第46話 魔法剣と止まらない衝撃
あっという間に新たな戦いが始まった。
琴葉は正面を見据え、先陣を切ってくるモンスターと相対している。
まず最初に襲いかかってきたのは、巨大なライオンだ。長い立髪は腹のあたりまで生えており、威厳のある顔には殺気が満ちていた。
巨大バーバリライオンと呼ばれる、獰猛な二頭が瞬時に獲物を捕獲しようとした。
「えい」
「グウウウオオオ!?」
しかし、細身の少女が振り回すあまりにも長すぎる大剣が、横なぎに二頭を切断した。刃はフロア内の観客席ごと切り裂いている。
常軌を逸した事態に、モンスター達は驚きこそすれ逃げはしなかった。分不相応にしか見えない大剣を手にする敵に、勝利を確信して襲いかかり続ける。
鉄球を振り回す骸骨戦士や、小型のレッドドラゴン、ゾンビリザードン、毒霧を撒き散らす巨大な蝶といった多種多様なモンスターが矢継ぎ早に迫ってきた。
「せい、せい、せい」
琴葉はくるりと身を翻しながら、縦横無尽に大剣を振る。壁に床にそして天井までも、モンスターごと切り刻んだ。
「グアアアア!?」
「グヘエエ!?」
「ギイィイイーーーー!」
モンスター達は現れては惨殺されてを繰り返す。だが奥にいるモンスターほど状況が見えないこともあり、雪崩れ込む数は減っていない。
しかし一瞬で倒されてしまうので、数で押すこともできなかった。モンスター達は下層から上がってきては切られる、という流れを繰り返すことになってしまう。
「んー? なんか、このままじゃキリがないかも」
琴葉は時間を気にしていた。早く自分も加勢して、あの魔人を止めなくてはいけない。もう魔法を使ってもいいのではと思いつつ、どうなるか分からないので怖いというのも本音ではあった。
「あ、そうだ! 魔法剣だったら、あたしでもやれるかも!」
そこで、一つの思いつきが脳裏を過ぎった。丈一郎が使っていた魔法剣を真似することを思いついたのだ。
幸か不幸か、この時の彼女を止める存在はいなかった。
◇
一方その頃、神奈川にあるダンジョンの下層で、一人の男がタブレットを凝視していた。
「何なのですかこれは。人間業とは到底思えません」
男は髪をオールバックにしており、ダンジョン内であるにもかかわらずスーツ姿だ。紫のスーツは格調高く、メガネもハイブランドであった。
彼の名前は
そこで、氷堂はいつもの日課であるヒメノンチャンネルを視聴していた。池袋でのRTAバトルを楽しみにしていた彼は、魔人の登場シーンから目を離すことができずにいた。
とんでもないことが起こっている。どうやら金髪の魔人は池袋の限定報酬を手にし、大きな力を発現させて地上に現れてしまった。
この異常事態に対抗するべく、既に政府関係や民間、ありとあらゆる箇所に報告を行っていた。しかし、彼らはダンジョン絡みの敵を相手にした経験に乏しい。
「リーダー! 俺達も、そろそろ行こうぜ」
「早く地上に行かないと、やばいんじゃないの?」
氷堂を慕うパーティメンバー達もまた、自分達が何をするべきかを理解している。彼もまた、ここから急いで引き返すべきであることは分かっていた。
だが、その前に一つだけ知りたくて堪らないものがある。ヒメノンが謎の空間から抜いた剣と、そもそも武器をしまっていた空間自体だ。
知識と経験、工夫によって磨きに磨かれた彼の目は、どれほど規格外の映像であるかをすぐに理解した。
「ええ、分かっています。我らは早く向かわなければなりません。しかし、驚きましたよ。まさかイレギュラーが振るっていた剣を、彼女が持っているとは」
「イレギュラーって、どいつのこと?」
「覚醒アトラスです」
この一言で三名は絶句してしまった。覚醒アトラスとは、下層または深層にごく短い時間だけ出現していた、イレギュラーモンスターである。
現在確認されているモンスター中でもトップクラスの巨体と、信じられないほど長大な赤い剣を振り回し、多くの探索者を葬った存在。巨大であるにもかかわらずスピードは人間を上回り、ごく一部の探索者しか対処できない危険度SS級以上と言われる。
対処とはいっても、倒すことができた存在はいなかったのだ。ヒメノンが持っている赤い剣は、覚醒アトラスが持っていたそれと酷似していることに、氷堂は気がついた数少ない一人であった。
「なぜ彼女が覚醒アトラスの魔剣を持っているのでしょう。いえ、持っているということは、つまり……倒した……?」
普段は冷静で取り乱すことのない氷堂が、誰の目から見ても分かるほど動揺している。アトラスを倒すなどあり得ない。しかし、現に彼女は奴だけの武器を持っている。
「お待たせしました。急いで戻りましょう」
青い顔のまま、氷堂は三人を連れて上へと向かう。カメラを持っていたレムスがダンジョンから離れたので、配信画面から琴葉は消えてしまった。
ぼやぼやしてはいけない。早く魔人に対抗しなくてはならないことは分かっていた。
身支度を終え、急いで地上へと戻る最中にも、氷堂は絶えず思考を絶やさなかった。魔人とやらに、自分達はいいようにやられてしまったのだ。
一位の神居は現在海外にいる。二位は関西のダンジョンに潜っているし、他のランカー達もまた、すぐに駆けつけることができない状況だった。
全て計算ずくだったとしか思えない。つまり相手はよほど狡賢く厄介であり、姿が確認できるうちに仕留めなくてはならない。他の探索者達もまた、彼と同じように考えているだろう。
もし逃げられて姿を隠されたら。またいつ襲撃を受けるか分かったものではない。
今や誰よりも恐れられている魔人は、既に悠々と外に飛び出しており、やりたい放題の破壊活動を開始していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます