第25話 公式雑談スタート!

「みんなー! おつまどー! 円丈まどか、今日はスタジオから配信してるぜぃ! そしてそしてー、とーっても素敵なゲストを呼んじゃってます」


 スッとさりげなくまどかにパスを出され、琴葉はさらに緊張が高まり半石像状態と化した。


「こ、こここんにちはー! ヒメノンって言います。今日はあの、大先輩であるまどかさんと一緒に雑談をしながらお話したいと思います」


:おつまどー

:おつー

:姉さーーーーん!

:姫ーーーー!

:こんちゃですー

:お?

:www

:姫ガッチガチやんw

:告知してたやつだ!

:雑談しながらお話しってなに笑

:おお! 話題のあの子がいる!!

:姫、落ち着いてくだされ

:雑談しながらお話しww

:頭痛が痛いみたいな感じね

:二人とも綺麗すぎる!

:おおお、ドレス姿かぁー

:姉さんがエッチ

:すげえテンション上がっちゃうわ

:こんちはー

:間に合った!

:コラボ激アツじゃん!


 最初から失敗した感があったが、視聴者達はそんな姿すら楽しんでいるようだ。まどかは苦笑しつつ、優しく後輩にタッチした。


「姫っち、めちゃくちゃ固まってるじゃん。まあ実を言うと、待ち合わせした時からだけどね」

「すみません、あたし。こんなに凄いところで撮影させてもらうとか、初めてで」

「いいっていいって! ほら見て、同接十七万だよ」

「ひゃああ!?」

「十七万人が姫っちのあんなとこや、こんなとこ見てるよ」

「え!? ええええ」

「まどかさーん! 下ネタ方向に進まないでくださいねー」

「チッ! まだ全然ノーマルでしょー?」


 円丈まどかは基本的にどんな会話でもこなせるのだが、特にセクシー方向に話を持っていくのが好きだ。しかし、初めてのコラボということもあり、マネージャーは早めに釘を刺した。


:マネージャーの先制攻撃が決まった瞬間

:姉さんww

:今日はさすがにガード硬いな

:まあ相手は初コラボだし

:姫さま、姉さんは野獣です。お気をつけて

:多分それでも止められないのが姉さん

:姫、どんどん石化してるww

:静止画かってくらいカチコチな姫


「っていうか姫っちはねえ、あたしはすっごく恩を感じてるの。この前はマジ死ぬかと思ったわ」

「あ、あの時の探索ですよね。トカゲさんに追われてた」

「トカゲ!? いやいや、あれドラゴンよドラゴン」

「え? そうだったんですか」

「あんなガンギマリした顔のトカゲなんてないない! こんな顔しながら追いかけてたし!」


 するとまどかは立ち上がり、クワっと目を見開いて怖そうな顔のまま、ヨタヨタとカメラに接近していく。その姿を見て、思わず琴葉は笑ってしまった。


:姫さま、あれをトカゲだと

:姫は世間の俗物など知らないのです

:姉さんww

:姉さんの変顔やばい!

:姉さんやっぱ好き

:姫にバカ受けしてる


「っていうかあれだよね。あたしが言うのもなんだけど、いつも二人だけで潜ってんでしょ? 大丈夫なの?」

「あ、大丈夫ですよ。でも、最初はやっぱり心細かったですね。今はレムちゃんがいてくれるので」

「そうそう! あのマシーンみたいなモンスターみたいな撮影係さん。いつから一緒なの?」

「えーと、一緒に活動を始めたのは、大体一年半くらい前ですね。まだ配信してなかった頃なんですけど」


:ダンジョン探索者って活動と同時に配信してるもんだけど、姫は違ったのか

:じゃあ配信してなかった空白の期間があると

:なんか勿体ない気がする

:今だったら超レア映像ってことでプレミアつきそうやな

:姉さん興味津々じゃん

:変顔から急に真顔になるなww


「へええー! そういえばダン活自体は約二年してるらしいよね。でもたった二年でこんなに強くなるって凄くない?」

「え? そ、そうでしょうか。あたしってまだ全然かなって。だってランキング上位の人達とか、もう見た感じからヤバイじゃないですか」


 探索者のランキングは今や知らない者はいないほど世間から注目されている。だが、琴葉は最近までランキングを見ていなかった。この前少しだけ確認したのだが、強そうな人達ばかりだと、しみじみ感じていたのである。


「あー分かる。どっちがモンスターだよって感じするよね。……って待って!? あたしもランキング十位以内に入ってるよ!?」

「あ、そうですね! いえその、モンスターみたいってことじゃなくて、なんかすっごく強そうなオーラ出てるっていうか」


 先輩のハキハキした返答とパス回しの速さに戸惑いつつ、なんとか琴葉は話を続けようとする。するとマネージャーが撮影の外から声をかけた。


「まどかさん、圧出ちゃってますよー。ごめんなさい姫さま! うちの円丈さん、外見と男の話になるとすぐ野獣になっちゃうんです」

「あ、そうなんですねー」

「ちょっと姫っち! 納得しないで! あたしはそんな血に飢えた感じじゃないから。まあ……いつでも素敵な出会い探してるケド?」


 若干意味深な空気を出しつつ、羽眼鏡をクイっと上げてみせるまどか。どう反応していいか分からない琴葉は、曖昧に微笑しながら石像になった。


「まどかさーん! 姫ちゃんが困ってます。素敵な出会いがあるといいですねー」

「すっごい棒読みのフォローやめて!」


:マネージャーww

:毎回外から止められてるなw

:姫さまのライフが激減してる

:姫さま、姉さんはここからです

:どんな男よりもオオカミな姉さん

:草

:どんだけ飢えてんの

:姉さんいつかファンにも手を出しそうw

:姉さん怖いよ

:姫、逃げて!


「ごめんねー。あたし、ちょっとばかしエンジンかかり始めてるわ」

「い、いいえー。あたしのほうこそすみませんっ」

「とまあ色々話したいこともいっぱいあるけど、あたし達若い女子にとって時間は有限なのよ。と言うわけでまず第一のテーマ! プロフィール紹介ーー!」


 突如まどかが大声を発しつつ、当初予定していた探索者プロフィールの紹介コーナーへと映る。いつの間にか彼女の手には、可愛らしい絵文字で書かれたパネルがあった。


「はい! というわけでそれぞれ軽ーく自己紹介しちゃお! っていうコーナーになります。じゃあまずはあたし、円丈まどかから紹介するね。まあ、大体今まで言ってきたから、ここのみんなは知ってるかな」


 円丈まどかのパネルには、こういったプロフィールが書かれていた。ちなみにプロフィールの内容自体は琴葉も初めて目にするものである。


 ======

 名前:円丈まどか(炎上じゃねえ!)

 身長:170ちょっと

 体重:ヒ・ミ・ツ

 年齢:22歳(エターナル22歳)

 探索者カードのタイプ:魔法タイプ(本当だって!)

 趣味・特技:円丈家秘伝魔法、歌、酒、ゲーム全般、声真似、ダンジョン学、英語、歴史、バイク

 夢・目標:探索で深淵クリア、恋活でイケメンGET

 ======


:炎上じゃねえ!www

:伝家の宝刀炎上否定w

:否定するほど真実になる不思議

:円丈って認識してる人どのくらいおるん?

:先生、プロフィールに明確な嘘があります

:姉さんもっと背高いでしょ

:身長小さめに書いてないか?

:姉さんは今年も来年も再来年も22歳

:プロフィールの化け物感

:深淵クリアより恋活のほうがハードル高そう

:姉さん、いつになったらイケメンGETするの

:お母さん頑張って

:多才なんだよなー

:どうしてこれでいい男が捕まらないのか

:もうモンスターと恋活しようぜ


「ちょっと! 誰がお母さんだ誰が!」

「ほええー、すっごいです! まどかさんって本当になんでも出来るんですね! 憧れます」

「でしょー。ほらー、みんなもこのくらいしっかり尊敬してね!」


:ほえー

:姫、めっちゃ瞳がキラキラしてる

:このちょっと抜けてる感じがいいな

:姫の雰囲気好き

:こんな子の憧れになりたい

:憧れる対象間違ってますよ姫

:姉さん普通に嬉しそう

:いけないわ

:草


 このプロフィールを見た瞬間、共演している後輩配信者は驚きに目を見張った。彼女の人生において、ここまで沢山の情報で彩られた自己紹介を見たのは初めてだ。特に探索者カードのタイプが気になっていた。


 探索者は最初に簡単なテストがあり、必ずどういった適性があるかを伝えられてから、諸々の情報が書かれた身分証明カードを与えられる仕組みになっていた。この適性の精度は非常に高く、間違いはほぼ存在しないと言われる。


「まどかさんの歌アーカイブでこの前聴きました! 魔法少女の曲とか最高で何度もリピートしたんです」

「あ、あれねー! ちょ、実際言われると照れちゃうわー」

「それとレースゲーム配信も観ました。とってもハラハラするんですけど、全然壁にぶつからないですよね」

「観てくれてたの? 嬉しい! 今度もっとハラハラさせちゃおー」

「わああ! やっぱり魔法タイプだったんですね。あたしもです」

「そうそうー、そうなのよー。みんなあたしがゴリッゴリの武闘家みたいに言うからやんなっちゃうわ。いっつもさー………って、ちょっと待って。え?」


 この時、円丈まどかが配信中に固まるという、貴重な出来事が起こった。

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