第18話 隠されていた世界
ボスを撃破したかと思えば、急に何を思ったのか壁を殴り始める少女。あまりにも突拍子のない行動に、視聴者達は呆気に取られていた。
しかし、相棒は彼女の考えを理解したのか、ただ静かに状況を見守っている。激しい音と共にダンジョンの壁に穴を空けると、隣の壁を殴ってを繰り返している。
:姫さま?
:どうした!?
:やばい。姉さんの登場で壊れちゃったの?
:なんで壁をww
:あんな硬いの殴って、どうして拳が壊れないのか
:ダンジョン壁が負けてるww
:穴空きまくってるけど
:なんで殴ってるの?
「あれー? この辺りっぽいんだけど」
どうやら琴葉自身も、悩みながら殴っているようだ。横にずれながら殴って壁を陥没させるという行動を繰り返していると、とある場所で変化が起きた。
「ア」
「あったーっ」
殴られた壁から大穴が発生し、中から細い通路が現れた。どういうわけか奥へと向かう通路は全てが白塗りとなっており、ここから先が特別な何かであることを予感させる。
「なんかお宝の匂い? みたいなのがしたんです! だから隠し通路がありそうだなーって思ったら、当たってました!」
「姫サマハ、並ミノ盗賊ヨリ鼻ガ利キマス」
「え? やだー、盗賊なんて。トレジャーハンティングだよ」
:えええええ!?
:隠し通路か!
:ダンジョンで隠し通路見つけるって、何気にすごい才能なんだよなあ
:姫さま、レムちゃんの言う通りです
:姫さまはぬすっと
:やばいワクワクしてきた
:この先に何があるんだ
:盗賊ネキ
:ってか今更だけど、何気にほぼソロで下層ボス倒した事実に驚愕してる
:情報量多すぎてめっちゃ価値高い配信になってるよな
:姫さまがスゴスンギ
「お宝♪ お宝♪」
チャット欄よりも通路の先が気になって堪らない琴葉は、鼻歌を歌いながらずんずん進んで行った。通路は一見するとどこまでも続いているように見える。
しかし、ある一定まで歩き続けた時、不意に奇妙な揺らぎがカメラの画面に生じていた。
「幻覚混ジリノ空間デス。モウチョットデ抜ケマス」
「そうだね! 後少しで、多分——」
言いかけて、琴葉は足を止めた。幻覚効果のある通路をひたすら進んだ先、目前に現れた光景に目を奪われている。
それは湖に囲まれた空間であった。通路の先に正方形のフロアがあり、中心には赤地に金枠の宝箱が九つも置かれている。まさに特別な宝物庫だ。
琴葉は、このあまりの特別感のある宝箱達に目を奪われ、プルプルと震えていた。
「す、すごぉい! すっごいです! みなさん、あれが見えますか」
:姫さま、めちゃ感動しとるww
:相当レアなアイテム入ってそう
:超貴重な映像だろこれ
:なんだ? 何が入ってんだ?
:姫さまが嬉しそうで何より
:ボーナスステージじゃん!
:俺も行ってみたい!
:すげー
:うわああああ
「そうなんです! 超ボーナスステージです。じゃあレムちゃん、行っくよー!」
「ハイ」
しかし、陽気に宝箱が待つフロアへ駆け出そうとしたその時、またしても奇妙な変化が訪れる。黒いモヤがいくつも発生したと思った矢先、それらは人外の形を帯びた怪物へと姿を変えていった。
黒く大きなそれは、明らかに先ほどまで見覚えのあったモンスターへと変貌していく。さらにそのモンスターは一匹だけではなく、なんと四角いフロア自体を埋め尽くさんばかりに出現した。
「あ! さっきのカマキリちゃん」
「シカモ進化状態デス。推定三十匹以上イマス」
このとんでもない状況に、視聴者達は驚愕していた。
:えええええええーーー
:なんでこんなに出てくるんだよ
:ちょっと待って、無理ゲーすぎん?
:さっきのボスカマキリが、いきなり三十匹って
:絶望的過ぎる
:これだけのモンスターを守らせてる宝箱くんの中身って一体
:姫、これは無理です。撤退を
「うーん。どうしてこんなに出てきちゃうんでしょうね。なんかアレです、それだけ宝箱の中身がレアってことだと思います。何度かこういうの見たことあるんです」
:姫さまは経験済みだったか
:え? え?
:どれだけ修羅場潜ってるんです?
:しれっと今日イチでやばい発言が
:宝物庫の常連ってことでおけ?
「姫サマ、キマス」
「あ、はーい!」
レムスは相手の攻撃が迫っていることを察知した。マオウカマキリの集団は一斉にカマを振り上げて威嚇のポーズを取り、そのままこちらへと走り出した。
そして猛スピードでこちらへと向かいながらも、身体中を赤く点滅させる。縦横無尽に暴れ回った全方位ファイアボールが一斉に放たれたのだ。
:ちょ、
:えええ
:は!?
:いやいや
:なんだよこれええええ!
:え!? ファイアボール乱射しながら走ってくんの?
:どう考えても無理
:難易度高すぎだろ!
:ってか同士討ちにならないのか
:やばいやばいやばい
「進化マオウハ火ヲ反射スル特性ガアリマス」
「もう滅茶苦茶になってるね。じゃあ行ってきます!」
一体でも地獄絵図と化していたファイアボール乱舞。それが数十匹同時に展開され、隠しフロア内は絶望の世界へと姿を変える。
大抵の探索者であればここは逃げの一手しかない。誰もが背中を向けるべきタイミングで、彼女は自分の中にあるアクセルを踏み込む。
マオウと相対するようにダッシュすると、すぐさま降り掛かる火の玉へと拳をぶつけた。
「!?!?!?!?!?」
あり得ない状況に最初に気づいたのは、先頭を駆けていたマオウカマキリだ。物量的にどうしようもないはずの火球の群れ。それらが一瞬のうちに消し飛ばされ、続いて目にも止まらぬ正拳突きが襲いかかってくる。
一発飛んできたと思ってきた時には、すでにモンスターは倒され、そのまま吹っ飛んでいった。琴葉は単純な正拳突きの連打だけでファイアボールを消しとばし、モンスター自体も破壊して吹き飛ばしている。
:なんだああああああ!?
:ぎゃーーーーー
:姫百裂拳!!!!
:ひいいいいいいい
:力こそパワーーーーー
まどか:ちょ、ちょオオオオオオオ!?
:ぎやあああああ
:姫さま、マジで強すぎんか!?
:こんなすげえ女の子がいたなんて
:カマキリの軍勢が、逆に狩られてる!
:きゃああああああ
:超常現象過ぎるってば!
コメント欄が信じがたい光景にパニック状態に陥る。気がつけば同接は十三万を突破。かつてない常軌を逸した配信が、その異常さを加速している。
「姫サマー、撮レ高! 撮レ高!」
「そっか! もうちょっと派手にしないとだね。よーし」
琴葉はチャット画面が見れておらず、既に視聴者がオーバーヒートを起こしつつあることを知らなかった。もっと派手な動きを見せようと、ほんの僅かに空いた前方の空間に身を投げ出した。
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