第26話 可愛い魔力測定器

 この時、違和感を覚えたのはまどかだけではない。

 視聴者達もまた、琴葉の発言に注目していた。


「あれ? どうしたんですか」

「いやいやいや! だってさぁ、姫っちはあたしと同じ魔法タイプってことなんでしょ? でも配信を見る限り、いつも拳でバケモンを粉砕しまくってるわけじゃん」


 ようやく事情を飲み込んだ琴葉は、苦笑いしつつ頭を掻いた。


「あ! そういうことですね。えーと、ちょっと言い難いんですけど、レムちゃんにしばらく魔法は使わないほうがいいって止められてて」

「止められてる? なんで!?」

「なんか、死人が出ちゃうって言われて、あはは」

「し……死人!?」

「あたし、あんまり上手くできなくて、けっこう失敗しちゃうんです」


:魔法の使用を止められてる魔法タイプってなに?

:なるほどねー。適正があっても得意ではないと

:姫は打撃のほうが実際は向いてたって話か

:でも、あれだけ規格外の打撃ができる上に魔法も使えるっていうのはシンプルに凄くね?

:姫さまの印象が変わってきた

:とんでもなく恐ろしい国のお姫さまかもしれん

:だから打撃を磨きまくってんのか

:でも、だったら打撃じゃなくて剣とかでよくないか?

:謎は深まるばかり

:ファーーー!?

:ミステリアスヒメノン

:どういうことだってばよ!?


「ちな、どんな魔法使ったりするワケ?」

「えーと、初歩的なものですね。ファイアボールとか、アイスシュートとか。あ、光魔法だったら、わりといけるかもです。他は失敗が多くて」

「失敗多いんかー。まあ、覚えたてのうちはしょうがないよね。上手くなりたい?」

「はい! せっかくなので、上手くなりたいです」

「おっし良い返事! じゃあ今度ダンジョンで、お姉さんが使い方教えちゃおっかな!」

「え!? いいんですか!」


 大先輩の突然の提案に、琴葉は喜びのあまり席から立ち上がった。ダンジョンコラボまでは約束していた話だったが、魔法を教わることは想定外であり、彼女にとってこれ以上ない朗報だった。


「もちろん! さーて、次は姫っちのプロフいっちゃいますぅ?」

「はい! こちらになりますっ」


 少々慌てつつ、琴葉はマネージャーから受け取ったパネルをカメラに向け席に戻る。ヒメノンのプロフィールはこう書かれていた。


 ======

 名前:ヒメノン

 身長:158センチ

 体重:秘密

 年齢:15歳

 探索者カードのタイプ:魔法タイプ

 趣味・特技:ダンジョン探索、プリン、宝箱、スイーツのお店とかカフェに友達と行く、カラオケ、可愛いグッズ、ゲーム、特技はないかも(>人<;)

 夢・目標:世界中のダンジョンに潜って、宝箱をいっぱいGETしたい、料理が上手くなりたい、テストの点数を上げたい(特に数学)

 ======


:おおーーー

:これは普通(?)の女子ですね

:趣味はプリン、覚えました

:そういえば探索の時もプリントラップにハマってたなww

:宝箱が強調されてる

:宝箱ってわざわざ書く人珍しい

:探索っていうか宝箱欲しい人みたいになってる笑

:かわいい

:やっぱ体重は秘密かぁ

:魔法タイプがこれほど似合わない探索者も珍しいよね

:ダンジョン以外の書き込みは普通だわ

:癒される(^^)

:姉さんほどゴッツイ感じではないな

:姫さまーー

:なんか可愛い


 彼女のパネルを眺める視聴者達は、先ほどとは打って変わって和やかなムードになっていた。まどかはパネルの中をまじまじと見つめ、ふっと嘆息した。


「十五歳かぁ……」

「あれ? なんか遠い目になってません?」

「ん、ああー別に!」


:若いって良いな、って気持ちが溢れてるw

:姉さん……年齢のことは諦めましょう

:これが若さか、っていう表情ww

:チャット欄、姉さんの気持ちを察するのが早過ぎだろ


「こら! 人の心を読むな! でも良いじゃーん。あたしもスイーツのお店巡りとか好きだわ」

「一緒ですね! しょっちゅう食べ過ぎになっちゃうんです」

「分かるー! 胃もたれしちゃう」

「え? あ、苦しそう」

「素早いフォローありがと。そっか! 姫っちはまだ胃もたれしないか」


:ナチュラルに違いが出てて草

:これが若さか定期

:あれ? もしかして姉さんと姫さまってダブルスコ……おっと誰か来たようだ

:そろそろ逆鱗に触れるぞww

:だんだん姫も姉さんの地雷に気づき始めたな

:まさか胃もたれするって言われるは思わんだろw


「チャット欄、もっとオブラートに包まんかい! っていうかヒメノンの夢が一番気になったんだけど、ダンジョンっていうより宝箱なの?」

「そうなんです! あたし宝箱自体も中身も大好きで、ゲットするのが楽しみで潜ってます」

「また意外だわー! そういえばさ、いつも宝箱持ち帰ってんの?」

「あれ? 持ち帰りません?」


:ナチュラルにすれ違うトーク

:草

:いやいやいやいや

:姫さまのスケールが大き過ぎる

:宝箱持ち帰り派対考えたこともなかった派

:宝箱って持ち帰るものなん?

:宝箱持って帰ってるのって姫さまだけじゃね?

:探索でもチャットで言われてたやつだw

:圧倒的に噛み合ってない雑談回w

:草だわw

:wwwww

:どうなっちゃうのこの配信


 琴葉はちらりとチャット欄を目にして、自分と周りとの違いに驚いていた。前回の探索配信でも言われていたのだが、緊張ですっかり忘れていた。


「持ち帰ってる人とか見たことないかも! あたしの場合、このくらいの袋を持ってるんだけど、お宝はそれに入るくらいまででやめて帰るかな」

「あ、たまに配信に映ってますよね。なんか$マークとか似合いそうな袋」

「そうあれ! っていうか、なんでそんなに宝箱好きなの?」

「ええーと。なんかすっごくキラキラしてるし、可愛いからです!」

「か、可愛い……か」


:姉さんがリアクションに困ってるw

:草

:姫さま、天然過ぎますぞ

:宝箱が可愛いという新概念

:確かに箱自体に宝石ついてる場合も多いし、キラキラはしてる

:こんなにふんわりと圧倒されてる姉さんを見るの初めてだわw

:草

:姫っちに翻弄される姉さん

:まどかのライフが鬼減りしてる!

:ww

:やばい

:仕事なんて放棄して、このやりとりをずっと見てたいw


 チャット欄が不思議なやりとりで意外にも盛り上がるなか、雑談はその後も続いていった。


 ヒメノンとして活動することになったきっかけは中学二年生の時、友達みんなでダンジョン上層を潜ったこと。それからハマったけど友達は参加してくれず、かといってギルドで知らない人と組むのは怖かったので一人でずっと潜っていたこと。


 まどかは徐々に彼女のダンジョンへの情熱が本気であることを確信し、瞳に力が入ってくる。


(ヤッバイわぁ……あたし、この子と正式にパーティ組みたいかも)


 自分と同じように情熱を燃やす少女の話に聞き入っていると、マネージャーが手を振りつつカンペを見せてくる。彼女はハッとして、この話を切り上げることにした。


「いやー! 超いい話を聞かせてもらったわ。さすがドラゴンワンパン娘は違うね!」

「い、いえ! それほどでもないです」

「さて、そんな盛り上がってきたところで、本日の目玉! 勝手に魔力測定しちゃおのコーナー!」

「え!? 魔力測定ですか」


 これは台本には詳細が書かれておらず、定常コーナーという書き方がされていた。琴葉はあわあわとした風体になり、まどかはつい微笑んでしまう。


「まずかった? 魔力がどんだけあるかって、けっこう露骨だもんね。あたしは全然オープンにしてるけど、姫っちはお察し案件?」

「え、あ、全然大丈夫なんですけど、その。以前魔力計壊しちゃったので、またしちゃうかもって思ったんです」

「あー! なるほどね。その一見細い指先には、剛の者が宿っちゃってる感じだ。もう握力ギンギンなわけ?」

「は、はいー」


:魔力計測って握力計みたいな感じだっけ

:そりゃあんだけパワーに溢れてれば潰しちゃうよね

:見た目と握力が違い過ぎて怖いわw

:姉さんがギンギンっていうと下ネタ感凄い

:っていうかもう同接22万超えてね!?

:やべー!

:姉さん、なんとかして計測させて!

:姫の魔力が知りたいでござる


 しかし、まどかは心配する後輩をよそにホクホク顔だ。台車に乗って運ばれてきたのは握力計の兄弟を思わせるそれではなく、なんと白い小動物のようなAIペットであった。見た目はうさぎに近い。


「あっはっは! バッチリ任せておいてよ。そんなこともあろうかと、今日はウチの会社特製のファンシー魔力測定器を持ってきたわ」

「え、ファンシー魔力測定器?」


 二人の間には丸テーブルが置かれ、そこに魔力計ペットを置きスイッチを入れる。すると、ぴょこぴょこと忙しなく動き始めた。


 この動きに、琴葉はすっかり魅了されてしまう。


「この子、可愛いー!」

「でしょー! あたしの超お気に入り! じゃあこの子を使って、あたし達の最新魔力を測定しちゃおうZE!」

「はい! よろしくお願いしますっ」


 楽しくなってきた二人は、さっそく本日の目玉コーナーに挑戦することになった。

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