第23話 宝箱の中身と告知タイム

 パカっと中を開いてみると、そこに入っていたのは銀色に輝く剣であった。


「カッコいいー! あ、でも何度か見たことあったよね」

「鋼ノ剣デス。コノ部屋ニ同ジモノガ三振リアリマス」

「そうそう! あたし最初の頃使ってました。でも、もう使ってたのは壊しちゃったけど」


:定番武器キター

:鋼の剣はやっぱりいくつも持ってるんだ

:姫さまが剣を振ってる姿が想像できん

:配信でみんな使ってるけど、大体途中で壊れちゃうよな

:やっぱカッコいいデザイン

:俺的に一番好きな武器かも

:私も使ってるー

:姫さまなら速攻で壊しそう

:おおー

:いいじゃんいいじゃん


 最初の武器が視聴者層にもウケがいい定番だったことで、チャット欄は賑わっている。琴葉は大事そうに布で剣を拭いた後、宝箱全体も掃除した後にテーブルから降ろした。


「やっぱり鋼の剣っていいですよね! あたしも好きです。何本あっても嬉しいです。じゃあ次!」


 続いてテーブルに乗せた宝箱は、赤色でいくつか装飾が施されている。なんとなく先ほどよりもレアな物が入っているような気がして、琴葉はワクワクしてきた。


「さあ、次の宝箱は——」

「オヤ、コレハ……」


 中に入っていたのは、見たところただの葉っぱだった。しかし、高級そうな赤色の布に包まれている。


「コレハ身体ノ異常ニ効果ガアルト言ワレル、原初ノ葉デス」

「え! どんな病気にも効果があるってこと?」

「主ニダンジョンデ敵カラ受ケル状態変化、バッドステータスニ効果ガアリマス。即効性ガ高イデス」

「わああ! 便利ー」


:意外と重要そうなアイテム来たー!

:ダンジョンで受けるバッドステータスっていうと、毒とか眠りとか?

:ダンジョンってけっこういろんなバッドステータスがあるよね

:じゃあ大抵の病気にも効くんじゃね?

:すっごい価値ありそう

:レムちゃんなんでそんなに詳しいの

:レムちゃんが博学

:ただの葉っぱにしか見えないのに

:煎じて飲むとかかな


「そうなんです! レムちゃんはとっても詳しいんですよ。あたしもいろいろ教わってます」

「昔勉強シテマシタノデ」

「あ、そうそう! レムちゃんと出会ったのはダンジョンの奥だったんだけど、なんかずっと昔は、人と旅してたんだよね?」

「ハイ。デハ姫サマ、ソロソロ三箱目ヲ開ケマスカ」

「あ、はーい! じゃあいよいよ、このレアっぽい宝箱ちゃんいきます」


:へええー!

:ダンジョンの奥で知り合ってたのか

:え? 人と旅してたの?

:旅してたら絶対目立つと思うけど

:謎だらけやなー

:出会った経緯をもっと知りたいわ

:勉強熱心なレムちゃん

:お! いよいよあれかー!

:カニが守ってたやつね

:あのカニグロかったわ

:一番レアなやつ!

:楽しみー

:キター!


 赤色宝箱を入念に手入れした後、琴葉はメガシザース変異体からゲットした、紫の宝箱をテーブルに置いた。


 ボスモンスターから手に入れた宝箱というのは相当貴重なもので、なかなか一般人は目にする機会がない。琴葉もいよいよとばかりに目を輝かせている。


「すっごい楽しみ! 何が入ってるのかな。じゃあいきまーす」


 カパッと勢いよく箱を開けてみると、中から金色の輝きが一瞬広がったように感じられた。食い入るように中身を見つめる琴葉だったが、ワクワク顔が徐々に?マークで埋まっていくのが視聴者達にも分かった。


「え? え? なに、これ」

「ナルホド、コレハ……水着デスネ」

「み、水着なの? なんかほとんど布地がない気がするんだけど」

「エッチナ水着ト呼バレテオリマス」

「え?」

「エッチナ水着デス」


 小さな手が拾い上げた布は、かなり薄い金色の水着である。とはいえ、ほとんど布部分が細すぎて面積が少ないため、琴葉には最初なんだか分からなかったのだ。


 しかし、この水着の登場に視聴者達は盛り上がった。


:えええええええええ

:あのカニ、なんてもの守ってやがる!

:なんでカニがこんな物持ってたんだww

:草

:エッチですね、とてもエッチです

:なんか妙に神々しいなww

:確かに布が細すぎて、最初分かんなかったわ

:面白ええええええ

:うひー

:これは素敵なアイテムですよ姫さま

:あああああ

:きた!

:草

:色っぽいのか豪勢なのか、なんなのかw

:あのエロ蟹……

:なんでこんなの大事に守ってたんだあいつww

:あああああああ

:エッチなのキタ!


「姫サマ、コノ防具ハカナリ優秀デス」

「え? そうなの?」

「見タ目ニ反シタ高イ防御力ト、様々ナ息攻撃ニ耐性がアリマス」

「へえー、こんな薄いのに?」

「並ミノ防具ヨリモ優秀デス。コレハオススメデキマス」

「え? ちょ、ちょっと! 探索で使えってこと? 無理だよ!」

「……ナルホド、確カニ胸部分ノサイズが小サスギデスネ。姫サマガ使ウ為ニハ、最低デモカップサイズガ」

「ぎゃー! レムちゃんやめて!」

「ハイ」


:レムちゃんのゴリ押しww

:そんな優秀なのこれ!?

:薄くて細いのに防御力が高いという矛盾

:レムちゃんが猛プッシュしてますよ姫w

:草ぁ!

:姫さまが何カップか公開されるところだったw

:機械だからその辺の配慮分からんのかw

:レムちゃんが事故るところだった

:惜しかった

:姫さま、試着を

:これほどお薦めなら、探索に使うしかないね

:セクハラすぎい!

:けしからんですよ

:姫ー! お願いします

:蟹のやつ、なんてことを

:蟹は姫に一矢報いたな

:めっちゃ恥ずかしそうにしてるww

:姫さま、どことは言わないけど意外とある

:かわいい

:姫さまー!


「む、無理! 無理無理! この水着は封印です」

「封印トノコト、承知シマシタ」

「じゃ、じゃあ次は……えーと。告知タイムになりますっ」


 琴葉は完全に顔が真っ赤になり、考えていたセリフが飛んでしまったようで、少しの間思い出そうと必死になっていた。視聴者達は若干の放送事故とリアクション、これからの展開への期待に盛り上がっている。


「え、えーとですね。実はこの前から、円丈まどかさんとお話しさせていただく機会がありまして。あの、コラボをさせていただくことになりました!」


 すると、レムスはテーブルの下に隠していたパネルを取り出した。手作りのパネルには、琴葉とまどかのイラストとコラボタイトル、それから概要が書かれている。


 実は琴葉がチャットでコラボの誘いをOKした後、まどかは一気に話を纏めてきたのだ。今日サプライズ的にお互いのチャンネルで告知することも決まっていた。


 あまりのスピード感と情報量に、つい先日まで無名だった少女は戸惑いを隠せなかったが、とにかく言われたとおりに動いている。


「あの、実はまどかさんが所属している事務所にスタジオがあって。そこが渋谷なんですけど、あの、そちらで雑談をさせていただくことになってます。皆さん、良かったら観ていただけたら嬉しいです!」


:うおおおおおおお!

:マジかーーー!

:とうとう来た

:姉さんとのコラボ!

:姉さーーーーーん

:姉さんにさっきの水着持っていこう

:キター

:あのスタジオ、っていことは公式配信?

:ここまで繋がるか!

:すげー!

:姉さんなら水着着てくれる!

:絶対観にいきます!

:もう盤石じゃん

:おめでとー

:おめでとうございます姫さま

:キター

:そろそろ収益化も通りそうだし、いろいろアツいわ!

:↑水着持っていったら怒られるだろww

:あああああ!

:やばいーーーー

:姉さんとのコラボはアツい!

:超楽しみ!


「あ、あ! えーとその、ありがとうございます! あたしもすっごく楽しみなので、皆さんもよろしくお願いします」


 視聴者達の反応は、まどかにとっては概ね目論みどおりであり、琴葉にとっては想像以上であった。


 その後少しの雑談をして、今回の配信は幕を閉じた。いつの間にか同接は十二万に到達しており、以前の雑談配信を大きく超える勢いとなっている。


 またしてもSNSでトレンド一位をキープすることとなり、界隈を騒がせ続ける琴葉であった。

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