第41話 決着と始まり

「ゴール地点ニ到着シマシタ」

「しゃー! 勝ったわぁああ!」

「やったー!」


 二人と一体はその後モンスターに出会うこともなく進み、とうとうゴール地点である中心フロアへと到達した。


:おおおおおおお

¥10,000:やったぜえええええええ

:おめでとー!

¥50,000:姫さま、おめでとうございます

:姉さーん!

:快勝ーーーーーーー

:まだ珠理亜達来てないな

¥30,000:完全勝利!

:決まったー

:珠理亜達涙目w

:イェーイ

:勝った勝ったー!

:おめでとうー

:やったーあああああああ

:うおおおおおおお

¥50,000:感動した

:なんだかんだ勝てて良かった

¥3,000:姫さまー

:おめでとう

:おめ!

¥10,000:圧勝ーーーーーー


「あ、ありがとうございます!」


 押し寄せる祝福コメントとハイパーチャットを見て、琴葉はペコリと頭を下げる。まどかは若干疲れが出ているのか、少しばかり放心状態だったが、自らのチャンネルにきたお祝いコメントに感謝を伝えていった。


 この後は対戦チームの到着を待つばかりである。ゴール地点はさながら円形の決闘場とも言える作りになっており、丸い砂地を客席のようなものが囲んでいた。なぜこんな場所があるのか、ベテラン探索者にもよく分からない。


 お礼を一通り終えた後、琴葉は不思議そうに周囲を見回していた。


「それにしても、ここってゲームに出てくるコロシアムみたいですよね」

「だねー。なんか不思議だわ。もしかしたらどっかで使われてた、みたいな?」


 さらにこのフロアには異質なものがある。四つの入り口の北にあたる箇所、屋根近くにそれはあった。


 縦型のライフゲージのような形をしており、赤い色が最下部付近ギリギリまで染まっている。ゲージの下には、奇妙な黒い物体があるのだが、実際には何なのか分からない。また、付近には強力なバリアが張られており、決して触れることができないのだという。


「先日ヨリゲージガ進ンデオリマス。残リ僅カデ解放サレルカト」

「そうなんだ! 何が入ってるのかな?」


 琴葉はどうしても中が気になったのだが、レムスは他のことを考えているようで、しきりに周囲を見回している。


「恐ラク、秘宝ガ納メラレタ宝箱カト」

「わああ! 超欲しいかも」

「まあねー、みんなが躍起になってここをRTAバトルの舞台にするのも、アレの中身を手に入れたいっていう目的もあるわけよ。ってか、単純にここが目立つっていうのもあるけど」


 まどかがなんとなく過去の競争を思い返しながら喋っていると、遠くから足音が聞こえてきた。まず先に舞台に入って来たのは、全身がボロボロ状態の丈一郎だ。


「ご、ゴールした……ぜぇ……」


 彼はフロアに入ってくるなり、前のめりに倒れてしまう。


「きゃあ!? だ、大丈夫ですか?」

「あちゃー。そういえば……いや、何でもない」


 まどかは自分達と対峙した後に逃げ出したモンスター達を思い出した。反対側には珠理亜チームがいたので、逃げた分のモンスター達と鉢合わせになったようだ。


 続いて息も絶え絶えになりつつ、珠理亜と鉄男が到着した。ここまで満身創痍な彼女を見たのは、ライバルであるまどかも初めてである。


「み、皆さん。お疲れ様です」

「お疲れー……」


:みんなズタボロじゃんww

:珠理亜、もう目が死んでる

:草

:ざまぁ

:死なないだけ良かったのか

:そういえばモンスターが逃げていった先って……いや、考えるのやめとこw

:姫さま、すげえ心配してる

:こりゃ完全敗北だな

:見事な負けっぷり

:お疲れー

:姉さんも何も言えないみたいw

:後はエピローグ的な?

:終わった……って空気感


「ぐ、ぐううううう! なんで、なんでウチらが負けてんの。丈一郎! 鉄男! さっさと起きて」

「お、起きてるぜえ……」

「いやはや、まさか大差で負けるとはね」


 珠理亜は悔しさが抑えきれず、歯噛みしながら地面を叩いた。ここまで時間差が開いた大敗になるとは、想像もしていなかったのだろう。


 消耗しきっているその姿を見て、琴葉が気まずそうにしていると、隣にいたレムスが意外な行動に移った。


「まどか殿、スミマセンガ少シ、持ッテテクレマセンカ」

「え? ああー、別にいいけど。どしたん?」

「スグ戻リマス」

「え? レムちゃん?」


 まどかにカメラを手渡し、レムスはスラスターを使って誰も通ってこなかった南側の通路へと飛んだ。二人は唐突なレムスの行動に戸惑いつつも、とりあえず疲れきった相手チームを助けることにした。


 ◇


 暗い通路の中を、丸い光が高速で照らし続けている。


 残っていたモンスターが不意打ちを狙ってくるが、機械の体をもつ琴葉の相棒は動じない。苦もなく即座に倒していくと、何もないように見える行き止まりへと辿り着き、スラスターを止めて地面に降り立った。


「コンニチハ」


 近づきながら、レムスは自然に声をかける。よく見ればそこには人がいた。すらりとした長身、腰まで伸びた金髪、スーツ姿が決まっているが、この場にはあまりにも不釣り合いだ。


「あちゃー。見つかっちゃったんですねえ」

「……」

「いやいや、ここで言うのもなんですけど、怪しい者じゃありませんよ」

「何故ココマデ来タノデスカ?」


 今回のバトルの発端となった彼女は、苦笑しながら手を振った。小さな事務所のマネージャーであり、珠理亜達を集めて戦う決心をさせた存在である。


「実はですね、珠理亜さん達に協力して、最後の撮影の準備をしてたんです。いやー、だってこんなに盛り上がる展開、もっと活かすべきだと思うんですよ。あ、そこにある機材もサプライズのために用意してるんですよー」


 行き止まりには何かが置かれていた。レムスが目から放った光で照らすと、機材というよりも小さな祭壇のような物が映る。


「ナルホド。シカシ残念デス。ココカラ先ハ、撮影ハ非推奨デスノデ」

「ええー? なんでですかぁ? だってだって、感動のエピローグってところじゃないですか」

「マダ誰ニモ話シテマセンガ、衝撃的ナ映像ガ写ッテシマイマス」

「衝撃的な映像、と言いますと?」

「実ハ……コノ中デタッタ一人ダケ、帰ラヌ人トナルノデス」

「帰らぬ人って? 死ぬってことじゃないですかー。それも一人だけ? どういうことです?」


 レムスの淡々とした発言は、彼女の好奇心に火をつけた。すると、機械の頭が少しだけ前に俯き、音量が下がる。


「コレハマダ、秘密デスガ……」


 聴き取りにくくなった声を拾うため、マネージャーはすぐそばまで近づいて顔を寄せた。


「はいはい! 秘密はちゃーんと守りますよ。それでそれで?」

「……ソレハ、アナタ」

「え? 私——」


 マネージャーが反応するより早く、レムスは刀を鞘から抜き、そのまま勢いに任せて切りつけた。

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