第24話 まどかと事務所でコラボ配信
雑談配信から三日後のこと。琴葉は学校帰りに電車を乗り継ぎ、渋谷のとあるビルの前にやって来た。
(うわぁあ……めちゃくちゃ大きい)
彼女は一人呆然と突っ立っている。他のビルよりも一際大きいタワー型ビルは、一体何階まであるのか想像もつかない。今や渋谷を代表するとまで言われている超大型ビルであった。
ここでまどかと待ち合わせをしているのだが。
「姫ちゃんやっほー! 元気してた?」
「あ、まどかさん! こんにちぃい!?」
ロビーに入ってみようかとオロオロしていたところで、背後からやってきたバイクが目前で停止した。まどかはバイクから降りると、首にかけていたペンダントを指で触れながら、小さく呟いている。
すると、バイクが吸い込まれるようにペンダントの中へと消えていった。ダンジョン探索において非常にレアな確率で手に入れることができる、魔道具の一種であった。
「あれ? なんか元気なさそう?」
「えへへ。いろいろあって、ちょっと戸惑っちゃってて。それよりまどかさん、ダンジョンに入る時の格好なんですね」
「まあねー。事務所にいく時はあんま服は気にしないのよ。じゃあ行こっか」
(大都会の真っ只中なのに、気にしないって凄いなー)
リラックスした配信界の先輩とは対照的に、後輩は緊張しまくっている。ロビーや多数のお店が並ぶ一階は人で溢れていた。連れられて入ったエレベーターは驚くほどの速度で上昇し、あっという間に十階に到達した。
そこから先はオフィス用となっているらしく、一度受付を通過してから新たなエレベーターに乗り、また凄まじい速度で三十六階へ。
「ひゃああ。すっごい高いですね」
「まあねー。あたしも最初に見た時は、あそこをトボトボ歩いてる女がゴミのようだ! とか思われてんじゃないかと考えたくらいだったわ」
「な、なんか変わったこと考えてるんですね」
「あはは! まあねー、あたしってば変人で通ってるから。事務所はこっちよ」
白塗りの通路が、琴葉の瞳にはまるで宮殿にいるように映る。彼女が所属する事務所【ダンジョン・ライバーズ】は可愛らしいスライムの人形が入り口に置かれており、それを見つけた時にはほっこりした気分になった。
「マネージャー! 大型新人を連れてきたよ。スタジオ準備できてる?」
「そ、そんなっ。大型新人だなんて。お、お疲れ様です!」
慌てながらも頭を下げる琴葉に、二十代中盤ほどと思われるスカートスーツを着た女性が小走りでやって来た。
「わああ! 生ヒメノンじゃないですかー。初めまして! 先日はまどかさんを助けていただいて、ありがとうございます! 配信も観てます。超アガっちゃいましたよ」
「あたしも目玉飛び出るかと思ったわ。姫っち、謙遜しなくていいのよ。そういう業界なんだからね!」
「は、はい」
思わず腰が引けてしまう後輩に、先輩は気楽そうなアドバイスを送る。ダンジョン探索者というものは、とにかく豪快なイメージを持たれる仕事である。
これは日本のみならず世界中の共通認識であり、先駆者達がそれだけ血気盛んな男女ばかりだったこと、元々危険な場所に挑む勇敢さといったところから連想され、定着したものであるらしい。
「もうコラボの準備はバッチリですよ! さあさあ、姫様こちらへどうぞ」
ノリノリの新人マネージャーに連れられ、二人は【雑談配信用】とプレートに書かれた部屋へと入室する。雑談配信はマンションやアパートなど、狭い部屋で行われるというイメージがあるが、有名配信者は事務所のスタジオでやっていたりもする。
「じゃあそこのソファに座ろっか。CG使おうと思ってさぁー。ちょっとカメラ見てみ」
「え? ああ、あ! すごーい!」
カメラにはソファと背景が映し出されている。背景は全てCG状態となっていた。今は夕日が出つつあるのだが、カメラの背景には晴天とどこまでも広がる草原が映し出されている。
「MMOとか始まっちゃいそうでしょ? 良くない?」
「超いいです! アガっちゃいます」
興奮気味に喜ぶ琴葉を見て、まどかもニンマリしてしまう。
「あはは! まあ楽にしていこ。今日は打ち合わせどおりでいこーね。ま、緊張する必要はなーんもないから」
「は、はい! よろしくお願いします」
二人のやり取りを暖かい目で眺めていたマネージャーが、不意にぷぷっと笑った。
「こんなこと言っちゃってますけど、まどかさんもここで初めて配信する時、それはもうガッチガチだったんですよぉ。むしろ姫さんは、落ち着いてるほうですね」
「ちょ、そんなことないってば!」
「アーカイブ残ってるんで、良かったら観てください。面白いですよ」
「あれまだ残ってたっけ!? もう消しで良いでしょーが!」
「はぁーい。じゃあ撮影一分前でーす」
(は、始まるんだ! テレビの収録っぽい!)
マネージャーとまどかの話に固まった笑顔でコクコクうなづきつつ、琴葉はいよいよ始まるスタジオ配信に緊張が膨らむ。
ソファに腰掛けた彼女は、そういえば自分の服装もCGで変わっていることに気がついた。
「え、えええ!? この服ってぇ」
「あ、ちゃんとキャラに合うようにしてみたんですよ」
「めちゃくちゃ似合ってるじゃーん! さすがあたしのチョイスに外れはないわ」
琴葉の顔は現実そのままに、服装は黄色いドレス姿になっていた。ちなみにまどかもまた、舞踏会用に見える漆黒のドレスを纏っている。さらには黒い羽付メガネまで装着してしまう始末である。
(ひえええええ! ウッソでしょ!?)
戸惑う彼女をよそに、配信はスタートしてしまった。新人らしく、琴葉が緊張でいっぱいになっている微笑ましい図であった。
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