とっても速いモンスターさんがいて、背後からお宝を盗んで逃げちゃうんだって。だからちょっとずつ、そのダンジョンにはお宝が増えてきたらしいよ」

「え? じゃあ琴ちゃんも盗まれちゃうんじゃないの?」

「大丈夫大丈夫! 追っかけるから」


 そう言いながら、琴葉は走るような素振りを見せた。友人はそのジェスチャーに微笑しつつ、確かにモンスターは逃げられないだろうな、という想像をしてしまう。


「うふふ、琴ちゃんなら、きっと大丈夫ね」

「あはは! あ、ねえ玲奈ちゃん。あのお店寄ってかない?」

「いいけど、今日はもう三店めよ?」

「えへへ……ちょっとお腹すいちゃった」


 食欲も相変わらず、というより増していたが、スレンダーな体型を維持しており、友人はそういう面でも驚きを隠せなかった。だがここ最近、琴葉だからという理由で納得してしまう自分もいて、なんだかおかしかった。


 二人にとって幸せな時間は、今日もこれからも続く。


 ◇


「レムちゃん……後ろ、来てる?」

「ハイ、接近シテイマス。残リ数秒デ動クカト」

「なんかワクワクするね!」


 そして家に帰った後。一人と一体は秋葉原に向かい、とあるダンジョンで配信を行っていた。

 もはや登録者数は一千万に迫り、同接は百万を超えていることが当たり前のようになっている。


 琴葉は珍しくダンジョンの下には潜っていかず、上層でぶらぶらと歩いていた。すると、しばらくしてからそろそろと背後を忍び足で近づいてくるモンスターがいたのである。


 そのモンスターはゴブリンなのだが、顔に布を巻いており、いかにも盗人という格好をしていた。決して人間に攻撃はしないが、その代わりに高価な荷物を盗んで超スピードで逃げてしまう。


 今回もターゲットを見つけたとばかりに、シーフゴブリンは嬉しげだ。忍び足で近づくこと数秒、隙を見せたレムスが手にしていた宝箱を、勢いよく掠めとった!


「ギャギャー!」

「盗マレマシタ」

「わあ、はやーい!」


:なんか呑気だなw

:姫さまの狙い通り

:めっちゃ泥棒って格好してる

:草

:追いかけましょう

:レムちゃんから盗んだか

:姫さまの罠

:ゴブリン、すげー嬉しそう

:この後大変なことになるんですね、わかります

:ゴブリーン

:姫さまーーーー

:なんかゆっくり追いかけてるw


 琴葉はその気になればすぐに捕まえられたのだが、わざとゆっくりと追いかけることにした。突き当たりを曲がると、モンスターの姿は忽然と消えている。


 大体ここでモンスターを見失って終わりなのだが、彼女はここで岩を殴りつけ始め、数秒ほどしてから大穴を開けた。


「やっぱり! さっき通った時、この辺り変だと思ったんだよね」

「姫サマハ、オ宝ノ嗅覚ガ優レテイマス。ヌスットノ才能モアリマス」

「え? そんなことないよー。もっと違う才能がいい。じゃあ行こっか」


 隠し部屋を進むと、簡易的な砦が作られており、そこには金銀財宝の山があった。先ほどのシーフがボスと思わしき成金リザードマンに報告をしている。


 ゴブリンにスライムに骸骨剣士、悪魔狛犬などがたむろし、新たに手にした宝に歓喜していた。モンスター達の背後には、金貨の山が輝いている。


 この夢のような光景に、琴葉は瞳をキラキラさせて胸の前で手を組み、心からワクワクしているようだ。


「素敵ー! ねえレムちゃん、お宝の山だよっ」

「カナリアリマスネ」

「うん! じゃあ行こ!」

「ハイ」


 琴葉はまるで疾風のようにモンスター達の前に現れる。当然彼らは驚き、そのまま蹴散らされていく。


:姫さまニッコニコw

:お宝の山ー!

:すげえええええ

:かわいい

:これもすぐ別空間に収納されるわけか

:あっという間に全滅したぞw

:モンスター達、盗んだもの根こそぎ取られちゃってるw

:やばい、過去一飛ばしそう

:ゴイスーーーー

:今日も期待してます

:姫さま、さすがです!

:うおおおおおおおお

:もう何が起こっても驚かないわw

:姫ーーーー!

:今日も無双してるなw

:草ーーーー

:頑張ってー

:あああああああーモンスターが一瞬で!?

:やったねー

:姫さまー!

:きちゃー


 モンスター達をあっさりと瞬殺し、お宝の山をゲットした彼女は、今日も視聴者達を驚愕の渦へと呑み込んでいく。


 彼女の快進撃は、これでもまだ始まったばかり。視聴者達はなにより彼女の笑顔が見たくなり、一度視聴すると何度でも観に行きたくなってしまう。


 お姫さまのような笑顔が、視聴者達の心を明るく照らしていた。




ーーーーーーーーーーーー

【作者より】

突然ですが、本作は一旦完結としたいと思います。

おかげさまで毎日投稿をすることができました!

私にしては珍しく50話書けたのも、皆さんのおかげです。


また書きたくなった時、連載に戻して書くかもです。

その時はまたよろしくお願いしますー!


最後に、良かったら下に進んだ先にある星マークをポチッとしていただけると、

大変嬉しいです。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

とあるお姫様Vtuber、ダンジョン配信を切り忘れたまま危険度SS級ドラゴンをワンパンしてしまい、キャラ崩壊とバズりが止まらない!? コータ @asadakota

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画